電線管の種類・選び方・施工と維持管理:建築・土木で知っておくべき実務ガイド
はじめに:電線管とは何か
電線管は、電線や光ケーブルを保護し配線経路を確保するための管材の総称です。外力や湿気、化学物質、火災時の熱などからケーブルを守り、配線の整理・更新・保守を容易にする役割を持ちます。建築・土木の現場では屋内配線、屋外露出、埋設、コンクリート封入、可とう(フレキ)配管など多様な状況に応じた電線管の選定が要求されます。
主な電線管の種類と特徴
金属製電線管:鋼管(亜鉛めっき鋼管)、ステンレス管、アルミニウム管など。機械的強度に優れ、耐衝撃性・防鼠性が高い。金属製のため導電性があり、適切に接続すればアース(接地)導体としての機能を持たせられる場合がある。屋外や埋設での機械的保護が必要な箇所や、耐熱性が求められる場所によく使われる。
合成樹脂製電線管:硬質塩化ビニル(PVC)管やポリエチレン(PE)管など。軽量で加工しやすく耐食性・耐候性に優れる。電気絶縁性があるため導電性を必要としない配線に適する。屋内の隠蔽配線や埋設(専用PE管)で多用される。
可とう性(フレキシブル)電線管:金属製フレキや樹脂製フレキ(しなやかなスパイラル形状)など。設備機器の出入口や可動部の配線、振動や地盤変動に追従が必要な箇所に用いる。施工時の取り回しが容易で、既設設備への追設でも重宝する。
導入用ダクト・ケーブルダクト:複数の回線をまとめて敷設するための大型ダクトやスロット付きのトレイ類。高容量配線や情報通信配線を効率よく収容するために用いられる。
材質ごとの長所・短所
鋼管:強度・耐衝撃性が高いが、腐食対策(亜鉛めっき、塗装、被覆)が必要。ジョイント部の防錆や導通確保に注意。
ステンレス管:耐食性に優れ、沿岸部や化学プラントで有利だがコスト高。
PVC・樹脂管:軽量で施工性が高くコストも抑えられる。直射日光や高温下での経年硬化、紫外線劣化に注意。燃焼時の発煙や有毒ガス生成の特性も考慮する。
PE・HDPE管(埋設用):柔軟性と耐久性が良く、地中の凍結融解や微細な地盤変動に強い。直接埋設や通信ケーブルの保護に適する。
設計・選定時のポイント
設置環境:屋内か屋外か、露出か埋設か、化学的腐食の可能性(海岸、工場)や高温環境の有無を確認する。屋外では耐候性と紫外線対策が必要。
機械的負荷:通行や重機の通過がある場所、地盤圧がかかる埋設部では金属管や耐荷重性の高い管を選ぶ。
防火・区画貫通:防火区画を貫通する場合、貫通部の遮断・充填(防火措置)を行う必要がある。火災時の継続的な保護と煙ガス対策を考慮する。
ケーブルの収容性:使用するケーブルの外径と本数から管内占有率(充填率)を計算し、引き込みや将来の増設を考慮して余裕を持った径を選ぶ。
曲げ半径と配管レイアウト:ケーブルの曲げ半径制限に合致するよう配管経路を設計する。過度な曲げは導体被覆を損傷させる。
接地・導通:金属管を接地導体として用いる場合は、継手やボックスでの導通確保と検査を行う。
施工上の留意点
配管支持と取付間隔:垂直・水平に適切な間隔で支持金具を設け、たわみや振動を抑える。屋外では気温差による伸縮も考慮する。
継手とシール:継手部は確実に締結し、屋外や埋設部では防水シールを施す。樹脂管同士の接着やソケット工法はメーカー指示に従う。
貫通部の防火処理:壁や床の防火区画を貫通する際は、防火パッキンや耐火充填材を用いて所定の耐火性能を維持する。
引込(プル)作業:長距離の引込みではワイヤー用潤滑剤を用い、摩擦低減と被覆破損の防止を行う。屈曲部への無理な引き込みは避ける。
コンクリート封入時の配慮:コンクリート中に埋設する場合、コンクリートのアルカリ性や充填材との相性を考慮し、専用の被覆管や耐アルカリ性の材料を選ぶ。
維持管理と点検項目
定期点検:外観点検で破損、亀裂、めっき剥離、固定金具の緩み、継手の腐食・浸水を確認する。
導通・接地抵抗の確認:金属管を接地導体として利用している場合、接地抵抗や導通を定期チェックする。
貫通部の防火措置点検:防火パッキンや充填材の状態を確認し、劣化があれば早期補修を行う。
埋設部の監視:地盤沈下や外力による損傷が疑われる場合は開示調査や非破壊検査(地中レーダなど)を検討する。
劣化・故障事例と対策
腐食:鋼管のめっき剥離や浸食は接続部から進行しやすい。対策として耐食材料の採用、防錆処理、陰極防食や防食塗装の検討を行う。
樹脂管の脆化・割れ:紫外線や高温で樹脂が劣化して割れることがある。屋外では耐候性の高い製品や遮光保護を用いる。
貫通部の不適切な処理:防火処置が不十分だと火災拡大を招く。設計どおりの材料・工法で施工し、完了検査で確認する。
導通不良:継手や接地ボルトの緩みで接地が確保されないことがある。定期的な導通検査とトルク管理が重要。
現場で役立つ実務チェックリスト
設置環境(屋内/屋外/埋設)を明確化したか
ケーブル本数と外径から充填率を計算したか
曲げ半径、支持間隔、防護が適切か
貫通部の防火措置・気密措置は図面どおりか
金属管の接地導通確認を行ったか
材料の耐候性・耐薬品性・耐熱性を確認したか
最近の動向と技術トレンド
施工性向上や省人化を目的に、プレキャスト構造物へのプレインストール管や、ケーブルを引き込みやすくするための滑り性の高い内面コーティング管、情報通信と電力を分けて効率的に配線する統合ダクトシステムなどが普及しています。環境面ではPVCのリサイクルや代替材料の採用検討が進んでいます。地震対策としては可とう性の高いフレキシブル配管や伸縮継手の採用が増えています。
まとめ
電線管は単なる「管」ではなく、配線の安全性、保守性、将来の拡張性、防火性に直結する重要部材です。材料ごとの特性、設置環境や法令・規格(電気設備に関する技術基準や建築基準の要件)を踏まえて最適な製品と施工法を選定し、適切な防食・防火処置、導通確認、定期点検を行うことが長期的な安全と経済性につながります。
参考文献
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