建築・設備で使う「バルブマニホールド」徹底解説:種類・設計・施工・保守までの実務ガイド

バルブマニホールドとは何か

バルブマニホールド(Valve Manifold)は、複数の弁(バルブ)を一つのブロックまたは配列にまとめた装置で、流体の分配、遮断、計測器の分離・平衡(イコライゼーション)、排気(ブリード)など複数の機能をコンパクトに実現します。建築・土木分野では、空調(HVAC)、給排水、消防配管、医療ガス、圧縮空気、計装系(差圧トランスミッタ用マニホールド)など幅広く用いられます。

主な機能と役割

  • 分配・集合:一つの供給源から複数系統へ分配、または複数源から一系統へ集合する。
  • 遮断(Isolation):各系統を個別に遮断し、保守や交換を可能にする。
  • バイパス・切替:必要に応じて流路を切り替えることで運転継続や停機切替を行う。
  • 計装用途の等圧化・排気:差圧トランスミッタ等で5バルブや3バルブのマニホールドが用いられ、計測器の校正・交換時にプロセス側の遮断と機器側の排気を行う。
  • 安全機能:二重遮断と排気(Double Block & Bleed, DBB)などにより、危険な媒体の漏洩や測定器への影響を低減する。

代表的な種類

  • 2バルブマニホールド:基本的なオン/オフを2つの弁で制御するタイプ。単純な分配系や低機能用途向け。
  • 3バルブマニホールド:差圧計測用途で一般的。両側の遮断弁と中央のブリード弁により機器の排気が可能。
  • 5バルブマニホールド:差圧トランスミッタ用で、両側に遮断弁×2とイコライゼーション用の弁×1、ブリード用の弁×2を有し、より安全で校正もしやすい。
  • ダブルブロック&ブリード(DBB):二重遮断と中央の排気弁で、高安全性が要求される高圧・有害媒体系で採用される。
  • ガスシリンダマニホールド:複数のガスボンベの供給を切替・混合・並列運転させるための装置。
  • 分配(ゾーン)マニホールド:床暖房や各室給湯の多回路分配に使われるマニホールド。

材質・構造と選定要因

材質は使用媒体や温度、圧力、腐食性に応じて選定します。代表的にはステンレス鋼(SUS304、SUS316など)、炭素鋼(塗装・防錆処理)、黄銅(給水・低圧ガス系)、特殊合金(耐硫化・耐塩素雰囲気)など。弁のシート材にはPTFE、PEEK、金属弁座などがあり、シール材は媒体に適合するものを選びます。

選定時に検討すべき主なパラメータ:

  • 許容圧力(PSI/Mpa)と最大使用温度
  • 流体の種類(蒸気、冷媒、冷水、温水、油、ガス、有毒・可燃性媒体など)
  • 流量(Q)と必要Cv値(流量係数)
  • 腐食性・スラリーの有無(固形物混入)
  • 接続形態(ねじ、フランジ、溶接、メトリック/インチ規格)
  • 計装用途なら精度やデッドボリュームの有無
  • 施工現場での取り回しやメンテナンス性(スペア部品、交換性)

設計上の注意点(配管・圧力損失・流体力学)

マニホールドを配管系に組み込む際は、次の点を設計段階で検討する必要があります。

  • 圧力損失:弁や分岐による圧力損失を評価し、必要なポンプ容量や配管径を定める。弁のCv値と想定流量を照合して最適径を選ぶ。
  • キャビテーション・フラッシング:高差圧や蒸気を扱う場合、局所的な沸騰やキャビテーションを避けるため配管長やバルブの流路を工夫する。
  • 温度差による膨張:高温流体系では熱膨張と応力緩和を考慮し、支持やフレキシブルジョイントを配置。
  • アクセス性:保守点検のために手が入る空間を確保し、弁操作・取り外しが容易な向きで設置する。
  • 漏洩経路と検知:万一の漏洩を考え、ドレンや検知器(漏洩センサ)を配置する。

