Jelly Roll Morton — ニューオリンズ発ジャズ創生の矛先とその遺産

ジェリー・ロール・モートン(Jelly Roll Morton)とは

ジェリー・ロール・モートン(本名:Ferdinand Joseph LaMothe、しばしば LaMothe と綴られる)は、ニューオリンズで生まれ育ったピアニスト、作曲家、アレンジャーで、20世紀初頭のアメリカ音楽に大きな影響を与えた人物です。生年は1890年10月20日、没年は1941年7月10日(ロサンゼルス)とされており、ストーリービルなどニューオリンズの多様な音楽環境で育った経験が、彼の音楽的基盤を形成しました。自身が『ジャズを発明した』と豪語したことで知られていますが、その主張は議論を呼ぶ一方で、彼の楽曲と録音がジャズ形成期に果たした具体的な役割は歴史的に高く評価されています。

ニューオリンズでの形成期と幅広いルーツ

モートンは幼少期からピアノを弾き、ラグタイム、ブルース、マーチ、クレオール音楽、カリブ海系のリズムなど、多様な要素が混在するニューオリンズの音楽文化の中心で活動しました。ストーリービルの娼館やナイトクラブでの仕事を通じて即興演奏の技術や実践的な編成感を学び、黒人・白人・移民の音楽的伝統が交錯する環境で独自のスタイルを磨いていきます。

作曲家・アレンジャーとしての革新

モートンの最大の特色は、即興と作曲的構成の折衷を明確に打ち出したことにあります。彼は単なる即興演奏家ではなく、曲の導入、テーマ、コーラスごとの編成、楽器の配置を綿密に考えたアレンジを行ない、小編成のバンドでもオーケストラ的な表現を実現しました。これにより、後のスウィング・ビッグバンドやアレンジ中心のジャズへつながる重要な橋渡しを果たしました。

また、モートンはリズム感覚に特徴があり、『スペイン・ティンジ』と呼ばれる概念で知られます。これはハバネラやトレスィーヨなど、ラテン系のリズム要素を楽曲に取り入れることで、ジャズに独特の“香り”を与える手法で、彼自身がしばしば口にした言葉として記録に残っています。スペイン・ティンジは当時の黒人音楽やクレオール音楽に広がるリズムを示すもので、モートンはそれを意図的に編曲の一部にした点で先駆的でした。

特徴的な演奏スタイル

ピアノの演奏面では、ラグタイムからの影響を残しつつも、ブルース的な表現、装飾音、シンコペーション、左手の伴奏(オムパやストライドの要素)、右手のメロディックかつ装飾的なラインを組み合わせることで独自の語法を確立しました。アンサンブルでは、ストップタイム、ブレイク、対位的な役割分担などを巧みに用い、各奏者に明確な出番を与えながら全体のダイナミクスをコントロールします。

主要な作品と録音

モートンは多くの楽曲を遺しました。代表作としては、Jelly Roll Blues、Wolverine Blues、King Porter Stomp、Black Bottom Stomp、Grandpa’s Spells などが挙げられます。これらは彼自身のピアノ演奏やバンド演奏で録音され、特に1920年代のレコーディングはジャズ史に残る名演として評価されています。

1920年代中頃に行われた『レッド・ホット・ペッパーズ』名義のセッション(Victor レーベルなど)では、緻密に構成されたアンサンブルと即興の融合が高い水準で示され、スタジオ録音ならではのクオリティで当時のジャズの可能性を提示しました。これらの録音はバンドの各パートに細かい決め事や取り回しがあり、小編成ながら複雑な編曲効果を生み出しています。

ライブラリー・オブ・コングレス録音と自伝的証言

1938年から1939年にかけて、アメリカのフォークロリストや音楽学者によって行われたモートンの口述録音と演奏録音(ライブラリー・オブ・コングレス収録)は、彼の音楽観、キャリア、曲の成立過程を知る上での貴重な一次資料です。ここでの発言には『自分がジャズを生んだ』という強い自己主張や、過去のエピソードの誇張が含まれるため、研究者はそのまま史実として受け取るのではなく出典批判を行いながら利用しています。しかし、曲の分析や演奏例としては非常に重要で、彼の編曲手法や語り口、演奏スタイルを現代に伝える貴重な記録です。

評価の変遷と晩年

モートンは生前、商業的な成功と同時に私生活や健康、法律的問題などで苦労することがありました。1930年代以降はレコード産業や音楽シーンの変化もあってか目立った商業的復活は限定的でしたが、遺された録音やライブラリー・オブ・コングレスの資料が再評価を促し、戦後にはジャズ史上の重要人物として位置づけられるようになりました。1941年にロサンゼルスで亡くなった後も、彼の作曲とアレンジの手法はスウィング時代以降のアレンジャーやバンドリーダーに影響を与え続けています。

楽曲分析:聴くべきポイント

モートンの録音を聴くときは、以下の点に注目すると彼の革新性が理解しやすくなります。

  • 導入部からテーマ提示、コーラス展開、終結までの構成の明確さ。短い演奏時間の中でも曲の起伏が計算されている。
  • リズム面での『スペイン・ティンジ』的要素。ハバネラやトレスィーヨに由来するリズム感が曲の一部に現れる。
  • ストップタイムやブレイクの使用。アンサンブルの瞬間的な停止や再起動が効果的に配される。
  • 個々のソロとアンサンブルの対比。ソロが始まる前後で編曲が変化し、聴き手に強い印象を残す。

後世への影響

モートンのアレンジ感覚と楽曲の滑らかな構成は、20世紀前半のジャズの発展に大きく寄与しました。彼の作品はフレッチャー・ヘンダーソン、ベニー・グッドマン、デューク・エリントンなど、後の世代のアレンジャーやバンドリーダーに影響を与え、ジャズが制度化された際の『書かれたアレンジと即興の共存』というモデル形成に寄与しています。さらに、学術的には彼の録音と口述記録がジャズ研究の一次資料として重要視され、ジャズ史の記述や教育にも広く用いられています。

現代の聴き手への薦め

初めてモートンを聴くなら、レッド・ホット・ペッパーズ時代のスタジオ録音やライブラリー・オブ・コングレスの口述・演奏録音を比較して聴くことを薦めます。前者は完成されたアレンジと録音技術が示す演奏の“作品”としての側面、後者は即興や語りを通して作曲者本人の思考と言語化された背景を伝えます。どちらもモートン理解に不可欠です。

結び:神話と実績を分けて見る重要性

モートンは自己神話を語るのが得意で、そのため『ジャズを発明した』という単純な括りで語られがちです。だが重要なのは彼が生み出した音楽的手法と録音物が後続に与えた具体的影響です。主張の真偽を慎重に検証しつつ、楽曲そのものと録音を通して彼が残した技術的・芸術的遺産を評価することが、歴史理解の鍵になります。

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参考文献