深海釣法ガイド：仕掛け・タックル・安全対策と資源保護

2025年12月25日 最終更新日時 : 2025年12月25日 エバープレイ編集部

はじめに：深海釣法とは

深海釣法（しんかいちょうほう）は、水深100〜数百メートル、場合によっては1000メートル前後の深場を狙う釣りの総称です。一般に「深海域」は大陸棚縁辺や大陸斜面にあたり、水深200m以深を指すことが多く、光や水温、餌生物の構成が表層と大きく異なります。ここで得られる魚種は成長が遅く資源回復が遅いものが多いため、技術的・環境的・安全上の配慮が不可欠です。

深海で狙う代表的な魚種

日本周辺の深海釣りで一般的に狙われる魚種には次のようなものがあります。

  • キンメダイ（深海の高級魚、アルフォシノ系）
  • クロムツ・アカムツ（ノドグロ）などの深場の高級白身魚
  • メダイや大型のカサゴ類（深場の根魚）
  • スミヤキ（ダイナソウル系の深海魚）などの大型回遊種

これらは低成長・低再生産率である場合が多く、漁獲圧が大きくなると急速に個体数が減少する点に留意が必要です（後段の資源保護参照）。

深海釣りに使うタックルの基本

深場は水圧や潮流、潮の層による魚の反応が異なるため、専用タックルが必要です。主な要素を挙げます。

  • ロッド：深場用のヘビーロッド（ベイトリール対応の電動リールを用いることが多い）。張りがありバットパワーに余裕があるモデル。ジギング向けと底狙い向けで形状は異なる。
  • リール：電動リールが主流。深度を正確に把握でき、長時間巻き上げの負担を軽減する。手巻きは浅場（100〜200m程度）で技術のある人向け。
  • ライン：PEライン（複合糸）を使用。深場では巻量確保のため太め（例：PE3〜8号）が用いられる。リーダーはフロロカーボンやナイロンの太め（30〜80lb相当）を組む。
  • ジグ・餌：メタルジグ（150〜400g、深度により変動）、生餌や切り身（サバ・イカなど）、テンヤや専用のカーブ重りを用いた底釣り仕掛け。
  • 仕掛け：ドロッパーやブランコ仕掛け、胴付き仕掛け、スロージギング専用のジグなど。

具体的な仕掛けとその組み方

代表的な仕掛けを例示します（船釣りを前提）。

  • 胴付き仕掛け：メインラインに直結のサルカンからハリスで鈎を下げ、重りで着底させる。底狙いに有効。
  • ブランコ仕掛け（天秤仕掛け）：重りと複数のハリを横に展開し、餌を複数段で漂わせる。掛かりを高める。
  • メタルジグ：ボトムまで落としてからワンピッチジャークやスローピッチで誘う。深場ではジグの重さとアクションのバランスが重要。

実釣の手順（準備から取り込みまで）

安全かつ効率的に釣果を上げるための基本手順です。

  • ポイント選定：海底地形（根、崖、沈み物）や潮流、魚群探知機での反応を確認。海図や船長の経験を活用。
  • タックル準備：ラインの巻量、電動リールの設定（ドラグ設定、深度アラーム）、仕掛けのチェック。
  • 投入と着底：仕掛けを投入し、ラインのカウンターで深度を管理。着底後は数メートル巻き上げて停止し、アタリを待つ。
  • 誘いとアワセ：ジグなら規則的なジャーク＋フォール、胴付きは小刻みなシャクリで誘う。ヒットしたら深場特有の重さを逃さぬようドラグを調整してやり取り。
  • 巻き上げ：電動リールを用いる場合でも、魚をバラさないようテンションを保ちながら巻き上げる。急浮上は魚へのダメージ（バラトラウマ）を大きくするため注意。

深海特有の釣技：スロージギングとディープドロップ

代表的な釣り方としてスロージギングとディープドロップ（深場直下釣り）が挙げられます。

  • スロージギング：重量ジグを用い、低速で大きなタメを作るように引く手法。深海魚は遊泳力がそれほど強くないため、スローなアクションでリアクションを誘う。
  • ディープドロップ：専用の重りと電動リールを用いて数百メートルの水深に餌やルアーを落とす手法。高塩分・低温環境に適応した魚種を狙う。

バラトラウマ（減圧障害）とその対処法

深海から速やかに引き上げられた魚は、体内のガス膨張により浮き袋が飛び出すなどのバラトラウマ（barotrauma）を起こします。これにより生存率が低下するため、適切な対処が重要です。

  • 最良の対処法：ディセンディングデバイス（降下器）を用いて捕獲した場所の深度まで魚を戻す。NOAAなどの研究機関も降下器の使用を推奨しています。
  • ベントツール（内臓のガスを抜く器具）は手早く行えば即時の浮沈回復に役立つ場合があるが、適切な技術がないと内蔵損傷を起こすリスクがある。地域のガイドラインに従うこと。
  • 可能なら法律やローカルルールに従いリリースを検討する。特に資源が脆弱な種は持ち帰り制限がある場合が多い。

環境・資源保護上の注意点

深海魚は成長が遅く長寿なものが多く、漁獲により個体群が減少しやすいことが科学的に示されています（FAO等の報告）。そのため、持ち帰る量やサイズを制限する、自主的なキャッチアンドリリースの実施、降下器の活用などが推奨されます。また、底引きや大型の漁具は海底生態系に大きな影響を与えるため、遊漁者としても配慮が必要です。

安全対策と法令順守

深海釣りは重いギアと高度な操作を伴うため、事故のリスクが高まります。船上での安全管理と法令順守は必須です。

  • 個人保護具：ライフジャケット、滑りにくい靴、耐切創手袋、目の保護具。
  • 船上機器の管理：電動リールやリールの電源配線は防水・配線処理を徹底。過負荷や短絡は火災の原因となる。
  • 気象と海象の確認：深場は急変する潮流や風の影響を受けやすい。出港前に気象予報と潮位を確認する。
  • 法令の確認：漁業法や地域ごとの漁獲規制、禁漁期・サイズ規制を事前に確認する（各自治体や水産庁の情報を参照）。

実践的なコツ（経験者のアドバイス）

  • 魚群探知機の反応を鵜呑みにせず、潮と地形を一緒に読めるようにする。
  • 重い仕掛けを扱う際は周囲の人とのコミュニケーションを徹底し、投入・巻き上げの合図を決めておく。
  • ジグの色や形状はクリアな海域と濁った海域で有効性が変わる。複数種類を用意して試す。
  • 電動リールは設定（巻上速度・トルク）で釣果が大きく変わる。事前に試運転し設定を把握しておく。

まとめ

深海釣法は特殊な環境を相手にするため、適切なタックル、技術、そして安全と資源保護への配慮が不可欠です。漁獲対象の生態や法規制を理解し、降下器などの道具を用いたバラトラウマ対策を行うことで、持続可能な遊漁として楽しむことができます。初めて挑戦する場合は、経験のある船長やガイドと同行することを強くおすすめします。

参考文献

カテゴリー
釣り
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