施工・据付時の留意点

  • 取り付け姿勢:メーカー指示に従う。あるタイプの弁は水平・垂直の取り付け向きで性能が異なることがある。
  • トルク管理:ボルトやナットの締め付けトルクを規定値で行い、シール不良を防ぐ。
  • 配管支持:マニホールド自体と接続配管の支持を十分にとり、自身に過大な荷重がかからないようにする。
  • リークテスト:水圧試験・気密試験を実施し、所定の圧力で一定時間保持できることを確認する。計装系ではフラッシングやパージも重要。
  • 識別表示:各系統の弁に識別ラベルを付与し、操作ミスを防止する。

保守・点検(メンテナンスの実務)

マニホールドは定期的な点検と消耗部品の交換により長期にわたり安全に運用できます。具体的には:

  • 定期リークチェック:目視とソープ(検査剤)や超音波探傷で漏えいを確認。
  • シート・パッキン交換:スピンドルの摩耗やシール劣化は漏洩や操作不良の原因になるため、予防交換スケジュールを設ける。
  • 作動確認:弁の開閉トルク、スムーズさ、ハンドルの歪みを点検。
  • 機器校正:差圧トランスミッタ等が接続される場合、マニホールド動作後に必ず測定器の校正・検査を行う。
  • 腐食・スケールの管理:給水・蒸気系ではスケールや腐食生成物が弁の動作を阻害するため、定期的にフラッシングや化学処理を検討。

安全上の留意点

  • 作業前に必ず系統の遮断と排圧を行い、ロックアウト/タグアウト(LOTO)を徹底する。
  • 有害媒体を扱う場合はPPE(防護具)を着用し、適切な換気・検知装置を配置する。
  • DBB構成のような高信頼性が必要な場合は、二重遮断の確認手順を作成する。
  • バルブ操作時は急激な流速変化を避け、配管系に水撃(ウォータハンマー)等の衝撃を与えない。

主要な用途例(建築・土木分野)

  • HVAC:チラーやボイラーの分配、ゾーン毎の開閉、計装用差圧測定など。
  • 給排水・給湯:各室の給湯分配(マルチマニホールド)、中高層建築の層別分配。
  • 消防設備:スプリンクラーヘッド毎のゾーニングや試験・排水用のマニホールド。
  • 医療ガス:病院内の酸素・吸引・窒素などの供給切替。
  • 工場・プラント:計装用差圧トランスミッタのマニホールド、プロセス切替、ガス配分。

トラブルケースと対処法(実務的アドバイス)

  • 漏洩が発生する場合:シート摩耗、パッキン劣化、ボルト緩みが原因。まずは現場で締め付け確認と低圧での試験を行い、必要に応じて部品交換。
  • 弁が固着する場合:スケールや異物、長期未操作が原因。慎重に動かして固着を解除し、清掃やフラッシングを行う。無理に力を加えるとスピンドル破損の恐れあり。
  • 計測値が安定しない場合:マニホールドの閉塞やデッドボリューム、トランスミッタの設置姿勢を確認。5バルブの配列が正しく操作されているかも点検。

選定チェックリスト(現場で使える簡易版)

  • 使用媒体と温度・圧力は?
  • 必要流量と許容圧力損失は?(弁のCv値を確認)
  • 材質は媒体に対して十分か(耐食性・耐圧性)?
  • 取り付けスペース・アクセス性は確保されているか?
  • メンテナンス(交換部品・工具・スペア)は確保できるか?
  • 関連規格や法令(防災・消防・建築設備)に適合しているか?

まとめ

バルブマニホールドは配管系の機能性・安全性・保守性を向上させる重要な構成要素です。用途に応じた適切なタイプ選定、材質選定、圧力損失や取付姿勢の設計、施工後のリークテストと定期保守が不可欠です。特に計装用途や有害媒体を扱う系統では、DBBや5バルブ等の高信頼性構成、明確な運転・保守手順を遵守することが安全確保の要となります。

参考文献

マニホールド(Wikipedia)

Emerson - Valves, Actuators & Regulators

Yokogawa - Valve & Manifold 製品情報

NFPA(National Fire Protection Association)公式サイト(消防設備規格参照)

ASME(American Society of Mechanical Engineers)公式サイト(配管規格など)