Clarinet(クラリネット)完全ガイド:歴史・構造・奏法・メンテナンスまでの総合解説
Clarinet(クラリネット)とは
クラリネットは単簧(一枚リード)を使用する木管楽器で、シリンダー(円筒)形の管体と独特の音域・音色を持ちます。西洋オーケストラや吹奏楽、室内楽、ジャズ、民族音楽など幅広いジャンルで活躍し、その柔らかく温かい低音(チャルメオー)、明るく輝く中音域(クラリオン)、高音域(アルティッシモ)を駆使して多彩な表現を可能にします。一般に「Clarinet」は英語名で、日本語では「クラリネット」と表記されます。
歴史と発展
クラリネットの起源は17世紀末から18世紀初頭にさかのぼり、ドイツの楽器製作者ヨハン・クリストフ・デンナー(Johann Christoph Denner)がシャルモー(chalumeau)を改良して生み出したとされています。デンナーの発明は、単簧に近い発音原理を維持しつつ、音域を拡張するキー機構の開発を伴いました。19世紀にはキーシステムや付属の改良が進み、20世紀初頭には現代的な指穴配列やリングキーを取り入れた「ブーム(Boehm)系」や、ドイツで発展した「エーラー(Oehler)系」など複数の系統が確立しました。
構造と主要パーツ
- マウスピース:リードを固定し息を吹き込む部分。材質は硬質ゴム(エボナイト)やプラスチック、時には木製や金属製もある。形状(チャンバー)やテーブルの角度が音色や吹奏感に大きく影響する。
- リガチャー:リードをマウスピースに固定する器具。金属製・布製・プラスチック製などがあり、締め方で音のレスポンスや倍音の出方が変わる。
- リード:薄い竹(カンナ)製が一般的。硬さ(strength)は0.5〜5.0などで表記され、個人の口型や演奏スタイルで選ぶ。最近は合成樹脂のリードも普及している。
- バレル:マウスピースと上管をつなぐ短い筒。長さや内径でピッチや音色に影響を与える。
- 上管・下管:クラリネット本体の中心部分。穴位置・キー機構が音程と指使いを決定する。
- ベル:低音を増強し音色の放射を助ける先端部。ベル形状で低音の豊かさが変わる。
音響的特徴:管の形と倍音構造
クラリネットの管は基本的に円筒管であり、この形状のためにクラリネットは「12度(オクターブ+完全5度)」で倍音構造が変わる独特の性質を持ちます。フルートやオーボエがオクターブで倍音に切り替わるのに対して、クラリネットはオーバーブローすると第3倍音に相当する音程に飛ぶため、運指体系や音域構成が異なります。この特性がクラリネット独自の音階感と表現レンジ(チャルメオーからクラリオン、アルティッシモまで)を生みます。
種類(キーや調性による分類)
- B♭(変ロ)クラリネット:最も一般的なタイプ。吹奏楽やオーケストラ、ジャズで多用される。
- A(イ長調)クラリネット:オーケストラなどで多く使用。例えばモーツァルトのクラリネット協奏曲はA管向けに書かれている。
- Cクラリネット:一部の古典派や吹奏楽で用いられるが近代以降はやや稀。
- E♭クラリネット:高音域が得意で、吹奏楽やオーケストラで輝かしい高音を担当する。
- バスクラリネット:B♭やE♭の低音管で、1オクターブ下の音域を持ち、オーケストラや吹奏楽で低音の補強やソロに使われる。
- バセットホルン:F管の変種で、19世紀〜20世紀初頭の作品(モーツァルトの一部スコア)で使用されることがある。
- コントラバスクラリネットなど:更に低音域に特化した大型クラリネット群も存在。
移調と楽譜
多くのクラリネットは移調楽器で、例えばB♭クラリネットは楽譜上のCが実音でB♭となります(実音は記譜より全音低い)。A管は1.5音(短3度)下がるため、作曲家は使い分けをします。オーケストラでは作曲者の意図する調性や音色バランスに合わせてA管・B♭管を使い分けるのが一般的です。
代表的なレパートリーと作曲家
クラリネットの代表的なソロ作品には、モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調 K.622(1791)とクラリネット五重奏曲 K.581があります。19世紀にはカール・マリア・フォン・ウェーバー(Weber)がクラリネット協奏曲で技巧性を押し広げ、20世紀にはアーロン・コープランドが名高いクラリネット協奏曲(Benny Goodmanのための作品、1948年)を作曲しました。ブラームスは晩年にクラリネット三重奏曲・五重奏曲・ソナタを残し、温かい中低音の魅力を引き出しました。また、現代音楽やジャズ、民族音楽でもクラリネットは重要な役割を果たしています。
有名なクラリネット奏者
- ベニー・グッドマン(Benny Goodman)— ジャズ・スウィングの「キング・オブ・スウィング」。
