5Gモデムメーカー徹底解説:スマホからIoTまでの主要プレーヤーと技術動向
はじめに
5Gは単に通信速度を上げるだけでなく、低遅延・多数同時接続・高信頼性を実現することで、自動運転、産業IoT、AR/VR、スマートシティなど多様なユースケースを可能にしました。これらを実現する鍵となるのが「5Gモデム」です。本コラムでは、スマートフォン向けから組み込みモジュール(IoT/産業用途)まで、主要な5Gモデムメーカーを技術的観点と市場動向の両面から詳しく解説します。
5Gモデムの役割と技術的ポイント
5Gモデムは無線物理層(PHY)と無線制御(MAC/RLCなど)、および上位のプロトコルスタックとネットワークインターフェースを統合するチップまたはモジュールです。主な技術的ポイントは以下のとおりです。
- 周波数帯:サブ6GHz(sub-6)とミリ波(mmWave)。mmWaveは超高速だが到達距離と遮蔽に弱い。
- 動作モード:NSA(非スタンドアロン)とSA(スタンドアロン)。リリース15で5Gの基礎が定義され、その後のリリースで機能が拡張。
- キャリアアグリゲーション(CA)、MIMO(多本多重)、ビームフォーミング:スループットとカバレッジ改善のための重要技術。
- 消費電力と熱設計:高性能の5Gでもバッテリーや熱限界が重要。
- RFフロントエンドとの連携:PA、フィルタ、スイッチなどのサプライチェーンも性能に直結。
スマートフォン向け主要メーカー
スマートフォン市場では、SoCに5Gモデムを統合する方向が主流ですが、専用モデム(外付け)を使うケースもあります。主要プレーヤーは以下です。
Qualcomm
Qualcommはスマホ向け5Gモデムで市場をリードしてきた企業です。初期の外付けモデム(X50など)から、高度なマルチモード対応のXシリーズ(X55、X60以降)を提供し、サブ6とmmWave、マルチキャリア対応、AIを利用した信号処理最適化などを実装しています。多くのAndroidフラッグシップ機と一部のiPhoneで採用されるなど、エコシステムの広さも強みです。
MediaTek
MediaTekはDimensityシリーズで5GをSoCに統合するアプローチを推進しています。コスト効率と省電力に優れ、ミドルレンジからハイエンドまで幅広い製品に採用され、市場シェアを拡大しています。統合型のため、モデム性能だけでなくCPU/GPUとのトータル最適化が可能です。
Samsung (Exynos)
Samsungは自社のExynosプラットフォーム向けに5Gモデムを開発・提供しています。一部のGalaxyシリーズでExynos+Exynosモデムの組み合わせが採用されてきました。Samsungは製造能力(ファウンドリ)も有しており、チップ設計と製造の連携が可能なのが特徴です。
Huawei(HiSilicon)
Huaweiの子会社HiSiliconはBalongシリーズなどで5Gモデムを開発してきました。Balong 5000は商用の5Gモデムとして発表されましたが、米国の輸出規制などにより供給チェーンに制約が生じ、グローバル市場での展開には制限があります。
Apple と Intelの経緯
Intelはかつてスマートフォン向けモデム事業(XMMなど)を推進していましたが、2019年にそのスマートフォン向けモデム事業をAppleが買収しました。Appleは以降自社モデムの内製化を進めており、この動きは将来的なスマホモデム市場構造に影響を与える可能性があります。
IoT・産業向けモジュール(5Gモジュール)メーカー
スマホ以外の分野では、チップに加えて認証済みのモジュール(PCIE/M.2/USB/embedded)として提供するメーカーが多数存在します。代表的な企業は以下です。
- Quectel:通信モジュール大手で各種5Gモジュールをラインナップし、車載や産業用途で多く採用。
- u‑blox:GNSSとセルラーモジュールの組み合わせに強み。産業用途の5Gモジュールを提供。
