100BASE-TX徹底解説:仕組み・配線・運用・トラブル対処まで
概要
100BASE-TXは、いわゆる「Fast Ethernet(ファストイーサネット)」の代表的な物理媒体仕様の一つで、銅線のツイストペアケーブルを使って100Mbpsのネットワーク接続を提供します。IEEE 802.3u(1995年)で標準化され、主にカテゴリー5(Cat5)以上のUTP/STPケーブルの2対を用いて双方向100Mbpsの伝送を行います。デスクトップPCやスイッチのアクセス回線で長く使われてきた規格で、ギガビット普及前は最も一般的なLAN技術でした。
歴史と規格上の位置づけ
1990年代中盤、10Mbpsの10BASE-Tだけでは帯域不足が顕在化したため、100Mbps級の規格が次々に策定されました。100BASE-TXはその中で最も普及した仕様で、IEEE 802.3uに含まれている物理層(PHY)仕様の一つです。同時期に4対を用いる100BASE-T4や光ファイバ版の100BASE-FXなども存在しましたが、実用性とコストのバランスから100BASE-TXが広く採用されました。
物理層の仕組み(符号化・変調)
100BASE-TXは以下の2段階の処理を行って伝送しています。
4B5B符号化:送信するデータの4ビットごとに5ビットのコードに変換することで、連続した0の最長連続時間を短くし、信号のランニングディスクを確保します。これによりクロック復元が容易になります。4B5Bによりビットレートは100Mbpsのデータに対して125Mbpsの符号化ビット列になります。
MLT-3信号(Multi-Level Transmit - 3レベル):4B5Bで得られた125Mbpsのビット列を3レベル(+、0、−)の電圧レベルで符号化して送信します。MLT-3は連続1のパターンでのみ電圧を次段に移す特徴があり、これにより実際の信号スペクトルの最大周波数成分を低く抑えられます。結果的に伝送帯域は狭くなり、物理媒質であるUTPの帯域制限に適合します。MLT-3の基底周波数は理論的に最大で約31.25MHz程度と説明されることが一般的です。
この2段階の組合せにより、銅線2対という限られた条件で安定して100Mbpsを実現できる設計になっています。
ケーブルとコネクタ(配線要件)
100BASE-TXで推奨・要求されるケーブル仕様は以下の通りです。
ケーブルカテゴリ:最低Cat5(カテゴリー5)相当以上が必要。Cat5e/Cat6を用いると余裕があり、エラー抑制や将来のアップグレードにも有利です。
使用対:2対(1対は送信、もう1対は受信)。RJ-45コネクタのピン配列では一般に1/2対と3/6対が使用されます。
最大ケーブル長:1セグメントあたり100メートル(パッチコードやパッチパネルを含む)。これはIEEE 802.3のツイストペア配線セグメント長の上限です。
シールド:UTP(無遮蔽)で十分動作しますが、ノイズの多い環境ではSTP/FTPが有効です。
コネクタとピン割当て・MDI/MDIX
物理的には標準的なRJ-45コネクタを用います。100BASE-TXは標準的なMDI(Media Dependent Interface)と、ハブやスイッチ側でのMDI-X(クロス接続)仕様をサポートします。古い機器では直結する際にクロスケーブルが必要でしたが、現在の多くの機器は自動で送受信を入れ替えるAuto MDI-Xに対応しているためストレートケーブルで繋ぐだけでOKです。
自動ネゴシエーションとリンク確立
100BASE-TXはIEEE 802.3uの自動ネゴシエーション機能を使い、接続相手との速度(10/100)や全二重/半二重モードの交渉を行います。100BASE-TXではFast Link Pulse(FLP)方式を使ってネゴシエーション情報を送受信します。一般的に、スイッチと端末の組合せで全二重が利用可能であれば衝突回避の必要がなくなり、遅延やスループットの面で有利になります。
性能・到達距離・制限
スループット:理論上のラインレートは100Mbps。実効性能はプロトコルオーバーヘッド、フレームサイズ、半二重時の衝突などで変動します。全二重運用ではフルスループットに近い性能が期待できます。