- アーティ・ショウ(Artie Shaw)— ジャズとクラシックの架け橋となった名奏者。
- リチャード・ストルツマン(Richard Stoltzman)— クラシックとジャズを自在に行き来する米国の名手。
- ザビーネ・メイヤー(Sabine Meyer)— ドイツ系の名クラリネット奏者でソロ・室内楽で活躍。
- マルティン・フレスト(Martin Fröst)— 現代的なパフォーマンスと技巧で知られるスウェーデンの名手。
奏法の基礎:発音とアンブシュア(口の形)
クラリネットの基本は安定したアンブシュアと支える呼吸です。一般的には下唇を軽く巻き込み下歯でリードを支え、上唇はマウスピースの上に軽く当てる形が推奨されます。口角を引き締めすぎず、中央部に適度な密閉を作ることで豊かな倍音と安定したピッチが得られます。息は横隔膜(ダイアフラム)を主体に支え、一定の空気流を保つことが大切です。
上達のための練習法
- ロングトーン:一定の音で音色とスタミナを養う。ピッチと音色の安定を重視する。
- オーバートーン練習:倍音を意識して吹き分けることで、アンブシュアと息の使い方を洗練する。クラリネットでは上倍音系列の訓練がアルティッシモの習得に有効。
- スケールとアルペジオ:全調のテクニックを向上させる。テンポを徐々に上げる練習を行う。
- タンギングとフレージング:シングル/ダブル/トリプルタンギングなどを訓練し、音の切れや表情をコントロールする。
リードとマウスピースの選び方
リードの硬さは個人差が大きく、初心者は柔らかめ(1.5〜2.5)から始め、徐々に強めを試すのが一般的です。マウスピースは音色・反応・抵抗感に大きな影響があり、同じ本体でもマウスピースを変えることで劇的に演奏感が変わることがあるため、慎重に選ぶことが重要です。バンドレン(Vandoren)やリコ(Rico / D'Addario)、その他多くのメーカーがマウスピースとリードを供給しています。
メンテナンスとケア
木製クラリネット(グレナディラやハードラバー)は湿気・温度変化に弱く、適切な管理が必要です。毎回演奏後にスワブで内部を清掃し、コルクには定期的にコルクグリースを塗る。リードは使用後乾かし、同じリードを連続使用しないローテーションを推奨します。キーとパッドは定期点検を行い、奏法に影響する摩耗やズレがあれば技術者に調整してもらうのが安全です。極端な温度や直射日光を避け、適切なケースで保管してください。
楽器の選び方(初心者〜プロ)
初心者向けの楽器は耐久性と安定した音程が重視され、ヤマハ(Yamaha)やバックレーン(Buffet Cramponの学生向けモデル)などのメーカーが信頼されています。中級・上級者は材質(木材の個体差)、ブラス製のキー精度、バレルやマウスピースの組合せで音色を追求します。プロフェッショナルモデル(Buffet Crampon R13/Tosca、Selmer、Backunなど)は音色の豊かさとレスポンス、整備性が高く評価されています。購入時は実際に試奏し、息の入りや響き、キーの感触を確かめることが不可欠です。
クラリネットが果たす役割(オーケストラ・吹奏楽・ジャズ)
オーケストラではクラリネットはソロ的な旋律を受け持つことが多く、柔らかく暖かい音色で歌わせる場面が多いです。吹奏楽では編成によっては複数のクラリネットがハーモニーや独立した旋律を担当します。ジャズではベニー・グッドマンらに代表されるように、クラリネットは即興演奏と速いパッセージに強く、独特のスイング感を生み出します。
現代の潮流と拡張表現
現代音楽ではエクステンデッド・テクニック(マルチフォニック、キーノイズ、スラップタンギング、半分吹きなど)を取り入れ、クラリネットの可能性はさらに拡がっています。また電気的エフェクトやアンプを併用する実験的な試みも見られ、ジャンルを超えたコラボレーションが活発です。
まとめ:クラリネットの魅力と学び方
クラリネットは柔軟な音色と広い音域、そして多様なジャンルへの適応力を備えた楽器です。初心者は正しいアンブシュアと呼吸法を基礎に、リードとマウスピースの関係を理解しながら継続的に練習することで、豊かな表現力を獲得できます。楽器選びやメンテナンスは長期的な演奏生活に大きく影響するため、信頼できる楽器店や技術者と相談しながら進めることをおすすめします。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Clarinet
- Wikipedia: Clarinet
- International Clarinet Association
- Buffet Crampon(メーカー情報)
- Vandoren(リード・マウスピース情報)
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