Tekla Structures徹底解説:BIMで実現する構造設計・製作・施工の高精度ワークフロー

はじめに

Tekla Structures(以下、Tekla)は、構造設計・詳細設計(ディテーリング)・製作・施工までのワークフローを一貫して支援するBIM(Building Information Modeling)ソフトウェアです。特に鉄骨、コンクリート、鉄筋、プレキャストなどの構造要素を高精度に3次元モデル化できる点で世界中の構造設計事務所、製作工場、ゼネコン、サブコントラクターに広く採用されています。本稿ではTeklaの機能、導入効果、実務上の運用ポイント、連携・自動化事例、導入時の留意点などを技術的に深掘りします。

Tekla Structuresとは何か — 背景と位置づけ

TeklaはフィンランドのTekla社が開発したソフトウェアで、2011年にTrimble(トリンブル)に買収されて以降はTrimbleブランドの製品群の一部として提供されています。従来の2次元図面ベースの詳細設計とは異なり、部材レベルで寸法、形状、材質、接合情報、製造指示など属性情報を持つ「正確な3Dモデル」を作成することで、製作工場へ直接NCデータを渡したり、施工手順をシミュレーションしたりできます。

主な機能と技術的特徴

  • 高精度の実体モデル: 実部材(ビーム、プレート、コラム、ボルト、アンカー、鉄筋など)を忠実に表現でき、製作図や現場で必要な情報を属性として保持します。
  • 各種構造種別のサポート: 鉄骨、溶接構造、鉄筋コンクリート(配筋、かご)、プレキャストコンクリートなど、異なる工法を同一モデル内で取り扱えます。
  • 製作・加工データ出力: NC(DSTV/NC)ファイル、切断・穴あけリスト、ショップドローイング、加工図、材料表(BOM/MTL)を自動生成します。
  • 高度なパラメトリック部品(コンポーネント): ボルト接合や接合金物、配筋ユニットなどをパラメータ化して再利用しやすくできます。Tekla Warehouseではコミュニティやメーカー提供のコンポーネントが共有されています。
  • オープンな連携性: IFC、DWG、DXF、CIS/2、SDNFなど業界標準フォーマットに対応し、他のBIM/CADツール(Revit、Navisworks、Tekla以外の解析ソフト)とデータ連携が可能です。またTekla Open APIにより.NET(C#等)ベースでカスタム自動化やプラグイン開発が行えます。
  • クラウドとコラボレーション: Trimble Connectを介したクラウド共有、モデルシェアリング機能により多拠点での同時作業や承認ワークフローが実現できます。

実務ワークフロー別の活用例

以下に代表的なワークフローごとのTekla活用例を示します。

鉄骨(鋼構造)のモデリング〜製作

  • 部材を実体として配置し、継手やプレート、溶接記号、ボルト仕様を属性で管理。
  • 干渉チェックを行い、干渉箇所は現場・工場向けに修正指示を付与。
  • メーカー別の加工機へ渡すためのDSTV/NCファイルや切断リスト、加工図を出力して自動化。

コンクリート・配筋(RC/PC)のモデリング

  • かご型鉄筋、曲げ指示、フックや定着長などを正確に表現可能。
  • プレキャスト部材は製品情報(型枠、運搬用金具等)を保持し、工場製作と現場施工の整合性を確保。
  • 配筋の集計から鉄筋表、製造図を自動生成。

施工・現場での活用

  • 組立順序(エレベーターやクレーン計画に基づく吊り順)や4D施工シミュレーションの基礎データとして利用。
  • 部材ごとのトレーサビリティ(ロット、製作番号)をモデルに紐づけて引き渡し・検査を効率化。

導入効果とROI(投資対効果)

導入効果は業種やプロジェクト規模によって異なりますが、一般に以下のような効果が期待できます。

  • 図面の再作成・手戻りの削減による設計リードタイム短縮。
  • 製作現場でのミス削減(実寸モデルから直接NCを出力することで加工ミスが減少)。
  • 現場での組立能率向上・検査工数削減。
  • 数量の精緻化により見積精度が向上し、工事コスト管理がしやすくなる。

Teklaを現場で使う際のベストプラクティス

  • モデリング規約の策定: 部材命名規則、属性の入れ方、レベル分けなどを組織で統一することで再利用性と連携効率が高まります。
  • ワークフローの分担と役割定義: 設計(概念・構造)→詳細設計(ディテール)→製作データ作成→現場施工という工程ごとに責任範囲を明確にします。
  • 連携フォーマットの確認: Revit等との連携ではIFCやダイレクトリンクを使う際にバージョンや変換ルールを事前確認します。
  • 自動化とスクリプト活用: Tekla Open APIを用いたカスタムツール作成で、ルーチン業務(表作成、名称一括変更、品質チェック)を自動化できます。
  • 社内教育とスキル継承: 初期導入時のハンズオン研修と、テンプレート・コンポーネントの整備が重要です。

導入時の課題と対応策

Tekla導入にはメリットが大きい反面、以下のような課題もあります。

  • 初期コストと学習コスト: ライセンス費用と習熟に時間がかかるため、プロジェクトでの早期効果を実証するパイロット導入がおすすめです。
  • 社内ワークフローの変革: 2D主流の文化からBIM主導へプロセスを移行するためのトップダウンの推進が必要です。
  • データ管理(大容量モデル): 大規模プロジェクトではハードウェア要件やネットワーク環境を整備し、クラウド連携を活用した分散作業を設計します。

他ツールとの連携・エコシステム

Teklaは単体で多機能ですが、プロジェクト全体の効率化には他ツールとの連携が不可欠です。

  • Trimble Connect: 設計・施工関係者間でモデルやドキュメントを共有、承認ワークフローに活用。
  • 解析ソフトとの連携: 構造解析モデルと連携することで解析結果を受けての設計変更反映ができます(IFCや専用リンクを利用)。
  • 施工管理ツール、工程管理: 4Dシミュレーションやコスト管理ツールと連携して、工程・数量・原価を同期管理できます。

最新動向と今後の可能性

BIMと建設業界のデジタル化が進む中、Teklaは次のような方向で進化しています。

  • クラウドベースのコラボレーション強化による多拠点同時作業の高度化。
  • AIや自動化を活用した干渉検出や設計提案の高度化(将来的な自動設計支援)。
  • 現場IoTデータとの連携によるトレーサビリティ・品質管理のリアルタイム化。

まとめ(導入検討者への提言)

Tekla Structuresは、構造物の精緻な3Dモデルを中心に据え、設計・製作・施工の一貫した情報連携を実現できる強力なBIMツールです。導入効果を最大化するためには、モデリング規約の整備、ワークフローの再設計、初期教育の投資、そして他ツールとの連携設計が不可欠です。特に製作工場と現場の間で情報の齟齬を減らし、リードタイムやロスを削減したいプロジェクトでは高いROIが期待できます。

参考文献

Tekla(Trimble)公式サイト

Tekla Structures 製品ページ

Tekla Open API(開発者向けドキュメント)

Tekla Warehouse(コンポーネントライブラリ)

Trimble Connect(クラウドコラボレーション)

Tekla Structures - Wikipedia