ジャズ・クラリネットの世界:歴史・奏法・名演から現代への継承まで

ジャズ・クラリネットとは

クラリネットは単簧リードを用いる木管楽器で、1840年代に現在の基本形が確立されて以降、クラシックだけでなく民俗音楽やジャズの重要楽器となりました。ジャズでは特に20世紀前半のニューオーリンズ・ジャズやスウィング期において中心的な役割を果たし、豊かな中低音のチャローム(チャローモー)領域から明瞭なクラリオン領域まで広い表現レンジを持つため、メロディと即興の両方で優れた表現力を発揮します。

歴史と発展

ジャズにおけるクラリネットの歴史はニューオーリンズから始まります。初期の集団即興では、トランペット(リード)、トロンボーン(テナーパート)、クラリネット(高音のアドリブ)がそれぞれ役割分担をしていました。1920年代にはシカゴやニューオーリンズ出身の奏者が録音で知られるようになり、クラリネット独特のコール&レスポンスや装飾的なフレーズがジャズの語法の一部になりました。

1930年代のスウィング期になると、クラリネットはビッグバンドのソロ楽器として大きく脚光を浴びます。ベニー・グッドマン(Benny Goodman)のような人物がクラリネットをリード楽器として押し上げ、1938年のカーネギー・ホール公演はジャズの位置付けを高める歴史的瞬間となりました。同時代にはアーティ・ショウ(Artie Shaw)やバーニー・ビガード(Barney Bigard)らが独自の音色で聴衆を魅了しました。

戦後、ビバップ以降はサックスやトランペット中心の即興語法が重視され、クラリネットの人口は相対的に減少しました。しかし、バディ・デフランコ(Buddy DeFranco)のようにビバップ・スタイルをクラリネットに応用した奏者や、エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)のようにバスクラリネットを前衛ジャズに取り入れた例もあり、クラリネットは多様な文脈で生き残り、再解釈され続けています。

代表的な奏者と名演

  • ベニー・グッドマン(Benny Goodman) — 「King of Swing」と呼ばれ、クラリネットをビッグバンドの中心に押し上げた人物。1938年のカーネギー・ホール公演はジャズ史に残る名演です。
  • アーティ・ショウ(Artie Shaw) — 「Begin the Beguine」など大ヒットを持ち、洗練されたトーンとアレンジで知られます。
  • シドニー・ベシェ(Sidney Bechet) — 主にソプラノ・サクソフォンで知られますが、クラリネットでも初期ジャズの重要な表現を残しました(ニューオーリンズ系)。
  • バーニー・ビガード(Barney Bigard) — デューク・エリントン楽団での仕事など、ビッグバンド内でのクラリネット表現を深めました。
  • バディ・デフランコ(Buddy DeFranco) — クラリネットでビバップを演奏した数少ない主要人物の一人。近代即興にクラリネットを適用した功績があります。
  • エリック・ドルフィー(Eric Dolphy) — バスクラリネットを前衛・モダンジャズに導入。独特の語法と音色で多くの作品に影響を与えました。
  • 現代の注目奏者 — アナット・コーエン(Anat Cohen)、ドン・バイロン(Don Byron)、ケン・ペプロウスキー(Ken Peplowski)など、伝統から現代まで幅広く活動する奏者がいます。

音色と奏法の特徴

クラリネットは実音と運指の関係がトランスポーズ(通常はB♭クラリネット)である点を除いて、その音域はチャローム(低域)、クラリオン(中域)、アルティッシモ(高域)に分かれます。ジャズではチャロームの温かさを生かした短いフレーズ、クラリオンの明るさでの旋律、そして高域での鋭い装飾が効果的に使われます。

アーティキュレーション(タンギング)はスウィング感に直結します。"ダ"や"ト"などのシングルタンギングを基礎に、レガートとスタッカートの使い分け、アクセントの位置でスイングのニュアンスを作ります。さらに、ベンド、グリッサンド(小刻みなスライド)、装飾音(ターンやトリル)を多用することで、クラリネット特有の表情が生まれます。