- Fibocom、Telit、Sierra Wireless:IoT/車載/産業向けに5Gモジュールや関連プラットフォームを提供。
これらのベンダーは無線スタック、認証、電源設計、ファームウェア更新(FOTA)などを含めたソリューションを提供し、開発負担を軽減します。
RFフロントエンドとサプライチェーンの重要性
5Gモデム単体の性能だけでなく、PA(パワーアンプ)、フィルタ(SAW/BAW)、スイッチ、アンテナ設計、基板のシグナルインテグリティなどが総合的に通信性能に影響します。Qorvo、Skyworks、Murata、BroadcomなどがRF部品やモジュールの重要サプライヤーとして機能しています。特にmmWaveではアンテナアレイやビームフォーミング用の高精度RF設計が必要です。
標準化と世代進化(3GPPリリース)
5Gは3GPPで段階的に仕様が定義されます。Release 15で初期の5G(NR)が定義され、Release 16/17で産業ユースや低遅延通信、さらに効率化された機能が追加されました。モデム開発はこれらリリース準拠のタイミングに合わせて機能強化されます。
市場課題と各社の戦略
主要な課題とメーカーの対応は次の通りです。
- 技術複雑性と消費電力:高性能化と省電力化の両立が課題。MediaTekは集積化で効率を追求し、Qualcommは高度な信号処理や電源制御で差別化。
- サプライチェーンと地政学リスク:特定国への依存や制裁は供給に影響。多くの企業がサプライチェーンの多様化を図っています。
- 差別化の軸:AIによる通信制御最適化、車載向けの信頼性・安全要件対応、産業向けの長期サポートとセキュリティなどが差別化ポイント。
- 統合化の流れ:スマホではSoC内蔵モデムが主流。IoTや産業分野では認証済みモジュールの役割が重要。
将来展望
今後の展開として注目すべき点は以下です。
- リリース17以降の機能拡張で、さらに多様な産業用途が5Gで実現される可能性。
- より高度な統合(5Gモデム+AIアクセラレータ+セキュリティ機能)により、端末側での処理が増える。
- ローカル5G/プライベート5Gの普及で、産業機器向けモジュール需要が拡大。
- 6Gの研究も始まっており、長期的には新周波数や新物理層技術に対応するモデムの研究開発が進む。
まとめ
5Gモデム市場は、QualcommやMediaTekのようなスマホ向けの大手から、Quectelやu‑bloxのようなIoTモジュールベンダーまで、多様なプレーヤーが存在します。技術面では周波数、電力、熱、RFフロントエンド連携が鍵であり、市場面ではサプライチェーンの多様化や標準化の進展が今後の競争を左右します。導入を検討する事業者は、用途(スマホ・車載・産業)に応じて、単なるチップ性能だけでなくモジュールの認証状況、FOTA体制、長期サポート、RF設計支援などを評価することが重要です。
参考文献
- Qualcomm - 5G製品情報
- MediaTek - Dimensityシリーズ
- Samsung Exynos - Modem
- Huawei - Balong 5000発表(プレスリリース)
- Apple - Intelのモデム事業買収に関する発表
- 3GPP - Release 15(5G NRの初期リリース)
- Quectel - 5Gモジュール製品情報
- u‑blox - 5Gモジュール
- Fibocom - 5G製品一覧
- Telit - 5Gモジュール
- GSMA - 5Gの概要とユースケース
投稿者プロフィール
最新の投稿
全般2025.12.28アナログエコー徹底解説:仕組み・歴史・使い方からメンテナンスまで
ビジネス2025.12.28ビジネスにおけるリスク回避の実践ガイド:戦略・評価・対応の全体像
野球2025.12.28野球のルールを徹底解説:基本から細部の判定まで(初心者〜上級者向け)
建築・土木2025.12.28PP管(ポリプロピレン管)の基礎から施工・維持管理まで|特性・用途・注意点を徹底解説

