冷温水配管の完全ガイド:設計・材質・施工・維持管理までの実務ポイント

はじめに — 冷温水配管の重要性

冷温水配管は、空調システムの心臓部であり、冷水(チルドウォーター)や温水を効率的かつ安全に建物内に供給するための基幹設備です。配管設計・材質選定・断熱・支持・水質管理・調整などの各工程が性能、耐久性、エネルギー効率、快適性に直結します。本稿では実務者向けに設計の基本原理から施工上の留意点、維持管理までを詳しく解説します。

冷温水配管の役割と系統分類

冷温水系は用途や温度差により次のように分類されます。

  • 冷水系(チルドウォーター): 冷却機器からの冷水を空調末端へ供給(例: 6/12°C、7/12°Cの設定が一般的)
  • 温水系(ヒーティングウォーター): 暖房機器や熱源からの温水(例: 45〜80°Cの範囲)
  • 凝縮水・冷却塔系(コンデンサ水): 冷凍機の凝縮器側を循環する温度の高い水で、流速・材質設計は冷水系と異なる

配管方式には定流量方式、可変流量方式、一次二次分離方式(プライマリ/セカンダリ)などがあり、システム規模や制御方針で選択します。

配管材料の選定と特徴

代表的な配管材とその特性は次のとおりです。

  • 鋼管(炭素鋼): 大口径・高温高圧に適する。溶接継手が一般的でコスト面から大型ビルの幹線に多用。内部防食(エポキシ内面塗装など)が必要。
  • 銅管: 中小径で加工性・耐食性に優れる。熱伝導が良く、溶接やろう付けで接合するがコスト高。
  • ステンレス鋼管: 腐食性が高い場合や耐久性を重視する箇所に有効。初期コストは高いが長期では有利。
  • プラスチック系(PE、PEXなど): 軽量で施工性が良い。低温側や小口径配管、再生水系に採用されることがあるが、温度・圧力制限に留意。

選定時は流体温度、圧力、耐食性、保温処理、接合方式、経済性、メンテナンス性を総合評価します。

流量計算と熱量式

冷温水の基本的な熱量関係は次の式で表されます。

Q(kW) = 4.186 × V(L/s) × ΔT(°C)

ここでQは熱量、Vは流量、ΔTは供給・還りの温度差です。例として、冷房負荷100kWをΔT=5°Cで賄う場合、必要流量Vは約4.78L/sとなります(100 / (4.186×5) ≒4.78)。この計算を基に管径を決定し、許容流速・圧損とのバランスで最終決定します。

設計流速と圧力損失の考え方

設計流速は騒音、管内摩耗、ポンプ容量、圧力損失とトレードオフになります。典型的な目安は以下の通りです。

  • 冷水(チラー配管、一次系): 0.6〜1.8 m/s
  • 温水(暖房系): 0.5〜1.5 m/s
  • 凝縮水(コンデンサ水): 1.5〜3.0 m/s

配管内の圧力損失はダルシー・ワイスバッハ式やヘイズン・ウィリアムズ式で評価し、継手や弁の局所損失を相当延長で換算してポンプを選定します。圧損は長距離配管では重要な設計項目ですので、二次側の配管分岐やバランスバルブの位置付けを早期に決める必要があります。

継手・接合工法の種類と適用

施工性と保守性を考慮し、次の継手が使われます。

  • 溶接継手: 大口径鋼管の主幹線で一般的。高信頼だが現場管理と溶接品質が重要。
  • フランジ接続: 点検・分解が必要な機器接続部に使用。
  • ろう付け・はんだ付け: 銅管など小口径で用いられる。
  • グルーブ継手(例: ビクタル式): 施工が速く、メンテ性が良好。振動・伸縮に強い。
  • 機械式カップリング: 緊急修理やリノベーションで有効。

各継手の耐圧・耐食性を確認し、特に冷水系では防食措置と組み合わせた設計が重要です。

断熱と結露対策

冷水配管では結露対策が最重要です。適切な断熱材を選び、継手部・支持金物部の気密施工を徹底します。代表的な断熱材はニトリルゴムフォーム(NBR)、発泡ポリエチレン(PE)、硬質ウレタンなどです。断熱厚さは運用温度、周囲の温湿度条件、表面仕上げの要求により決定します。断熱欠損は腐食(CUI)や天井内の水濡れ事故につながるため、施工・検査を厳密に行ってください。

膨張・伸縮対策と支持構造

温度差による熱膨張は配管ひずみ、支持部の過負荷、バルブや機器の損傷を招きます。対策としては

  • エクスパンションジョイントやベローズジョイントの設置
  • エクスパンションループや蛇行配管の採用
  • 適切な固定点と滑り支持(ガイド)の配置
  • 耐震支持・可動支持の検討(特に日本のような地震多発地域)

