第1種換気とは?仕組み・設計ポイント・メリット・注意点を徹底解説
概要 — 第1種換気とは何か
第1種換気は、機械給気(ファン等で外気を室内へ供給)と機械排気(室内空気を機械で排出)の両方を機械で行う換気方式を指します。日本の換気方式の分類では、第1種が機械給気・機械排気の“全機械式(バランス型)”であり、必要に応じて熱交換器(熱回収装置:熱交換型)を組み合わせて室内外の熱ロスを低減します。
住宅や高断熱高気密建築、病院・クリーンルーム・高精度な室内環境管理が求められるオフィスなどで採用されることが多く、24時間換気との相性が良い方式です。
第1種換気の仕組みと構成要素
第1種換気システムは主に以下の要素で構成されます。
- 給気ファン:外気をフィルタを通して室内へ供給する。
- 排気ファン:室内空気を屋外へ排出する。
- 熱交換器(オプション):給気と排気の間で熱(場合によってはエンタルピー)を交換し、熱エネルギーを回収する。
- ダクト、給気・排気口(グリル・ディフューザー)および逆流防止機構。
- フィルタ(粗塵、高性能フィルタ等)、騒音対策、制御装置(風量制御、タイマー、センサ連動)。
第1種換気の分類と熱交換の方式
熱交換を用いる第1種換気は主に2種類に分かれます。
- HRV(Heat Recovery Ventilator):主に顕熱(温度)のみを回収する方式。冷暖房負荷の低減に有効。
- ERV(Energy/Enthalpy Recovery Ventilator):顕熱と潜熱(湿度)を含むエンタルピーを回収できる方式。高湿度・低湿度の極端な気候条件で室内湿度の制御に有利。
熱交換素子はクロスフロー(プレート)、カウンターフロー、ロータリー(エンタルピーホイール)などがあり、機種によって熱回収率や湿度回収特性、搬送ロスやメンテナンス性が異なります。
メリット(長所)
- 給気と排気を機械で制御するため、換気量の精度が高い。設計通りの換気が可能。
- 高気密住宅でも安定した換気ができるため、温熱環境と空気品質を両立できる。
- 熱交換器を用いることで冷暖房エネルギーの損失を抑制し、省エネに寄与する。
- フィルタを通して給気するため、花粉・黄砂・外来粉じんの低減が可能。
- 室圧を中性に保ちやすく、外気浸入やドラフトの問題を軽減できる。
デメリット(短所)と注意点
- 設備コストと初期導入費が比較的高い(熱交換器やダクト工事、制御機器など)。
- メンテナンス(フィルタ清掃・交換、熱交換素子の定期点検)が必要。適切な維持管理が行われないと性能低下や臭気問題を招く。
- 給気・排気のバランスを崩すと室内圧が変動し、隙間風や給排気効率の低下、燃焼器具の逆流リスクが生じる。特に室内に開放型燃焼機器がある場合は安全対策が必須。
- 熱交換器における結露や凍結への対策(バイパス、霜取り等)が必要な気候がある。
設計上の基本ポイント
第1種換気を適切に設計するための主要な項目は以下の通りです。
- 換気量の設定:用途(居住、事務所、病院等)に応じた換気量を確保する。住宅では24時間換気の基準に合わせ0.5回/h程度を目安にすることが一般的(建築基準およびガイドラインに基づく)。
- ダクト設計:短く直線的なダクト経路を確保し、圧損を最小限にする。曲がりや枝分かれによる局所圧損は風量不足や騒音の原因となる。
- 給排気口の配置:給気は居室の居場所に近い位置、排気はキッチン・浴室・トイレ等の汚染源付近に配置し、室内の空気が効率よく流れるようゾーニングを行う。
- 気密性能との整合:高気密建物では第1種換気が最も有効。建物全体の気密性(C値)と換気量を両立させること。
- 断熱と熱交換:熱回収率(効率)を対象気候と建物用途に合わせて選定。エンタルピーユニットは湿度管理の視点で有利。
- 騒音対策:風切り音、ファンの振動、ダクト共鳴を抑えるためにダクト径・取付方法・防振材等を設計に組み込む。
- 安全対策:燃焼機器との絡みをチェック。排気が住宅内の開放型燃焼器から逆流しないように設計・監視する。
換気量の目安と計算(実務的留意点)
換気量の設定は用途や人数、室容積、活動内容によって異なります。住宅の場合、常時換気の考え方として「0.5回/h」の空気交換がしばしば採用されるほか、居室ごとに給気量と排気量をバランスさせる方式が一般的です。オフィスや商業施設では人員に応じた外気量(m3/h・人)を基準にすることが多いです。
設計時には次の点に注意してください。
- 給気・排気の風量差が小さくなるように調整し、室圧を中性に近づける。
- 短期ピーク(調理時、集会時)の換気ニーズに対応するため、可変速ファンやバイパス、局所排気(レンジフード等)を併用する。
