AISASとは何か|デジタル時代の顧客行動モデルと実践マーケティング戦略

AISASとは — デジタル時代に生まれた行動モデルの全体像

AISASはAttention(注意)→Interest(興味・関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)という消費者の行動プロセスを示すモデルです。従来のAIDMA(Attention, Interest, Desire, Memory, Action)に代表されるオフライン中心の購買プロセスを、インターネットとソーシャルメディアが浸透した環境に合わせて再定義したものとして広く利用されています。日本では電通らによって提唱・普及した考え方として知られ、検索行動と共有(口コミ・UGC)の重要性を組み込んだ点が大きな特徴です。

AISASの各フェーズを詳しく解説

  • Attention(注意)
    消費者が商品やブランドの存在に気づく段階です。オンラインではディスプレイ広告、SNS投稿、検索結果の露出、ニュース記事などがトリガーになります。注意獲得はインプレッションや視認性(viewability)が鍵です。

  • Interest(興味)
    注意を引いた後、さらに深掘りして関心を持たせる段階です。短い導入コンテンツやビジュアル、製品の特徴を伝えるランディングページ、レビューの概要などで興味を引き続けます。ここではコンテンツの質とメッセージの関連性(レレバンシー)が重要です。

  • Search(検索)
    AISAS最大の特徴は、この検索フェーズの存在です。消費者は追加の情報を求めて検索エンジン、SNS、口コミサイト、比較サイトを利用します。検索クエリの意図(情報取得型、比較型、購入意欲型など)を理解し、検索結果で適切に応答することが不可欠です。

  • Action(行動)
    購入、資料請求、問い合わせ、来店予約などの具体的な行動を指します。ウェブサイトの導線設計(CTAの最適化)、購入プロセスの簡素化、決済手段の充実がここでの課題です。コンバージョン率が主要指標になります。

  • Share(共有)
    購入や利用後に体験をSNSや口コミで共有する段階です。ポジティブな共有は新たな注意喚起を生み、AISASの循環を促進します。レビュー促進施策やシェアしやすいコンテンツ設計、UGC活用がポイントになります。

AISASと従来モデルとの比較:AIDMAやAISCEASの位置づけ

従来のAIDMAはマス広告中心の購買プロセスを想定しており、消費者の記憶(Memory)を重視していました。一方AISASは消費者主体の能動的な情報収集(Search)と情報拡散(Share)を組み込んでいるため、デジタルチャネルに適合します。

さらに派生モデルとしてAISCEASなど複数の細分化モデルが存在します。これらはSearchの後にComparison(比較)やExamination(検討)を明示するなど、検索後の行動をより細かく扱う場合に使われます。重要なのは、どの粒度で顧客行動を設計・計測するかを自社のビジネスに合わせて定義することです。

各フェーズで狙うべきKPIと施策

  • Attention:インプレッション、リーチ、CPM。施策はディスプレイ広告、SNS広告、PR、ブランド動画。

  • Interest:クリック率(CTR)、ページ滞在時間、直帰率。施策はコンテンツマーケティング、動画の冒頭最適化、ランディングページ改善。

  • Search:オーガニック検索流入、検索クエリ、検索順位。施策はSEO(技術的SEO、コンテンツSEO)、リスティング広告、ロングテールキーワード対策。

  • Action:コンバージョン数、コンバージョン率(CVR)、購入単価。施策はA/Bテスト、フォーム最適化、決済UX改善、リターゲティング。

  • Share:シェア数、口コミ件数、UGC件数、レビュー評価。施策はインセンティブ付きレビュー依頼、SNSキャンペーン、UGC収集の仕組み。

実務への落とし込み — チャネル別の具体的対応

SEO/コンテンツ:Searchフェーズを意識した上で、検索クエリに対する明確な答え(ユーザーの疑問に即したコンテンツ)を作る。FAQ、比較記事、ハウツー、レビューなどを充実させ、スニペットや構造化データでSERP上の視認性を高める。

SNSマーケティング:AttentionとShareに直結。拡散されやすいクリエイティブやタイミング、インフルエンサーとの協業、SNS上での顧客対応(コミュニケーション)を設計する。

リスティング/広告:Interest→Search→Actionの流れを意識してキーワード設計とランディングページを連動させる。検索広告は購入意欲の高いクエリを優先、ディスプレイは興味喚起に用いる。

メール/CRM:Action後のリテンションとShareを強化するため、購入後フォロー、レビュー促進、会員限定コンテンツ提供を行う。

計測・改善のための手順(PDCA)

  • 設計(Plan):顧客ペルソナを定義し、各フェーズでの理想的行動とKPIを設定する。

  • 実行(Do):チャネル別施策をローンチ。ランディングページ、広告、コンテンツを展開。

  • 計測(Check):解析ツールでフェーズ別の指標を監視。サーチコンソール、アナリティクス、SNSインサイト等を連携。

  • 改善(Act):A/Bテスト、検索キーワードの最適化、クリエイティブ差替えを実施。Shareを増やすためのUX改善も実施。

実際の判断軸と優先順位付け

リソースは有限なので、事業フェーズとKPIに応じて投資先を決めます。認知が低い新商品ならAttention/Interestに重心を置き、既に検索需要がある商品や成熟カテゴリではSearch→Actionに注力する。Shareは長期的な成長の爆発力を持つため、口コミを生む仕組み(顧客体験、レビュー文化、コミュニティ形成)を並行して育てるべきです。

落とし穴と注意点

  • 検索ニーズの誤解:検索クエリは多義的なので、意図を正確に解釈しないと無駄な流入を生みます。クエリ分析を怠らないこと。

  • シェアの操作リスク:偽レビューや不自然なシェアは信頼を損なう。インセンティブ設計は透明性と倫理を担保する。

  • チャネル依存:特定のプラットフォームに依存するとアルゴリズム変化で影響を受けやすい。オウンド資産(自社サイト、メールリスト)を育成すること。

実践チェックリスト(短期・中期)

  • ペルソナとジャーニーマップを作成する

  • 各フェーズに対応するKPIを明文化する

  • Searchフェーズに向けたコンテンツ/SEOの優先順位を決める

  • Actionの障壁(フォーム、決済、配送)を洗い出して改善する

  • Shareを促進するレビュー・UGCの仕組みを導入する

  • 定期的にデータをレビューしてA/Bテストを回す

まとめ — AISASを自社で生かすために

AISASは単なる理論ではなく、デジタル時代における顧客接点設計の実用的枠組みです。重要なのは各フェーズを線でつなぐこと、特にSearchとShareを中心に据えた施策設計です。測定と改善を繰り返し、チャネルや事業特性に合わせてモデルを細分化(例:ComparisonやEvaluationを追加)することで、より精度の高いマーケティング運用が可能になります。

参考文献

AISAS - Wikipedia(日本語)

AIDMA - Wikipedia(日本語)

電通(Dentsu)公式サイト