建築・土木における労務単価の完全ガイド:計算方法・実務上の注意点・公共工事での扱いまで詳解
労務単価とは何か(定義と役割)
労務単価とは、建築・土木工事における「労働者1人あたりの単位当たり費用」を示す指標です。一般的には日当(人日単価)や時間当たり単価として扱われ、見積り・積算・原価管理において最も基礎的かつ重要な要素の一つです。労務単価は直接労務費だけでなく、企業の法定福利費や間接人件費、賞与・退職金引当などを勘案して算出するため、単純な賃金額(給与)とは異なります。
労務単価の主な構成要素
- 基準賃金(基本給・日給・時給):現場で支払われる直接の賃金部分。職種や技能、資格によって差が出ます。
- 法定福利費(会社負担分):健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などの事業主負担。給与総額に対する割合として計上されます。
- 賞与引当:年2回などの賞与相当額を年間費用として按分したもの。
- 退職金引当:退職金制度がある場合、その将来負担分の積立(引当)を年間コストとして計上します。
- 間接人件費(管理費・教育・事務):現場監督、事務、教育訓練、安全衛生管理など、直接作業に係らないが労務を支える費用。
- 法定外手当・特殊手当:通勤手当、現場手当、資格手当、寒冷地手当など、実際に支払う各種手当。
- 稼働率/年間稼働日数:年間で実際に稼働する日数(休暇、祝日、欠勤、降雪期などを考慮)。この値で年額費用を日当や時間単価に按分します。
労務単価の計算式(基本形)
一般的な考え方の式は以下のとおりです。
労務単価(日当)=(年間人件費合計)÷(年間稼働日数)
年間人件費合計=基本給(年額)+賞与引当+法定福利費(会社負担分)+退職金引当+間接人件費+各種手当
具体例(数値例)
以下は概算のモデルケース(例)です。数字はあくまで説明用の参考値で、実際の企業や地域により変動します。
- 基本給(年額):4,000,000円
- 賞与引当:400,000円
- 法定福利費(会社負担分:約18%と仮定):720,000円
- 退職金引当:200,000円
- 間接人件費・管理費:200,000円
- 年間人件費合計=5,520,000円
- 年間稼働日数:220日(有給・祝日・年末年始等を差し引いた想定)
- 日当=5,520,000 ÷ 220 ≒ 25,090円
- 時間単価=日当 ÷ 8時間 ≒ 3,137円/時
この例から分かるように、労務単価は給与だけでなく社会保険や間接費等を加味することで、実際の現場コストを反映する値になります。
日給・時給・人日・人工の違い
- 日給(円/日): 一人の労働者が1日働いた際の費用(一般に人日と同義で使われる)。
- 時給(円/時): 1時間あたりの労務単価。日当を所定実働時間で割って算出。
- 人日(人工): 積算で使う単位。1人工=1人が1日働く量を指す。工数見積りや出来高換算で利用。
- 人月: 月単位の労務換算で、現場管理や長期工事で用いられる。
職種・技能・地域差の扱い
建設業では職種(大工、鉄筋工、型枠工、設備工など)や技能レベル(有資格者・技能士等)により賃金や労務単価が大きく異なります。また、都市部と地方部で生活費や賃金水準が異なるため地域補正を行うことが一般的です。公共工事の積算基準や各都道府県が出す労務単価調査結果を参照して地域差を反映させます。
公共工事における取り扱いと法令・指針
公共工事では発注者(国・都道府県・市町村)が示す積算基準や労務費調査結果を基に積算することが求められる場合が多く、入札時には労務単価の根拠提示を求められることもあります。また、最低賃金や労働基準法、社会保険加入の義務等、法令遵守が前提です。公共工事での未加入や不適切な労務管理は契約違反やペナルティの対象になります。
見積り・積算時の実務的注意点
- 根拠の明示:労務単価は出所(賃金台帳、社会保険料率、賞与算定基準など)を明確にしておく。
- 稼働日数の算定:有給、祝日、降雪・雨天中断、繁忙期・閑散期などを反映させる。
- 社会保険の適用:実際の支払額に加え、会社負担の社会保険料を計上する。
- 時間外労働・休出・深夜:残業・休日出勤に対する割増賃金や工事上の想定を見積もる。
- 安全対策費の計上:安全帯・保護具・安全教育費など現場固有の費用を考慮する。
- 労働者の確保リスク:人手不足での単価上昇リスクや派遣・外注の利用によるコスト増を織り込む。
- 税金・消費税の扱い:賃金自体には消費税はかからないが、外注費や契約金額には消費税計上が必要。
労務単価の改定・更新のタイミング
労務単価は賃金水準の変化、社会保険料率の変更、賞与支給状況の変化等に応じて定期的に見直す必要があります。少なくとも年1回の更新をおすすめします。労働環境の急激な変化(最低賃金改定、人手不足、物価上昇等)があれば速やかな改定が必要です。
労務単価とコンプライアンス・リスク管理
適正な労務単価設定はコンプライアンスと直結します。社会保険未加入、労働時間の未管理、実際の賃金と申告の不一致などは労務安全・法令上のリスクのみならず、入札失格や損害賠償リスクにもつながります。企業は就業規則・賃金規程の整備、賃金台帳・出勤簿の適正管理、社会保険完備を徹底する必要があります。
労務単価を使った原価管理のポイント
- 実績差異の把握:見積と実績の差を職種・工種・工程別に管理し、次回見積に反映する。
- 工数管理の精緻化:出来高や完成歩掛に基づく工数管理で人工消化を正確に把握する。
- 外注化の影響:下請費用や派遣費用を適切に按分し、直接工種の人件費と比較する。
- 教育・生産性改善投資:現場の生産性向上は労務単価の実質低減につながるため、教育投資の費用対効果を評価する。
チェックリスト:労務単価作成時に確認すべき項目
- 賃金台帳(給与制度・等級)の整合性確認
- 社会保険料率・雇用保険料率の最新値適用
- 賞与・退職金の算定基準と引当方法の明確化
- 年間稼働日数の根拠(就業カレンダー・休暇制度)
- 現場特有の手当や安全管理費の計上
- 下請・外注費との重複計上の回避
まとめ(実務への提言)
労務単価は建築・土木の見積り・積算の基盤であり、正確に算出・管理することで適正な利益確保や法令遵守、リスク管理につながります。給与だけを単純に用いるのではなく、法定福利費、賞与・退職金引当、間接人件費、実際の稼働日数を含めた総合的なアプローチが必要です。公開されている各種調査や発注者基準、最新の法令情報を参照し、定期的な見直しと実績フィードバックを行ってください。
参考文献
- 厚生労働省(公式サイト) — 賃金統計や労働関係法令の情報
- 国土交通省(公式サイト) — 建設業・公共工事に関する積算基準や通知
- 一般社団法人日本建設業連合会 — 建設業界の指針・調査資料
- 日本年金機構(公式サイト) — 厚生年金の仕組みと事業主負担に関する情報
- 一般財団法人 建設業振興基金 — 建設業向けの調査・支援情報


