パッシブノイズキャンセリング(遮音)の仕組みと選び方:ANCとの違いと実用テクニック
パッシブノイズキャンセリングとは何か
パッシブノイズキャンセリング(以下、パッシブ遮音)は、電子的な信号処理を用いずに物理的に音の伝播を遮断または減衰させる方法を指します。主にヘッドホンやイヤホン、耳栓、イヤーマフなどの機械的・材料的手段で外部騒音を減らすもので、ANC(アクティブノイズキャンセリング、能動的雑音抑制)としばしば比較されます。パッシブ遮音は、正確には“ノイズ・アイソレーション(noise isolation)”と呼ばれることも多く、設計・素材・装着方法が遮音性能を決めます。
基本的なメカニズム
パッシブ遮音は主に以下の物理効果を利用します。
- 吸音:フォームやファブリックなどの多孔質材料が音を内部で散乱・摩擦により熱に変換してエネルギーを減衰させる。
- 遮断(バリア効果):硬いハウジングや密閉された空間が音の直接伝播を遮る。密閉型(クローズドバック)ヘッドホンはこの原理を利用する。
- シール(密閉性):耳とイヤーチップ/イヤーカップの間の隙間を埋めることで空気の音が内部に入るのを防ぐ。耳へのフィットが良いほど低音域を含めた遮音が向上する。
- 音の回折・散乱:厚みや形状で音波の回り込みを抑える。
種類別の特徴(イヤホン・ヘッドホン・耳栓)
パッシブ遮音の実装は製品タイプにより異なります。
- インイヤーモニター(カナル型イヤホン)— シリコンや低反発フォームのイヤーチップで耳道を密閉し、中高域だけでなく低域の遮音も良好。フィット次第で大幅に変わる。
- オンイヤー/オーバーイヤーヘッドホン — クローズドバックのオーバーイヤーは耳全体を包み込み、比較的広帯域で遮音する。オンイヤーは耳に乗せる形のため遮音は劣る。
- 耳栓・イヤープロテクター — 工事現場や飛行機などで使う目的の製品はNRR(Noise Reduction Rating)表記があり、高い遮音性能が要求される。フォーム式で30dB前後のNRRを持つものもある。
遮音性能の実際:何デシベル遮れるのか
遮音量は使用方法や周波数によって大きく変わります。業務用耳栓のNRRは最大で約33dBといった表記が一般的で、これは耳栓が理想的に装着された場合の目安です。一方、消費者向けのカナル型イヤホンでは、良好なフィットで高域中心に10〜25dB程度の遮音が得られることが多いと報告されています。クローズドバックのヘッドホンは周波数帯によって差があり、高域での遮音は比較的効く一方、低域(20–200Hz)の回り込みは設計によって差が出やすく、10〜20dB前後という感覚が一般的です。
注意点として、パッシブ遮音は周波数依存性が大きく、一般に高周波(数百Hz以上)で効果が高く、低周波(低音)は物理的なサイズや質量、シール性による影響を受けやすいことを理解しておく必要があります。
パッシブ遮音とANC(能動ノイズキャンセリング)の違いと併用効果
ANCはマイクで取り込んだ外音の逆位相信号を生成して低周波ノイズ(主にエンジン音や車内騒音など)を打ち消す技術です。比較すると:
- 周波数特性:ANCは低周波域(〜1kHz以下)に強く、パッシブは中高域に強い傾向。
- エネルギー消費:ANCは電力を使う。パッシブは電力不要。
- 複合効果:ANCとパッシブを組み合わせることで、低域(ANC)と中高域(パッシブ)を両方カバーできるため、総合的な遮音性が向上する。
そのため“ANC搭載のクローズド型ヘッドホン”が現在の主流で、これによりより広い帯域で効果的にノイズを抑えられます。
設計要素が遮音に与える影響
具体的な設計要素は以下の通りです:
- イヤーチップの素材と形状(フォームは密閉性が高く吸音も大きい。シリコンは耐久性と着脱性に優れる)。
- イヤーカップの密閉度(シール性を上げる厚めのパッドは遮音性を高めるが、重量と装着圧が増える)。
- ハウジングの内部構造(複数のチャンバーや吸音材を用いると特定帯域での共振が抑えられる)。
- クランプ力(ヘッドバンドの締め付け力) — 過度の力は疲労を招くが、適度な力は漏れを減らして遮音を向上させる。
選び方:用途別のおすすめポイント
使用目的に応じて重視するポイントは変わります。
- 通勤・飛行機・電車での使用:ANC搭載の密閉型ヘッドホンまたは低反発フォームのカナル型イヤホン。機内や車内の低周波ノイズをANCが、会話やアナウンスはパッシブが抑える。
- 音楽制作・モニタリング:遮音性だけでなく音のニュアンスを正確に把握する必要があるため、完全に遮音しすぎて周囲のリファレンスが失われないよう注意。スタジオでは遮音よりもフラットな再生を重視。
- 勉強・集中作業:密閉型のパッシブ遮音が有効。長時間利用時の快適性(軽量・通気性)も重要。
- 騒音から耳を守る(労働環境など):NRR値のあるプロ仕様の耳栓・イヤマフを利用し、適正に装着することが必須。
装着とフィッティングのコツ
- イヤホンのチップは複数サイズを試し、耳道にフィットして外音がはっきりと減るものを選ぶ。フォームチップは指で潰して挿入し、膨らんで密閉するのを待つ。
- ヘッドホンは耳周りのパッドが顔の形に合うかを確認。密閉は重要だが圧迫感が強すぎると長時間使えない。
- 耳栓は正しく深く装着することで表記NRRに近い性能が出る。浅く入れると性能は大きく落ちる。
健康面の注意点と音量管理
良好な遮音は外音を減らすため、周囲の騒音に対して小さな音量で音楽を楽しめるようになり、長期的な聴覚保護に有利です。しかし以下に注意してください。
- 密閉による「こもり感」や耳内の圧迫感(オクルージョン効果)で不快を感じる場合がある。適切な製品選びと休憩が重要。
- 長時間の使用や高音量でのリスニングは聴覚障害のリスクを高めるため、ボリューム管理(85dBを超えない等)と定期的な休憩を推奨。
- 耳の健康に不安がある場合(耳垢詰まり、耳痛、感染症など)は専門医に相談すること。
よくある誤解(FAQ)
- 「パッシブ=古い技術」:パッシブ遮音はシンプルながら非常に有効で、ANCと組み合わせることで相乗効果を発揮します。用途によってはANCよりパッシブの比重を高める方が有利な場合もあります。
- 「遮音が良ければ音質が悪くなる」:過度の密閉や吸音の仕方によっては響き方が変わるが、適切に設計された製品は遮音と音質を両立できます。
- 「高価=遮音が必ず良い」:高価な製品は多機能だが、最も重要なのは個人の耳に合うフィットと使用環境です。試着や試聴を推奨します。
まとめ:賢い選び方と使い分け
パッシブノイズキャンセリング(遮音)は、素材・形状・フィットによって大きく性能が変わる実用的な手法です。低周波ノイズの多い環境ではANCとの併用が効果的であり、静かな環境や装着の利便性を重視する場合はパッシブ主体の選択が合理的です。耳栓のNRRや製品の遮音特性、実際のフィット感を重視して選び、長時間使用では快適性と音量管理にも注意してください。
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参考文献
- CDC/NIOSH: Noise and Hearing Loss Prevention
- RTINGS: What is Active Noise Cancellation?
- Wikipedia: Noise reduction
- EPA: Quiet Quality of Life (白書・参考資料)
- 3M: Hearing Protection Technical Information (製品例とNRRの説明)
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