フェーザー入門と応用──仕組み・歴史・実践テクニックを徹底解説
フェーザーとは
フェーザー(phaser)は、音響信号に時間的な遅れではなく位相の変化を与え、その位相差を原音と混ぜることで周波数領域に周期的なノッチ(谷)とピークを作り出し、動的に掃引(スウィープ)させることで得られるモジュレーション効果です。ゆらぎのある金属的/宇宙的な煌めきや、うねるような動きが特徴で、ギターやキーボード、シンセ、ボーカルやドラムの特殊効果として広く用いられます。
原理:位相シフトとオールパスフィルタ
フェーザーのコアは「オールパスフィルタ(all-pass filter)」です。オールパスフィルタ自体は振幅特性をほぼ一定に保ちながら周波数ごとに位相だけを変化させる回路で、複数段(ステージ)連結すると周波数依存の位相シフト量が増え、結果として元の信号と合成したときに周波数領域で干渉(位相差による加算・減算)が起き、ノッチ(位相反転による減衰)とピークが生まれます。
これを低周波発振器(LFO)で制御すると、ノッチの位置が時間的に変化して独特の“掃引”効果が得られるのがフェーザーの基本動作です。重要なパラメータとしては、LFOのレート(速度)、デプス(深さ)、フィードバック(=レゾナンス/共鳴量)、ステージ数、ミックス(ドライ/ウェット比)などがあります。フィードバックを増やすとノッチ周辺のピークが鋭くなり、より金属的で強い効果が得られます。
フェーザーとフランジャー/コーラスの違い
よく混同されるエフェクトにフランジャーとコーラスがあります。簡潔に言うと:
- フランジャー:短い可変遅延(mm〜数ms)を原音と合成することでコームフィルタ(等間隔のノッチ)が生じる。時間遅延がベースで、ゼロ遅延付近で位相反転が起こり独特の“ジェット”感が出る。
- コーラス:ごく短い遅延にピッチ変化を伴う同時発音的な効果で、厚みや広がりを作る。基本は遅延ベースで、フェイズではない。
- フェーザー:オールパスによる位相シフトを用いるためノッチ位置は等間隔とは限らず、より“柔らかい”あるいは“金属的”なうねりが得られる。
簡単にまとめると、フランジャーとコーラスは時間遅延を利用するのに対し、フェーザーは位相操作が基礎にある、という違いです。
歴史と代表的なユニット
フェーザー的なサウンドは1960年代後半〜1970年代にかけて広まっていきました。初期の例としては、Uni-Vibeのような位相変調系の機器(光学式やアナログ回路)を用いたユニットがあり、後にMXR Phase 90やElectro-Harmonix Small Stoneといったコンパクトペダルが普及したことでギタリストの手元に定着しました。これらのアナログペダルはシンプルなパラメータでも強いキャラクターを持ち、多くの名演で使われています。
現代ではアナログ回路の再現を目指したペダル、専用DSPを用いたデジタルフェーザー、プラグイン形式のソフトウェアなど多様化しています。ステレオ対応やテンポシンク、LFO波形の選択などデジタルならではの拡張も一般的です。
基本パラメータとサウンド作りのコツ
- Rate(レート): LFOの速度。遅い設定はゆったりとしたうねり、速い設定はトレモロに近い速い揺れを生む。テンポに合わせる用途ならテンポシンク可能な機種が便利。
- Depth(デプス): 位相変化の振幅。深くするとノッチが広く動き、劇的になる。浅めに設定すると微妙な色付けとして機能。
- Feedback / Resonance(フィードバック/レゾナンス): 出力の一部を入力に戻して共振を強める。中〜高で金属的なピークが現れ、ヴィンテージなトーンやスペイシーな効果が得られる。
- Stages(ステージ数): オールパスの段数。段数が増えるほどノッチ数や音色の複雑さが増す。典型的には4段や6段、8段など。
- Mix(ドライ/ウェット): 原音と処理音の比率。完全なウェットやパラレル処理で特定の効果を狙う。
実践的な設定例:ギターでクラシックなうねりを得たいときは、Rateをやや遅め、Depth中程度、Feedbackを控えめにして温かみのある動きを。リードでピッチの埋もれを防ぎつつ速い揺らぎを加えたいときはRateを速め、Depthを浅めに設定すると良いでしょう。