到達距離:前述の通り100mが規定の上限。これを超えると挿入損失や遅延差でリンク不良やパケットロスが発生します。
耐ノイズ性:MLT-3とツイストペアの組合せでSNRに対する耐性はある程度ありますが、近接する高周波ノイズ、電力ケーブルとの並走、差動ペアの破壊(対間の撚り数が損なわれる)などはリンク品質低下の原因になります。
トラブルシューティングと測定項目
現場での典型的な問題と確認項目を挙げます。
リンクが上がらない:LEDの状態、ケーブルのピン配列、コネクタの圧着不良、ケーブル長超過、機器間の速度/デュプレックス不一致を確認します。
パケットロスや遅延:ケーブルの劣化(断線や微小な接触不良)、近接ノイズ、NEXT(近端クロストーク)、FEXT(遠端クロストーク)などの電気的特性をケーブル認証器やTDRで計測します。
エラーの原因特定には:ケーブル認証器(Cat5e/Cat6対応のCertifier)での認証測定(挿入損失、NEXT、PSNEXT、ACR、返り損失)、パケットキャプチャでの上位プロトコルの再送・エラー確認、スイッチポートの統計情報(CRCエラー、ドロップ、フレームサイズ)を参照します。
環境ノイズ:EMIの強い環境ではシールドケーブルや配線経路の分離、ケーブル経路の見直しが必要になることがあります。
導入・運用上のベストプラクティス
ケーブル品質の確保:Cat5以上を用い、施工は規格通りの撚りの維持とコネクタの正しい圧着を徹底する。長期運用ではCat5eまたはCat6を採用することを推奨します。
パッチパネル・パッチコードも品質の良いものを採用する:現場の接続点が多いほど損失や反射が増えるため、信頼性の高い部材選定が重要です。
自動ネゴシエーションを活用:デュプレックスや速度の固定はトラブルのもとになることが多いため、可能な限りオートネゴシエーションを有効にして運用すること。
将来を見据えた配線:現在はギガビットや10ギガなど上位速度を前提にCat6/Cat6Aで配線しておくと、後のアップグレードコストが抑えられます。
100BASE-TXと他規格との違い・移行
1000BASE-T(Gigabit Ethernet)は4対を使い、より複雑な多値変調(PAM-5など)を用いて1Gbpsを確保します。既存の100BASE-TX配線(2対)をそのままギガに使うことはできませんが、Cat5e/Cat6であれば再配線なしで1Gbps化が可能です。現代ネットワークではアクセス層でも1Gbpsが標準になってきているため、新規配線やリプレース時はギガ対応を検討するのが一般的です。
セキュリティ・運用上の注意点
物理層はしばしば見落とされますが、物理アクセスの管理は重要です。未承認のパッチ接続、信頼できないハブの介在、古い自動ネゴシエーション設定の放置などは、意図しない帯域共有や盗聴リスクを生みます。産業用途では電磁的盗聴(TEMPESTに類するリスク)やノイズ対策の観点からシールド配線を検討する場合もあります。
まとめ
100BASE-TXは、4B5B符号化とMLT-3信号を組み合わせ、2対のツイストペアで100Mbpsを安定して提供する実績ある規格です。現代ではギガビット化が進み利用は減りつつありますが、中小規模の既存設備や産業機器では引き続き用いられる場面があります。設計・施工段階でのケーブル品質、コネクタの扱い、自動ネゴシエーションの適切な設定、定期的な検査・試験が長期的な安定運用の鍵になります。
参考文献
- Wikipedia: 100BASE-TX
- IEEE 802.3u 標準(概要)
- Cisco: Understanding Fast Ethernet (100Base-TX)
- Fluke Networks: 100BASE-TX Testing and Troubleshooting
- IEEE Standards Collection / IEEE 802.3u
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