機材とセッティングのポイント

ジャズ・クラリネットの音作りは以下の要素が重要です。

  • リード:強さ(ヴァイスやレーベルによる差)は音色とレスポンスに直結。多くのジャズ奏者は中〜硬め(例:2.5〜4)のリードを選ぶ傾向がありますが、個人差が大きいです。
  • マウスピース:クラリネットのマウスピースはクラシック向けとジャズ向けで設計が異なり、ジャズ用途ではややオープンフェイシングで明るく力強い音を出しやすいものが好まれることが多いです。
  • リガチャー:音のレスポンスや倍音バランスに影響します。金属製/皮革製で好みが分かれます。
  • 楽器の種類:B♭クラリネットが標準ですが、バスクラリネットは低音域の色彩を加えるためジャズで使われることがあります(エリック・ドルフィー等)。
  • 運指体系:ボーム式(Boehm)が現代の主流ですが、伝統演奏者の中にはアルバート式(Albert)を好む人もいます。運指によるニュアンスの差異が音楽的表現に影響します。

ジャズ・クラリネットの学習法(実践的アドバイス)

クラリネットでジャズ表現を身につけるための基本的アプローチは次の通りです。

  • 聴取と模倣:名演奏のトランスクリプション(コピー)を繰り返し耳で覚え、フレージングやアーティキュレーションを身体に染み込ませます。
  • スケールとモード:メジャー/マイナーだけでなくドリア、ミクソリディア、リディアなどモードを使った即興練習を行います。ii–V–I進行のスムーズな処理が鍵です。
  • ロングトーンとスタミナ:音程と支え(ブレスコントロール)を鍛えるために長い音の練習を日常に取り入れます。
  • テクニック練習:レガート、スタッカート、オクターブ跳躍、トリル、オーバートーン練習を組み合わせ、音域間の移行を滑らかにします。
  • アンサンブル経験:リズム隊と合わせることでスウィング感、音量バランス、イントネーションの実践的感覚を磨けます。

レパートリーとアレンジの視点

ジャズ・クラリネットの典型的なレパートリーには、ニューオーリンズの伝承曲、スウィングのスタンダード、バラードでの旋律的ソロなどがあります。アレンジ面では、クラリネットはメロディを歌わせるほか、背景ハーモニーの装飾やユニゾン・パートで管楽セクションを色付けする役割も担います。バスクラリネットはリズムセクション近くで低域を補強することにより、編成に深みを加えます。

スタイル別のアプローチ

・ニューオーリンズ/トラディショナル:装飾音やブルーノート的な扱い、集団即興の中での対位法的フレーズが重要。
・スウィング:明瞭な拍感、ダイナミクスの幅、そしてメロディを際立たせるアーティキュレーションが求められます。
・ビバップ/モダン:より急速で複雑なライン、コードトーンの認識、クロマチックアプローチが必要です。バディ・デフランコはこの分野での先駆者です。
・前衛/フリー:音色の拡張(マルチフォン、スラップタンギング、過度な倍音利用など)を通じて表現領域を広げます。エリック・ドルフィーらが代表例です。

現代における位置づけと融合

近年はクラシック、民族音楽(特にクレズマー)とジャズの融合が進み、クラリネットは再び注目を集めています。クレズマー由来の音使いや装飾がジャズ即興に取り入れられ、多様なクロスオーバー作品が生まれています。また、現代ジャズ教育の普及により、若手奏者が技術的基盤を持ったうえで伝統と革新を組み合わせる動きが活発です。

実践的な練習プラン(例)

週5日の練習例:

  • ウォームアップ(ロングトーン 10分、オーバートーン 5分)
  • テクニック(スケール/アルペジオ 15分、指の独立性練習 10分)
  • レパートリー/曲練習(スタンダードのテーマ・ソロ 20分)
  • トランスクリプション(名演のコピー 20分)
  • アンサンブルまたはリズムセクションとの合わせ 30分

まとめ:クラリネットが与える音楽的価値

ジャズ・クラリネットは、その豊かな音色と広い表現レンジにより、メロディの歌い回し、装飾表現、そしてアンサンブル内での色彩づけに特有の効果をもたらします。歴史的には黄金期を経て一時的な下火もありましたが、奏者たちの創意工夫とジャンル横断的な融合によって現代でも魅力ある表現手段として生き続けています。学習者は名演の聴取と模倣、基礎的な技術の研鑽、そしてジャンルの違いを学ぶことで、クラリネットならではのジャズ表現を深めることができるでしょう。

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参考文献