発電機の選び方と現場設置・運用の完全ガイド(建築・土木向け)

はじめに

建築・土木工事現場では、安定した電力供給が施工品質、安全性、作業効率に直結します。停電時のバックアップや仮設電源として用いられる発電機(発電装置、発電機セット=Genset)は、選定・設置・運用を誤ると工期遅延や安全リスク、余計なコストを招きます。本コラムでは発電機の原理、種類、選定方法、設置・運用上の注意点、保守・点検、法規・環境対策、トラブルシューティングまで、建築・土木現場で実用的に役立つ知識をまとめます。

発電機の基本原理と主要構成要素

発電機は電磁誘導の原理(変位する磁束が導体に起電力を生じる)で電力を作ります。回転する機械部分(ローター)と静止する部分(ステーター)があり、ローターの回転によりステーターに交流電圧が誘導されます。同期発電機と誘導発電機(非同期発電機)があり、商用電源や大型Gensetでは同期機が主流です。

  • エンジン(主にディーゼル・ガソリン・天然ガス): 回転力の源。
  • 発電機本体(オルタネータ): ローター/ステーターで電圧を生成。
  • 励磁装置/AVR(自動電圧調整器): 電圧を一定に保つ。
  • 制御盤(コントローラ): 周波数・出力制御、保護、メーター。
  • 始動用バッテリーと充電器。
  • 燃料タンク、排気系、冷却系、防音・防振架台。

周波数と回転速度の関係

同期機では電源周波数f(Hz)と回転速度N(rpm)、極数Pの関係式が成り立ちます。式は N = 120 f / P 。例えば50Hzの4極機は1500rpm、60Hzの4極機は1800rpmです。現場の商用電源周波数(50Hz/60Hz)に合わせた選定が必要です。

発電機の種類と用途

  • ディーゼル発電機: 建築・土木現場で最も一般的。高トルク、燃料入手性、耐久性に優れる。
  • ガス発電機(天然ガス/LPG): 排気がクリーンで騒音・振動が低め。都市部や環境配慮が必要な現場向け。
  • ガソリン発電機: 小型・軽量で一時的な小電力用途に適するが、燃費や耐久性は劣る。
  • インバータ発電機: 出力波形が高品質で精密機器に適す。燃費が良い場合が多いが容量は小〜中規模。
  • 非常用スタンバイとプライム(連続)用途: スタンバイ(非常用)は停電時の短時間使用、プライムは連続運転や長時間負荷向け。

容量の決め方(kW と kVA、力率)

発電機は通常kVAで定格が示されます。実際に使える有効電力kWは力率(PF)で決まります。式は kW = kVA × PF 。建機や照明、一般負荷のPFは0.8前後を想定することが多いです。選定ではピーク負荷、モーター起動電流(突入電流は定格の6〜8倍になることがある)、同時使用率を考慮し、余裕(通常20〜30%)を見て容量を決めます。

同期・並列運転と負荷分配

複数台を並列運転する場合は同期(周波数、電圧、位相、位相順序)を合わせる必要があります。同期にはシンクロスコープや自動同期装置を用い、負荷分配はドロップ制御(droop)やリモートコントロールで行います。並列運転は冗長性や保守性を高める一方、制御・保護が複雑になります。

設置・据付のポイント(現場実務)

  • 基礎と防振: 発電機は振動を発生するため、防振マウントと十分な支持基礎が必要。
  • 排気・換気: 排気ガスの流れとCO(一酸化炭素)対策、エンジン冷却用の換気経路確保。
  • 燃料保管: 燃料タンクは消防法・地域条例に従った二重構造や防火措置、二次放流対策(バンキング)を実施。
  • 接地(アース): 零相遮断や漏電防止のため適切な接地を行う。
  • アクセスと点検スペース: 日常点検・整備が容易に行える配置。
  • 防音・防火: 都市部や宿舎近傍では消音ボックスや遮音壁、火災対策を検討。

安全・環境対策

発電機運用での主なリスクは一酸化炭素中毒、火災、油漏れ・土壌汚染、騒音、排ガスです。密閉空間や地下での運用は厳禁で、換気とCO検知器の設置は必須。燃料や廃油の管理は消防法・地方条例に従い、漏洩時の即時対応計画を準備してください。また排ガス規制や騒音規制に適合する機種を選定します。

保守・点検の実務

  • 日常点検: 燃料・オイル・冷却水、目視での漏れ、バッテリー電圧、警報ランプの確認。
  • 定期整備: 250/500/1000運転時間ごとのオイル・フィルタ交換、バルブ調整、燃料噴射点検等(メーカー推奨に従う)。
  • 負荷運転試験: 定期的な負荷運転で冷却系、充電系、制御系の動作確認。年1回以上のロードバンク試験推奨。
  • 蓄電池管理: 始動バッテリーの点検、充電器の監視。

電力品質とトラブル対策

非線形負荷(インバータや大型UPS、溶接機など)は高調波を発生し、発電機の過熱や電圧歪を招きます。必要に応じて静電フィルタ、同相トランス、またはUPSの導入を検討してください。突入電流対策としてはソフトスタータやVFD(可変速ドライブ)を併用する方法があります。

経済性とレンタルの選択

発電機の購入は初期投資が大きいため、短期間・変動する現場にはレンタルが合理的です。長期運用や頻繁な使用では購入が経済的。燃料コスト、メンテナンス、運転員の人件費、減価償却を加味して総保有コスト(TCO)を算出してください。

法規・規格(代表例)

  • ISO 8528(発電機セットの性能・試験方法)
  • IEC 60034(回転機の規格)
  • 日本の消防法(燃料貯蔵・危険物の取り扱い)および労働安全衛生法に基づく安全措置
  • メーカーの仕様書・JIS規格など

現場でよくあるトラブルと対処法

  • 始動できない: バッテリー不足、燃料不足、燃料フィルタ閉塞、始動モーター不良を順に点検。
  • 電圧不安定: AVRの故障、励磁装置不良、接続不良を確認。
  • 過負荷・頻繁な警報: 負荷の再評価と不要負荷の削減、並列運転の調整。
  • 過熱: 冷却水不足、ラジエータ詰まり、空気流路不良。
  • 異音・振動: マウントの劣化、バランス異常、軸受不良。

導入事例(簡易紹介)

都市部の高層マンション建設現場では、騒音規制のため防音カプセル付のディーゼル発電機を用い、現場内分電盤とATS(自動切替器)で施工用電源と非常用を切換え。郊外の舗装工事ではガス発電機と太陽光の併用で燃料コストと排ガスを削減する事例も増えています。

最後に:選定チェックリスト(現場監督向け)

  • 必要な出力(kW)と想定力率、突入電流を算出したか。
  • 運転時間(スタンバイかプライム)に応じた定格を選んだか。
  • 燃料供給と保管、排気経路、換気を確保しているか。
  • 騒音・振動対策、近隣配慮を行っているか。
  • 点検・保守体制、緊急連絡先、ロードバンク試験の計画があるか。
  • 法規・許認可(消防署届出等)に適合しているか。

参考文献