AIX入門と深堀解説:System V系UNIXの設計・運用・最適化ガイド

概要 — AIXとは何か

AIX(Advanced Interactive eXecutive)はIBMが開発する商用UNIXオペレーティングシステムであり、System V系の設計思想をベースにBSD由来のネットワークやソケット実装、IBM独自の機能を統合したものです。主にIBMのPower Systems(POWERアーキテクチャ)上で稼働し、ミッションクリティカルな業務用途で長年採用されてきました。高い安定性、スケーラビリティ、企業向け機能(仮想化、パーティション管理、強力なバックアップ/復旧ツールなど)が特徴です。

歴史と版数の概観

AIXは1980年代初頭に登場して以来、System V Releaseの流れを汲みつつ、IBMハードウェアとの親和性を高めて進化してきました。近年の主なリリースとしてはAIX 5L、AIX 6、AIX 7 系列があり、AIX 7.x 系はエンタープライズ向けの最新機能(JFS2、拡張LVM、強化されたセキュリティ、仮想化サポートなど)を中心に提供しています。AIXは現在もIBMのサポート下でメンテナンスされており、Power Systemsの各世代(POWER7/8/9/10)向けの最適化が続けられています。

アーキテクチャと主要コンポーネント

  • カーネル設計: System Vを基盤にしつつBSD系のネットワーク機能を取り込んだハイブリッド設計。プロセス管理、メモリ管理、ファイルシステムドライバなどはUNIX系の慣例に沿っています。
  • Object Data Manager(ODM): システムの構成情報(デバイス、ネットワーク設定、インストール情報など)を格納するデータベース的な層で、AIX固有の管理概念です。ODMへのアクセスは専用コマンド群で行います。
  • Logical Volume Manager(LVM): AIXのストレージ管理の中核で、物理ボリューム(PV)をボリュームグループ(VG)にまとめ、仮想的な論理ボリューム(LV)を作成します。オンラインでの拡張やミラーリングなどが可能です。
  • ファイルシステム: JFS(Journaled File System)、改良版のJFS2をサポート。JFS2は大容量ファイルや大規模ファイルシステムに対応し、スナップショットや高速なリカバリを提供します。
  • サービス管理: System Resource Controller(SRC)によりデーモンやサブシステムの起動・停止を管理します。startsrc/lssrc/stopsrcといったコマンドが使用されます。

インストール・パッケージ管理・アップデート

AIXでは従来のインストールパッケージ形式としてinstallpがあり、インストール状況確認には lslpp コマンドを利用します。加えてAIX ToolboxによるRPM/YUM互換のパッケージ供給があり、Linux系のオープンソースツールを追加で利用可能です。システム全体のバックアップやイメージ作成には mksysb(システムイメージ作成)や savevg(ボリュームグループ単位の保存)などが使われます。修正はFix PackやService Pack単位で提供され、IBMのサポート契約下で適用されます。

運用管理と日常的なコマンド

  • ハードウェア/デバイス: lsdev, cfgmgr, mkdev, rmdev などでデバイス情報の確認と管理を行います。
  • ストレージ: lspv(物理ボリューム)、lsvg(ボリュームグループ)、lslv(論理ボリューム)でLVMの状況を監視し、mklvやextendlvでボリューム操作を行います。
  • パッケージ/ソフトウェア: lslpp -l でインストール済みファイルセットを確認、installp でインストール/アンインストールを行います。rpm や yum も環境によって利用可能です。
  • サービス: startsrc / stopsrc / lssrc によりSRC制御。SMIT(smit / smitty)はCUIベースの統合管理ツールで、多くの管理操作を対話的に行えます。

仮想化と分離技術

AIX環境はハードウェア仮想化のPowerVM(LPAR: Logical Partitioning、仮想化ハイパーバイザ)上で動くのが一般的です。PowerVMはMicro-Partitioningや仮想I/O(VIOS)を提供し、柔軟なリソース割当が可能です。OSレベルの分離としてはWPAR(Workload Partitions)という軽量なコンテナ概念があり、同一カーネル上で複数のワークロードを分離して実行できます。これによりOSイメージを丸ごとコピーするよりも高速かつ軽量に環境を分離できます。

パフォーマンス管理とチューニング

AIXはサーバ用途に応じた細かなチューニングパラメータを持ちます。代表的なツールとしては nmon、topas、vmstat、iostat、svmon、filemon などがあり、CPU使用率、メモリ状況、I/Oレイテンシのボトルネック診断に有用です。仮想メモリやページング関連の調整には vmo コマンド、ファイルディスクリプタやスレッド関連は no コマンド等で調整することが可能です。JFS2に関する設定やLVMのミラー構成などもI/O性能に大きく影響します。

セキュリティと監査

AIXは企業向けのセキュリティ機能を備えており、RBAC(Role-Based Access Control)、監査(audit)機能、暗号化サポート、KerberosやLDAPによる認証連携などをサポートします。パッチ適用や権限管理の運用が重要で、特に管理者権限の付与は最小権限で行う、定期的な監査ログの確認、脆弱性情報(IBMのセキュリティアドバイザリ)への対応を徹底することが推奨されます。

障害対応の実践的なポイント

  • 起動トラブル: mksysbイメージやブートログ(/var/adm/ras/errlogなど)を確認し、ハードウェア故障かOSレベルかを切り分けます。
  • ディスク障害: LVMを利用しているため、ミラー構成やボリュームグループの再構築、lspv / lsvg の出力で物理ボリュームの状態を確認します。バックアップからのリストアは mksysb / savevg を使います。
  • パフォーマンス問題: nmon や vmstat、iostat でボトルネック特定。CPU待ちが多い場合はスケジューリングやスレッド、I/O待ちが多ければディスクレイテンシや並列度の見直しを検討します。

導入、ライフサイクル、クラウドとの関係

AIXは伝統的にオンプレミスの企業環境で強みを発揮してきましたが、近年はハイブリッドクラウドやコンテナ化との融合が進んでいます。IBMはPower Systemsをクラウド化したサービスや仮想化基盤を提供しており、既存のAIX運用資産を活かしつつクラウドの柔軟性を取り入れるケースが増えています。AIXのライフサイクル管理ではIBMのサポート契約、修正提供スケジュールに合わせた計画的なアップデートが重要です。

まとめとベストプラクティス

AIXはSystem V系の思想に基づく堅牢なUNIXで、企業向けに特化した多くの運用機能を備えています。運用時のポイントは以下の通りです。

  • 定期的なmksysbバックアップとボリュームグループのスナップショット戦略を持つ
  • パッチ・Fix Packの適用は計画的に行い、テスト環境で検証する
  • ODMやLVMの構成変更前には必ず現状把握とエクスポートを行う
  • パフォーマンス監視はnmonやtopasを常用し、閾値監視とアラート設定を行う
  • 仮想化(PowerVM/LPAR/VIOS)とWPARを適材適所で使い分ける

参考文献