応用テクニック
フェーザーは単なるエフェクト以上に創造的な用途が多くあります。
- ステレオ拡張:左右でLFOの位相をずらすことで広がりが得られる。完全に逆相にすると劇的なステレオ移動が生まれるが、モノラル時の音消しに注意。
- センドリターンやリバーブの前後:リバーブの前にフェーザーをかけると反射成分が揺れ、奥行き感のある特殊効果が得られる。逆にリバーブ後にフェーザーをかけると空間全体がうねる印象に。
- エンベロープ連動:LFOではなくエンベロープフォロワーでフェーザーの深さやレートを音量に応じて変化させると、演奏表現に合わせて動くダイナミックな効果が得られる。
- シリアル/パラレル配置:複数のフェーザーを直列につなぐと非常に複雑なピーク/ノッチが得られる。並列に配置して微妙に異なる設定にすると厚みが出る。
ジャンル別の使われ方
フェーザーはその独特の揺れで様々なジャンルに適しています。サイケデリック/プログレッシブロックでは空間的で浮遊感のある効果、ファンクやディスコではリズミカルなアクセント作り、エレクトロニカ/IDMではサウンドデザイン的なテクスチャ生成に使われます。ポップスやシネマティックなアレンジでも、極端にせず色付けとして薄くかけるだけで楽曲に動きが生まれます。
録音時の注意点
録音やミックスでフェーザーを使う際はモノ互換性や位相問題に注意してください。特に強めのフィードバックやステレオでの位相ズレは、モノラル再生時に音が薄くなったり消失する可能性があります。重要なトラックではオートメーションでバランスをコントロールするか、フェーザーをサブグループ/バスで処理して全体の相対バランスを調整すると安全です。
アナログ vs デジタル
アナログフェーザー(オールパス回路や光学式の変調素子)は“温かさ”や偶発的な歪み、回路特有の癖が魅力です。一方デジタル実装は段数やLFO波形、テンポシンク、ステレオ処理、モジュレーションソースの多様化など高機能化が容易で、安定した再現性が得られます。どちらが優れているかは用途と好み次第で、両者をブレンドして使うことも一般的です。
よくある誤解
- 「フェーザーは常に派手」:設定次第では非常に微妙な色付けにもなるため、楽曲の中では控えめに使用することが多い。
- 「フランジャーと同じ」:先述の通り、原理と音色の傾向が異なるため用途に応じて使い分ける。
- 「ステージ数が多いほど良い」:多段は複雑な音になるが、必ずしも楽曲に合うとは限らない。少数段のシンプルな動きが生きる場面もある。
実践ワークフロー例(ギター)
1) まずはペダルのMixを50/50にして原音と処理音のバランスを掴む。2) Rateを曲のテンポに合わせ(もしくは耳で馴染む速さに)設定。3) Depthを上げてノッチの動きを確認、必要ならフィードバックでキャラクターを調整。4) 音が濁る場合はステージ数やフィードバックを下げ、EQで不要な帯域を削る。5) ソロや特定のフレーズだけ強くかけたい場合はエクスプレッションやオートメーションで動的に制御する。
まとめ
フェーザーはシンプルな原理から多彩な表現を引き出せる強力なエフェクトです。位相を用いた音の干渉という物理的な性質を理解すると、ただ「かける」だけでなく楽曲やサウンドデザインの目的に合わせて適切に使い分けられるようになります。アナログの個性とデジタルの利便性を状況に応じて選び、ステレオ処理やモジュレーションの応用で独自のサウンドを作ってみてください。
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参考文献
- Phaser (effect) — Wikipedia
- All-pass filter — Wikipedia
- Uni-Vibe — Wikipedia
- MXR Phase 90 — Wikipedia
- Electro-Harmonix Small Stone — Wikipedia
- Phasing & Flanging — Sound On Sound
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