建築・土木で使われる防振ゴムの選び方と設計ポイント:材料特性から施工・維持管理まで
はじめに — 防振ゴムの役割と重要性
防振ゴムは、建築物や土木構造物、機械設備において振動や衝撃を低減し、耐久性・快適性・耐震性能を高める重要な部材です。小型の機械用ゴムパッドから大型の積層ゴム支承(ラミネーテッドラバーベアリング)まで用途は多岐に渡り、適切な選定と設計が行われないと期待する性能を発揮できません。本コラムでは、防振ゴムの基礎知識、材料特性、設計・選定の実務的ポイント、施工・維持管理、適用例と注意点を詳しく解説します。
防振ゴムの種類と代表的用途
- ゴムパッド(アイソレーターパッド):空調機、発電機、ポンプなどの設備振動対策に用いられます。圧縮・せん断を利用して振動を吸収します。
- 防振ゴムマウント(機械用アイソレーター):金属プレートやボルト一体型の振動支持具で、取り付けが容易で高い絶縁性を持ちます。
- 積層ゴム支承(ラミネーテッドラバーベアリング):橋梁や免震建物で用いられる大型の支持体。鋼板とゴムを交互に積層して水平剛性を下げ、水平変位とダンピング性能を確保します。
- 天然ゴム・シリコーンなどの専用緩衝材:低温環境や高温環境、薬品・油に対する耐性を求められる用途で材料を選択します。
材料特性:何を見て選ぶか
防振ゴムの特性は主に弾性(剛性)、粘弾性(減衰特性)、耐久性(圧縮永久ひずみ・クリープ)、環境耐性(温度、オゾン、薬品、油)に集約されます。
- 剛性(静的・動的剛性):支持荷重に対する変位の関係を示します。剛性が低いほど固有周波数が下がり、低周波の振動を隔離できますが、過大変位や偏荷重に注意が必要です。
- 減衰(ダンピング):材料内部のエネルギー散逸特性。ゴムは粘弾性材料であり、振動エネルギーを熱として吸収します。減衰比は材料・周波数で変化し、一般に数%〜数十%の範囲になります。
- 温度特性:ゴムの弾性と減衰は温度に敏感です。低温では硬化・脆化、高温では軟化・クリープが進行するため使用温度域を確認します。
- 耐候性・耐薬品性:オゾン、紫外線、油剤・溶剤に対する耐性は材料種で大きく異なります。屋外で長期暴露される場合はEPDMやシリコーンなどが有利なことが多いです。一方で油に曝される可能性がある環境ではNBR(ニトリルゴム)等が用いられます。
設計・選定の実務ポイント
現場での選定は単に素材を決めるだけでなく、荷重、求められる固有周波数、許容変位、耐久性、取付条件を総合的に判断します。
- 荷重と安全率:静荷重・動荷重を見積もり、許容圧縮ひずみや支持荷重に基づいてサイズと硬度を決定します。動荷重の大きい場合は安全率を高めます。
- 目標固有周波数:振動隔離では支持系の固有周波数を励振周波数より十分低くするのが基本です。単自由度系の固有周波数は f_n = (1/2π)·√(k/m) で表されます(k:剛性、m:質量)。目安として励振周波数の1/√2倍などのルールが使われることがありますが、実際は減衰比も考慮します。
- 許容変位とクリアランス:防振材の静的および動的変位量が許容範囲内かを確認。特に積層ゴム支承等では大きな水平変位が発生するため突出部や隣接構造との干渉を確認します。
- 周辺構造との接合方法:ボルト締め、接着、埋設など取付方法により応力集中や耐久性が変わります。接合面の仕上げ・防錆処置も重要です。
積層ゴム支承(免震・制振用途)の特徴
橋梁や免震建物に用いられる積層ゴム支承は、薄い鋼板とゴムを交互に積層して構成されます。これにより鉛直荷重に対する支持力を確保しつつ、水平方向の剛性を低く抑え、免震効果を発揮します。中にはリードコアを組み込んだ摩擦や塑性エネルギー吸収を行うタイプ(鉛心ゴム支承)もあります。
設計上は鉛直支持能力、水平剛性、許容水平変位、疲労・耐久性、長期クリープが評価項目になります。道路橋示方書や各国の橋梁標準に設計基準が示されていますので、参照して設計を行ってください。
施工・試験・検査
- 受入検査:寸法、外観、硬度(ショアA)、静的荷重時の沈み量などをメーカー試験表と照合します。
- 現場試験:求められる場合は動的特性(固有周波数、減衰比)の現地検査を実施します。特に免震支承では耐震試験や長期性能試験が重要です。
- 施工上の注意:ゴム部分を過度に引張ったり、鋭利なエッジと接触させないこと。固定ボルトの締め付けトルクや嵩上げ材の使用にも注意します。
耐久性・劣化とメンテナンス
ゴムは長期使用で圧縮永久ひずみ、クリープ、オゾンひび割れ、加硫劣化等が生じます。これらは環境(温度・紫外線・油)や荷重履歴に依存します。定期点検では外観(亀裂・変形)、寸法変化、支持性能の変化を確認し、必要に応じて交換計画を立てます。免震支承など重要構造部材は長期性能評価や予防的交換ルールを設けることが望まれます。
よくあるトラブルと対策
- 振動が除去できない:選定した剛性が高すぎるか、励振周波数と支持系の固有周波数が近接している可能性があります。製品仕様を見直し、固有周波数を低くするか減衰を増やす対策を行います。
- 偏荷重による過度な変形・偏摩耗:支持鋼板の剛性不足や設置面の不陸が原因。設置面を補強し、偏荷重を軽減する構造に変更します。
- 油や薬品による劣化:使用材料の選定ミス。NBRなどの耐油性材料へ切替える、または物理的保護(カバー等)を施します。
設計者への実務的アドバイス
- 設計段階で機器や構造の重量・振動スペクトル(周波数成分)をできるだけ把握し、目標とする減衰性能と固有周波数を明確にしてください。
- 材料メーカーのデータシート(剛性曲線、温度特性、圧縮永久ひずみ、耐候性情報)を必ず確認し、試験結果が得られる場合は現地での動特性確認を行いましょう。
- 特殊環境(高温・油・化学薬品露出・屋外長期)では、標準材料ではなく専用配合のゴムや二重保護構造を検討してください。
まとめ
防振ゴムは、材料特性と設計条件の組合せにより大きく性能が変わる専門部材です。単に硬さだけで選ぶのではなく、荷重、励振周波数、使用環境、寿命を総合的に考慮した選定が求められます。積層ゴム支承のような大規模構造物用から、小型機器用パッドまで、適切な製品選定・施工・維持管理を行うことで、安全で快適かつ長期的に安定した振動対策が可能になります。


