現場で役立つ水圧試験のすべて|目的・手順・計算・安全対策と規格準拠の実務ガイド

はじめに:水圧試験(Hydrostatic Test)とは何か

水圧試験(以下、本稿では「水圧試験」)は、配管・タンク・耐水構造物などが所定の圧力に耐え、漏水(浸透・破断)や変形が無いことを確認するために行う試験です。建築・土木の施工管理や維持管理の現場では、施工品質の確認と安全確保のために不可欠な工程であり、JIS・JWWA・各種設計基準や発注仕様書に従って実施します。

水圧試験の目的と適用範囲

主な目的は次の通りです。

  • 構造物や配管の強度確認:設計圧力に対する安全性の確認。
  • 気密・水密性の確認:ジョイント、溶接部、継手、貫通部などの漏れの有無を検出。
  • 施工品質・材料不良の早期発見:欠陥があれば引渡し前に補修可能。
  • 法令・規格の遵守確認:設計図や仕様書に定めた試験に適合するかの検査。

適用対象は上水・下水・排水・消火設備の配管、鋼製・コンクリート製タンク、貯水槽、地下構造物の止水性能試験など多岐にわたります。

水圧試験の種類と選定理由

主に次の2種類があります。

  • 静水圧試験(Hydrostatic test): 水を充填して加圧し保持する方法。破壊を伴うことなく漏れを検出できるため、建築・土木で最も一般的。
  • 空気(気体)圧試験(Pneumatic test): 空気や窒素などの気体で加圧する方法。気密性を高精度で評価できますが、圧力解放時のエネルギーが大きく破裂リスクがあるため屋内外ともに注意が必要で、一般には水圧試験が優先されます。

試験計画:準備と留意点

試験を始める前に、以下を計画・確認します。

  • 適用される規格・仕様の確認(設計圧力・試験圧力・保持時間・合否基準)。
  • 使用水の確保(清浄な水、必要なら塩素濃度や廃水処理の配慮)。
  • 測定器具の校正(圧力計、流量計、目盛り付き容器など)。
  • 安全対策(バリケード、立入禁止、逃げ路の確保、PPE)。
  • 近隣への事前連絡(特に大量の給排水や騒音・交通規制が伴う場合)。

試験圧力と保持時間の決め方(実務上の目安)

試験圧力や保持時間は規格や設計図書で定められますが、実務上の一般的な目安は次のとおりです。あくまで目安であり、最終的には該当する規格・設計条件・製造者指示に従ってください。

  • 試験圧力:多くの配管系や圧力設備では「設計圧力の1.5倍」を目安に設定することが多い(国際規格や各種工学規準で採用されている数値)。ただし、材料や継手の許容条件、周辺構造物への影響を考慮して決定する必要があります。
  • 保持時間:短時間(15分〜30分)から長時間(1時間〜24時間)まで様々です。配管の長さやボリューム、検査方法(目視・圧力低下の観察)により設定します。一般的には15〜60分の保持が多いですが、タンクや地下貯留槽のような大容量の場合はもっと長いこともあります。

標準的な試験手順(手順書の例)

以下は現場でよく用いられる手順の流れです。

  • 封止チェック:検査対象のバルブや貫通部が適切に閉鎖されているか確認。
  • 充填:最低二箇所のベント(空気抜き)を設けながらゆっくり水を入れ、全空気を排出する。
  • 目視点検:充填過程で目視により漏れの有無を検査(初期段階の漏れを発見)。
  • 加圧:指定の試験圧力まで徐々に加圧し、圧力計の値を安定させる。急激な加圧は避ける。
  • 保持:規定時間圧力を保持し、圧力低下や目視での漏水を確認。
  • 記録:加圧時の圧力、開始・終了時刻、圧力変化量、漏水箇所、補修履歴等を記録。
  • 減圧と排水:試験終了後は安全に減圧して水を排出し、排水の処理(浄化や廃水規制)を実施。

漏れの検出と定量化方法

漏れ検出の方法は複数あります。代表的なものを示します。

  • 目視検査:ジョイントや溶接部、継手周辺を直接見る。簡便だが微小漏れは見逃す。
  • 圧力低下法:一定時間の圧力低下を評価。簡単な方法だが系の温度変化や容積弾性を考慮する必要がある。
  • 容器式定量法:系内の一部を校正容器と接続し、漏れた水を容器で受けて体積を測る方法。漏水量を直接得られるため定量評価に適する。
  • 石鹸水法・色素法:小さな気泡や微小滲みを検出するのに有効(気密試験に近い)。

圧力低下法を用いる場合は、温度変化や系の弾性(配管やタンクの膨張・収縮)による圧力変化を補正しないと誤判定の原因になります。精度を上げるには、規定の校正手順に従うか、定量的な容器式測定を併用します。

安全上の注意点

水圧試験は水を使うため比較的安全ですが、次の点に注意してください。

  • 高圧の蓄えられたエネルギーや破裂リスク:特に空気圧試験に比べれば安全だが、ガイドラインに従い徐々に加圧・減圧する。
  • 試験中の人員配置:弁や計器のそばには最低限の人員。立入禁止・遠隔での監視を確保。
  • 計器の耐圧・校正:圧力計の耐圧・検査周期を確認し、校正済みのものを使用。
  • 周辺環境対策:排水管理、凍結対策、周辺機器や構造物への影響。

よくあるトラブルと対処法

代表的な問題とその対応:

  • 圧力が下がるが目視で漏れが見つからない:温度変化や空気残存によることが多い。再充填してベントを徹底し、温度を安定化させる。
  • 小さな滴が継手から出る:再締め、シール材(パッキン・テープ等)の交換、場合によっては継手の再加工や交換。
  • 試験中に大きな破壊が発生した:即時減圧・避難。原因調査後に類似箇所の追加点検と設計見直しを行う。

測定結果の判定と報告書作成

試験結果は写真や計測データとともに記録し、規格や仕様の合否判定(合格/不合格)を明記します。報告書には以下を含めます。

  • 試験対象の図面・識別番号。
  • 試験条件(試験圧力、保持時間、温度、使用水量など)。
  • 使用機器(圧力計の型式・校正情報など)。
  • 試験中に発見された不具合と対応(補修・再試験の履歴)。
  • 検査者の署名・日付。

環境・法令上の配慮

試験で排水が生じる場合、排水中の薬品や汚泥が環境基準に抵触しないよう処理が必要です。また公共用水道や下水道に直接放流する際は管理者への届出や許可が必要な場合があります。該当する法令・規制は自治体や施設管轄ごとに異なるため事前確認が必須です。

最後に:実務上のアドバイス

水圧試験は単なる工程チェックではなく、施工品質・安全性を担保する重要なプロセスです。以下のポイントを現場で徹底してください。

  • 規格・設計書の要求事項を優先し、独自の簡略化をしない。
  • 圧力計や流量計は定期校正し、記録を残す。
  • 温度補正や容積補正など、測定誤差要因を考慮して判定する。
  • 万が一の破壊に備え、周辺の人員や設備の保護を最優先にする。
  • 不合格箇所は原因を追究し、再発防止策を文書化する。

参考文献

下記は水圧試験や配管試験に関する信頼できる情報源です。各規格・指針は最新版を確認してください。