- ダクト全体の圧損を計算してファン選定を行う。設計風量時の静圧余裕を確保する。
熱回収の効果と選び方
熱交換器を設けることで外気をそのまま室内に導入する場合に比べ、暖房・冷房の負荷を低減できます。一般的な熱回収率は機種により異なりますが、近年の住宅向け機器では顕熱交換で60〜85%程度、ロータリ型や高性能プレート式でさらに高効率を実現するものもあります(機種・動作条件で差が大きい)。
選定のポイント:
- 気候条件(寒冷地での霜対策、湿潤地域での湿度制御)
- 熱回収率と同時に通気抵抗(圧損)、電力消費(ファン電力)を比較する
- エンタルピー回収が必要か、湿度管理をどう行うか
- メンテナンスのしやすさ(フィルタ交換、素子の清掃)
施工・取り付け上の実務ポイント
- ダクトは断熱処理を行い、夏季の結露や冬季の熱損失を抑える。特に外気温が低い環境では給気ダクトの室内通過を検討する。
- 給気口は床付近や天井付近の空気流を考慮して位置決めし、空気の滞留を避ける。
- 配管経路に防振支持を入れて振動や音の伝播を抑える。
- 施工後の風量・室圧測定と調整(バランス調整)を必ず実施する。風量計や静圧計を用いて検証すること。
維持管理(メンテナンス)
第1種換気は機器に依存するため、定期的なメンテナンスが性能維持に不可欠です。主な維持管理項目は以下の通りです。
- フィルタ清掃・交換(季節や設置環境により3か月〜1年を目安)
- 熱交換素子の点検・清掃(汚れやカビの発生を防止)
- ファン軸受・モーターの点検、必要時の交換
- ダクト内部の清掃(長期間放置すると塵やカビが蓄積する)
- 性能低下時の風量測定とバランス調整
安全面の留意点
第1種換気は密閉性の高い建物で有効ですが、同時に以下の安全面へ配慮する必要があります。
- 開放型の燃焼機器(プロパンガス湯沸器等)がある場合、換気による室内負圧で排気が逆流するリスクがあるため、排気筒の密閉性や別途排気機構の設置等で安全対策を行う。
- 換気停止時や停電時の代替換気経路や警報措置を検討する。
- カビやアレルゲン対策としてフィルタの性能と交換頻度を適切に設定する。
第1種換気を採用する際の実務的判断基準
第1種換気の導入が適するケースは次の通りです。
- 高気密・高断熱住宅(ZEH等)で熱ロスを抑えながら換気を行いたい場合。
- 室内空気品質(IAQ)を厳密に管理する必要のある環境(病院、保育園、クリーン環境)で安定した外気導入と局所排気を行いたい場合。
- 都市部で花粉やPM2.5など外気汚染が懸念される場合にフィルタを通した給気で室内環境を守りたい場合。
第2種・第3種換気との比較
簡潔に比較すると:
- 第1種:機械給気+機械排気(バランス型、熱回収が容易)
- 第2種:機械給気+自然排気(給気重視、局所排気で対応)
- 第3種:自然給気+機械排気(排気重視、一般住宅で多く採用されてきた)
第1種は制御性と熱回収性能で優れる反面、コストと維持管理負担が高くなります。用途・予算・維持体制を踏まえた選定が重要です。
設計・施工後の確認とコミッショニング
納入後は以下の点を確認して引き渡すことが推奨されます。
- 定格風量での動作確認と実測風量の記録。
- 給排気のバランス(室圧測定)と必要な調整の実施。
- 騒音測定(居室での音圧レベルが許容範囲か)
- メンテナンス計画(フィルタ交換周期や点検項目)の提示。
まとめ(導入を検討する際のチェックリスト)
- 建物の気密・断熱性能は十分か(第1種は高気密と相性が良い)
- 熱回収の必要性(省エネ)と湿度制御の重要度はどの程度か
- 初期費用とランニングコスト、維持管理体制を確保できるか
- 給排気機器の騒音、ダクト経路、施工性を事前に確認しているか
- 燃焼機器や排気経路との安全性(逆流防止)を確認しているか
参考文献
- 国土交通省(MLIT) — 住宅政策・建築基準、換気に関するガイドライン等(参考資料)
- 国立研究開発法人 建築研究所(BRI) — 住宅の換気・熱環境に関する研究資料
- 一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC) — 住宅の省エネルギー・換気基準に関する資料
- 「24時間換気」 - Wikipedia(日本語) — 住宅における24時間換気の背景と法規制(参考)
- ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会) — 換気設計基準(国際的な参照基準、設計の考え方の参考として)