支持間隔や支持方法は配管径・材質・重量により決まるため、設計マニュアルやメーカー指針を遵守してください。

空気・ガスの除去とドレナージ

配管内に空気が残ると熱交換効率低下、騒音、サーモスタット誤動作の原因になります。自動エアベント、エアセパレータ(ライン型エアコレクタ)、スパージング手順を用いて空気を確実に抜くことが重要です。また、末端にドレンが発生する場合は勾配やドレン配管の設計を行い、局所的な溜り水を防止します。

水質管理と凍結防止

冷温水系は基本的に閉ループであるため、適切な水質管理を行うことで腐食、スケール、微生物(バイオフィルム)を抑制できます。一般的な管理項目は次の通りです。

  • pHの管理とスケール抑制剤の添加
  • 溶存酸素の低減(脱気器や酸素スカベンジャーの使用)
  • 腐食・生物被膜対策としての防食剤の使用
  • 定期的な化学洗浄と循環水のサンプリング検査

凍結対策としては、屋外配管や凍結リスクのある箇所には不凍液(一般にプロピレングリコール推奨)を混入します。混合比は凍結温度、粘度増加、熱容量低下のトレードオフがあるため、メーカー提供のデータシートを用いて最適濃度を決定してください。なお、エチレングリコールは毒性があるため屋内の作業環境や漏洩時を考慮するとプロピレングリコールが選好される場合が多いです。

音・振動対策

流体音、振動は内部流速、弁やポンプの選定、支持条件で発生します。対策は以下。

  • 流速の抑制(設計流速の範囲内に収める)
  • 弁選定(スロットルによるキャビテーションを避ける)
  • 耐振動支持、ゴムやスプリングの防振材導入
  • ポンプや機器の基礎分離

施工上の注意点と品質管理

配管施工では溶接品質、傾斜・水平の管理、断熱施工、支持の取付精度、気密性が重要です。溶接部は非破壊検査(PT、UT)や目視検査を実施し、フランジ面やガスケットの取り扱いを徹底します。竣工前の水圧試験や熱負荷試験は必須であり、漏洩・圧損・バランスの確認を行います。また、可視化や将来のメンテナンス性を考え、識別ラベルや配管図の更新を忘れないでください。

試運転と水バランス調整

試運転では次の項目を順序立てて実行します。

  • エア抜きと真空引きによる初期の脱気
  • 段階的な加圧と漏れ確認
  • ポンプと可変速駆動の調整
  • フローメーターやバランスバルブで設計流量・ΔTを確保
  • 制御系(圧力差制御、温度制御、バイパス制御)の動作確認

設計ΔTが確保できない場合、配管容量・フロー不足・熱交換器性能不足などを原因解析し、一次・二次の調整やバルブ再設定を行います。

エネルギー効率と最新制御技術

運用段階ではポンプのインバータ制御、可変流量制御(VFD)、差圧制御弁の採用で消費電力を大きく低減できます。一次二次分離方式はチラー効率や制御の柔軟性を担保しますが、ポンプエネルギーの増大を招く場合もあるため、全体のエネルギー最適化が必要です。監視システムを導入して温度、流量、エネルギー消費をトレンド監視し、異常の早期発見と改善につなげましょう。

法規・基準・規格

日本国内では建築基準法や各種JIS規格、さらに各メーカーの施工マニュアルや業界ガイドラインに従う必要があります。国際的にはASHRAEハンドブックやCIBSEガイドも有益です。設計段階で適用規格を明示し、検査・試験項目を仕様書に定義しておくことが重要です。

維持管理と長寿命化のポイント

長期にわたる安定運用のために次を実施してください。

  • 定期的な水質チェックと必要に応じた化学洗浄
  • 断熱材の点検・補修と結露の監視
  • 可動部(弁、ポンプ)の予防保全と交換周期の設定
  • 配管支持や可動ジョイントの点検(特に地震後)
  • 設備更新時の配管レイアウト見直しと省エネ化

まとめ

冷温水配管は単なるパイプの集合ではなく、建物の快適性と省エネ性を左右する重要設備です。材料選び、継手方法、断熱、膨張対策、空気除去、水質管理、試運転とバランス調整まで一連の設計・施工・保守を総合的に管理することで、性能と寿命を最大化できます。設計段階で運用条件や将来のメンテ性を考慮した仕様書を作成し、施工・試運転・維持管理までのフローを明確化することを推奨します。

参考文献