建築設備で押さえておくべきR1234yfの全知識：導入・設計・安全対策ガイド

2025年12月28日 最終更新日時 : 2025年12月28日 エバープレイ編集部

はじめに — R1234yfとは何か

R1234yf（化学名：2,3,3,3‑テトラフルオロプロペン、一般にはHFO‑1234yf）は、地球温暖化係数（GWP）が非常に低い次世代冷媒として自動車の空調を中心に普及してきたハイドロフルオロオレフィン（HFO）系冷媒です。従来のR134a（GWP約1430）と比べ、R1234yfの100年係数GWPは約4と大幅に小さく、オゾン破壊係数はゼロです。そのため、環境規制（F‑gas規制やモントリオール議定書系の改正）対応の観点から注目されています。

建築・土木分野における位置づけ

建築分野では、空調（ビル用パッケージ空調、VRF、ルームエアコン、一部の小型冷凍機など）や移動式設備、あるいは建物に設置する車両用充電施設に付随する機器などで、低GWP冷媒への関心が高まっています。R1234yfはもともと自動車用に開発されましたが、冷媒特性がR134aに近く、代替候補としてパッケージエアコンや特定の小型冷凍設備でも導入検討が進んでいます。土木では主に機材冷却や特殊車両の空調での採用例が増えています。

物性と性能のポイント

  • GWPと環境性：GWP≈4、ODP=0。温暖化影響が極めて小さい。
  • 燃焼性：ASHRAEの分類ではA2L（低毒性・低燃焼性／低燃焼速度）。「非可燃」ではなく「低可燃性」の扱いである点に注意。
  • 圧力・熱力学特性：R134aに近い冷媒温度特性を持ち、既存のR134a機器設計思想が参照できる場合があるが、完全互換ではなく油の種類や材料適合性、膨張弁の最適化など設計変更が必要なケースが多い。

法規制と標準規格の現状

主要な規格・指針は以下の通りです。R1234yfはA2L分類のため、各国・各規格で扱いが更新されています。建築設備における使用は、機器の種類や設置場所、充填量によって法的制約や安全距離、換気基準が適用されます。設計・施工時は必ず最新の基準（EN378、ISO817、ASHRAE標準、各国のF‑gas関連規則、消防法）を確認してください。

  • ASHRAE 34／ISO 817：冷媒の毒性・可燃性分類を規定（R1234yfはA2L）。
  • EN 378（欧州）：冷媒の設計・試運転・保守・安全要件を規定し、A2L冷媒に対する充填限度や換気要件等を定める。
  • 各国のF‑gas規制や自動車向け規制（例：EUのMAC指令や各国での自動車用冷媒採用基準）も参照が必要。

設計上の重要な留意点（建築設備担当者向け）

R1234yfを建物内設備に採用する場合、単に冷媒を置き換えるだけでは不十分で、下記の点を設計段階で検討する必要があります。

  • 機器選定：メーカーがR1234yf対応と明示している機器を選ぶこと。レトロフィット（既存機器の冷媒置換）は技術的・法的ハードルが高く、推奨されない場合が多い。
  • 冷媒充填量と室の分類：EN 378などに基づき、設置室の大きさと換気条件から許容充填量を算定。A2LではA1より厳しい扱いになる。
  • 換気設計：漏洩時の濃度上昇を抑えるため、機械換気の能力や自然換気パスの確保を検討。特に閉鎖空間や機械室は重点管理。
  • 漏洩検知器：A2L特有の低燃焼性を検出できるセンサー（冷媒検知器や可燃性ガス検出器）を採用し、アラームや遮断連動を設計する。
  • 二次冷媒方式の検討：冷媒を直接室内に流さず、冷却水・グリコールなどの二次ループで建物に熱交換する方式は、可燃冷媒の室内充填を回避できる有効手段。
  • 配管・部材の適合性：接続材やシール材、潤滑油（多くはPOE油が推奨）との相性確認。弁や圧縮機の選定も重要。

施工・保守・サービス時の注意点

  • 資格・教育：A2L冷媒を扱う技術者には、通常のフロン扱いとは別の安全教育（可燃性取扱い、緊急時対応、適切な工具の使用）が必要。
  • 回収と廃棄：冷媒の大気放出は禁止されることが多く、回収・再生・処分の手順を遵守する。機器廃棄時は冷媒回収を確実に行う。
  • 漏洩対応：漏洩が疑われる場合は即座に換気・封鎖し、可燃性検知器の値を確認。発火源の管理と適切な消火法の周知が必要（分解で生じる可能性のある腐食性ガスに注意）。
  • 火災時の危険性：R1234yfは燃焼や高温分解によりフッ化水素（HF）などの有害ガスを生成する可能性がある。消防活動では呼吸用保護具・化学防護服を用いる等の対応が不可欠。

レトロフィットの実務的判断

既存のR134a設備をR1234yfに単純置換する事例はあるものの、推奨は限定的です。理由は潤滑油の違い、圧縮機や熱交換器の最適化、膨張弁の再調整、そしてA2Lであることによる安全対策の追加が必要なためです。一般にはベンダーの承認あるいは専用の改造キットがない限り、新規機器導入または二次冷媒化を勧めます。

代替冷媒との比較（設計選択の考え方）

  • R1234yf：低GWP、既存R134aに近い性能、小型ユニットや車載に適するがA2Lの安全対策が必要。
  • R513A等のHFO/HFCブレンド：GWPを抑えつつ非可燃性を維持するものもあり、A1分類のまま移行できるケースがあるが、温暖化影響はR1234yfより高い場合がある。
  • CO2（R744）：GWP=1で環境性能は優れるが、高圧設計（超高圧）が必要でシステム形式が大きく異なるため用途適合性を検討する必要あり。
  • アンモニア（R717）：GWP=0・高効率だが毒性と強い腐食性があり、一般建築用途には制約が大きい。

実務的な推奨事項（プロジェクト段階でのチェックリスト）

  • 機器はメーカーがR1234yf対応を明示している製品を選定する。
  • 設置環境（機械室の体積・換気・人の出入り）から充填限度を算定し、必要なら二次ループ化を検討する。
  • 可燃性検知器や自動遮断、換気インターロックを含む安全設計を組み込む。
  • 設計図書に緊急時対応手順（漏洩時／火災時）を明記し、維持管理マニュアルに回収・再生・保守の方法を規定する。
  • 施工・保守要員に対する安全教育と、必要な保護具・工具（防爆工具やA2L対応検知器等）を整備する。

まとめ

R1234yfは建築設備において低GWPという大きなメリットをもたらす一方で、A2Lという可燃性の側面により設計・施工・維持管理で従来とは異なる配慮が必要です。特に建物内に冷媒を直接配置する設計では、充填量管理、換気、検知器、二次ループの検討などが重要となります。プロジェクトごとにリスク評価を行い、規格・メーカー指針に従った安全対策を実施することが成功の鍵です。

参考文献

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