鉄管の種類・製造・設計・施工ガイド — 用途別の選び方と保守対策
はじめに — 鉄管(鋼管)とは
鉄管(鋼管)は鋼を材料とする円筒状の管で、流体輸送(上水、下水、ガス、石油)、土木構造(杭、支柱)、建築設備(空調配管、消火配管)など幅広い分野で使われます。耐荷力や耐圧性、耐食性、経済性を要求されるため、材料・製造方法・表面処理・接合方法などの選定が設計上重要です。
鉄管の主な種類
- 無縫鋼管(シームレス):鋼の塊(ビレット)を加熱し伸管することで製造。高圧・高温用途に強く均質性が高い。
- 溶接鋼管(溶接管):板または帯を丸めて継ぎ目を溶接して作る。製造コストが低く大口径化が容易。代表的な製法にERW(電気抵抗溶接)、SAW(埋弧アーク溶接、長手方向LSAWとらせん状のSSAW/spiral)などがある。
- 亜鉛めっき鋼管:外部腐食対策として溶融亜鉛めっきを施したもの。屋外・地中での一般配管に広く使われる。
- ステンレス鋼管:耐食性が高く衛生用途や化学薬品ライン、海水などに適する。コストは高め。
- ライニング鋼管:内部にセメントモルタルやエポキシを塗布して耐食性・摩耗性を向上させたもの。送水や下水での内面腐食防止に有効。
製造方法の特徴と使い分け
製造方法は性能と価格に直結します。
- 無縫管:継ぎ目がないため破壊に強く、圧力容器や高圧配管で採用される。ただし板材からの加工よりコストが高い。
- ERW(電気抵抗溶接):薄肉・中肉の配管で多く使われる。均一な溶接が可能で長さの調整も容易。
- SAW(埋弧溶接):大口径・厚肉で高い生産性を確保。パイプラインのライニングやラインパイプで多用される。
- らせん溶接(SSAW):帯鋼をらせん状に巻いて溶接するため径が大きくても比較的安価に製造可能。
材質と規格
鉄管は用途に応じた鋼種と規格が適用されます。代表的な国際・産業規格としてはASTM、API、ISO、各国のJISなどがあり、規格により化学成分、機械的性質、試験方法が定められます。例としてASTM A53(一般配管用炭素鋼管)、ASTM A106(高温サービス用無縫鋼管)、ASTM A312(ステンレス鋼管)、API 5L(ラインパイプ)、ISO 3183(パイプライン用鋼管)などが知られています。
寸法・表示(呼び径、外径、肉厚)
日本では「呼び径(呼び)」という慣習があり、実際の外径(OD)と必ずしも一致しません。設計では外径と肉厚を正確に用いて断面係数や内径を計算します。内径は概ね「内径=外径−2×肉厚」で求められます。肉厚選定には設計圧力、許容応力、腐食余裕、接合部の効率(溶接継手効率)などを考慮します。
設計上の基本式(配管の壁厚計算)
配管の必要肉厚を算定する代表的な公式として、所謂バロウ(Barlow)式に基づくものがあります。簡略化した形は次の通りです。
t = (P × D) / (2 × S × E + P)
ただし、t:設計肉厚、P:設計内圧(ゲージ圧)、D:外径、S:設計許容応力、E:接合効率(継手の強さ係数)です。実務では上記に腐食余裕や製造公差、外圧や衝撃などの係数を加え、関連規格(ASME B31.1/B31.3など)や国の基準に従って算出します。
接合・施工方法
- 溶接:現場溶接(溶接継手)や工場溶接により接合。溶接手順書(WPS)、溶接管理、熱処理が必要な場合がある。
- ねじ込み・ソケット接続:薄肉配管や小口径で多く用いる。漏洩管理と締付管理が重要。
- フランジ接続:着脱や点検が必要な箇所に有効。ガスケットとボルト締めの管理が必要。
- 機械式継手・グルーブ継手:施工性が良く短工期で組み立て可能。耐圧・耐震性の評価が必要。
- 埋設施工:地盤による支持、被覆、排水、電気絶縁、腐食対策(被覆材や陰極保護)を検討する。
耐食・防食対策
鉄管は腐食が寿命を左右するため設計段階で防食を考慮します。主な対策は以下の通りです。
- 外面防食:溶融亜鉛めっき、エポキシ粉体塗装、二層PE被覆、アスファルト系被覆
- 内部防食:セメントモルタルライニング、エポキシコーティング、ビニールライニング
- 陰極防食(カソード保護):インプレスドカレント方式や犠牲陽極方式
- 腐食監視:電位測定、インライン検査(極性測定)、ピギングによる内面観察
試験・検査
品質確保のために材料試験・製造検査・現場検査が不可欠です。代表的な検査項目は以下の通りです。
- 水圧試験(ハイドロテスト)
- 非破壊検査(NDT):放射線検査(RT)、超音波検査(UT)、磁粉探傷(MT)、浸透探傷(PT)
- 化学成分・機械的試験:引張試験、降伏点、伸び、硬さ
- 溶接部の検査:外観、非破壊検査、溶接記録の確認
用途別の留意点
- 送水管:内面ライニングと継手の水密性、耐食性が重要。塩素処理水や浄水場からの水質影響も配慮。
- ガス配管:継手の気密性と外部からの衝撃、地震時の耐久性を重視。漏洩検知システムとの連動が不可欠。
- 油・ガスパイプライン:圧力・温度・環境(海底・凍結地)に応じた材質選定。腐食管理(インライン検査、ピギング)を実施。
- 杭・構造用鋼管:荷重・地盤条件に応じた強度設計と防食(被覆、陰極保護)を行う。
保守・寿命管理
鉄管の寿命を延ばすためには定期点検と状態基準に基づく保守が必要です。典型的な管理手法は以下の通りです。
- 定期的な外観点検と電位測定による防食性能評価
- ピグ検査や内部カメラ検査による内面腐食・スケール確認
- 漏洩検知システム(圧力低下、流量差)による早期検出
- 腐食が進行した区間の局所補修(クランプ、挿入管)や段階的な更新計画
環境・リサイクル
鋼はリサイクル性が高く、鋼管も解体後は再資源化が容易です。設計段階で長寿命化・メンテナンス性向上・再利用を考慮することが環境負荷低減につながります。また、被覆材や内面ライニングの種類によっては廃棄処理に留意が必要です。
まとめ
鉄管は材料・製造方法・規格・接合方法・防食対策など多くの要素を総合的に検討して選定・設計・施工しなければなりません。用途に応じた材質と製造法の選択、適切な設計式の適用、現場での厳格な検査と長期的な保守計画が、安全で経済的な配管システム構築の鍵です。
参考文献
- Wikipedia「鋼管」
- Wikipedia「配管」
- ASTM A53(ASTM International)
- ASTM A106(ASTM International)
- API 5L(Wikipedia)
- ISO 3183(ISO製品ページ)
- Engineering Toolbox:Seamless Pipes vs Welded Pipes
- AMPP(旧NACE/SSPC、腐食防食に関する情報)
- Galvanizers Association(溶融亜鉛めっきに関する資料)
- ASNT(非破壊検査に関する情報)
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