レスター・ヤング徹底解説:『プレズ』の音楽哲学と即興が残した革新性
レスター・ヤング(Lester Young)とは
レスター・ヤング(Lester Young、1909年8月27日 - 1959年3月15日)は、アメリカのテナーサクソフォン奏者であり、ジャズ史上もっとも影響力のあるソロイストの一人です。優美で軽やかなトーン、余白を生かしたフレージング、メロディ化された即興で知られ、ビリー・ホリデイから“Prez(プレズ)”という愛称で呼ばれたことでも有名です。彼の表現はビバップ以前のスウィング期において新しい美学を提示し、クール・ジャズやポストバップ以降の多くの奏者に影響を与えました。
生い立ちとキャリアの黎明
レスター・ヤングはミシシッピ州ウッドヴィルで生まれ、若年期から音楽に親しみました。成人してからは中西部やカンザスシティなどのジャズの盛んな都市で演奏の機会を積み、1930年代にはカンザスシティを拠点にしたシーンで頭角を現しました。やがてカウント・ベイシー楽団と関わりを持ち、ベイシー・オーケストラの一員として、またその小編成グループの主要なソリストとして名声を高めていきます。
サウンドの特徴と即興の美学
レスター・ヤングの音楽的特徴は、まず第一にその音色にあります。深く太い音ではなく、軽やかで艶のある音色を持ち、柔らかいビブラートやほとんどビブラートを使わない奏法で“歌う”ようにフレーズを紡ぎます。リズム感覚は後ろのスペースを意識した「余裕のあるテンポ感」で、ビートの直後に滑り込むような“遅れ気味”のフレージングや、拍の周囲を遊ぶようなタイミングが特徴です。
理論的には、ヤングは和声の垂直的なアプローチよりも、旋律的で動機志向のアプローチを好みました。短いモチーフを反復・変形して発展させることで、ソロ全体に統一感を持たせ、和声進行に対してはメロディの延長線上で処理することが多いです。この「旋律的解決」によって、耳に残るフレーズと心地よい流れが生まれます。
代表的な録音と演奏
- 「Lester Leaps In」:ベイシー一門の小編成での演奏を代表するナンバーで、ヤングの典型的なモチーフ展開とスウィング感がよく表れています。
- 1930年代後半のカウント・ベイシー楽団でのソロ群:集合的に作られたスモールグループの演奏やレコーディングで、ヤングは独自の声を確立しました。
- ビリー・ホリデイとの共演録音:互いに深い影響を与え合った二人の共演は、歌とサクソフォンが会話するような名場面を生み出しました。
ビリー・ホリデイとの関係
ヤングはビリー・ホリデイと親しい仲で、ホリデイが彼を“Prez”と呼んだことが広く知られています。逆にヤングはホリデイを“Lady Day”と呼び、二人は音楽的にも個人的にも強い結びつきを持ちました。ホリデイの歌うフレーズの間や語尾の処理から多くのアイデアを得たヤングは、彼女のフレージング感をサクソフォンに取り込むことで、より歌心に富んだ即興を展開しました。
第二次世界大戦以降の変化と晩年
第二次世界大戦中に徴兵されたこと、その後の軍隊や生活の経験はヤングの精神的・身体的状況に影響を与えました。復帰後も音楽活動を続けましたが、酒や健康問題に悩まされ、演奏の安定性が損なわれる時期もありました。それでも1950年代にはノーマン・グランツらによるプロジェクトや小編成での録音を通じて再評価が進み、晩年まで独特の芳香を放つ演奏を残しました。1959年3月15日、ニューヨークで没しました。享年49。
演奏技術の具体的なポイント
実践的に聴き取るべきポイントを挙げると、以下のようになります。
- 音色の質感:力みのない柔らかい音。息遣いとアンブシュアを最小限に保った結果生まれる暖かさ。
- フレージング:短い動機の反復と、モチーフの変形による展開。終止への直線的な解決よりも、次のフレーズを予感させる余地を残す。
- リズムの扱い:拍に対してやや遅れる/先行する微妙なタイミングの揺らぎが、独特のグルーヴを創出。
- 語法(ヴォカリゼーション):演奏中に擬似的に言葉遣いを模したり、スラング的なニュアンスを含める表現が見られる。
同時代の奏者との比較
コールマン・ホーキンスやベニー・カーターといった同世代のテナー奏者は、一般により力強く豊かな音色と和声音の垂直的処理を重視しました。これに対してヤングは横方向のメロディック・ラインを重んじ、音楽の語り口(ナラティヴ)を大切にしました。この対比は、テナーの多様性とジャズ表現の幅を際立たせます。
後続世代への影響
ヤングの「少ない音で語る」「余白を生かす」姿勢は、スタン・ゲッツやポール・デズモンド、ズート・シムズなどクール系の奏者に強い影響を与えました。またマイルス・デイヴィスのように、音色やフレーズの選択において“引き算”的アプローチを取るミュージシャンにも影響が波及しています。ジャズ以外の分野でも、彼のフレージング感覚や音楽的な省略美が高く評価されています。
どう聴けば良いか:リスニング・ガイド
ヤングを聴くときは、次の点に注目してください。
- 1フレーズごとの「呼吸」を意識する。どこで息を吸い、どこで音を切るかが表現に直結します。
- モチーフの反復と変形を追う。短いフレーズがどう展開されるかに耳を傾けると構造が見えてきます。
- 歌との対話を探す。特にビリー・ホリデイとの録音では、歌とサクソフォンが互いに応答する瞬間が多数あります。
作品選びのヒント
まずは代表曲やベイシー時代の小編成録音を聴いて、ヤングの基本的な語法を把握しましょう。その後、ホリデイとの共演録音や1950年代のスタジオ録音で、変化する音楽的成熟や晩年の表現を比較すると学びが深まります。
総括:レスター・ヤングが残したもの
レスター・ヤングは、単に技術的に優れたソロイストというだけでなく、ジャズの「語り方」を変えた人物です。旋律への執着、余白を用いるリズム感、そして個人的な表現に根差したフレージングによって、ジャズの即興表現に新しい言語を与えました。ビバップのテクニック志向とは別の方向から音楽を深化させた彼の遺産は、現在でも多くの演奏家と聴き手にとって学びの源泉であり続けています。
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参考文献
- Britannica: Lester Young
- AllMusic: Lester Young Biography
- Wikipedia: Lester Young
- The New York Times: Lester Young Obituary (1959)
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