S235JRとは何か──構造用鋼材の特性・規格・適用事例まで徹底解説

はじめに:S235JRとは

S235JRは、ヨーロッパ規格EN 10025‑2で定められる代表的な汎用構造用炭素鋼の等級のひとつです。建築・土木分野で広く使われる汎用鋼であり、形鋼、板、フラットバー、溝形鋼などさまざまな製品形状で供給されます。名称の「S」は構造用(Structural steel)を示し、数値の「235」は公称の降伏点(公称降伏強さ、ReL)を示します。付加の「JR」は衝撃試験(Charpy V-notch)が+20°Cで27J以上であることを示す記号です。

規格と呼称の意味

  • EN 10025‑2:熱間圧延の構造用鋼の製品仕様(Part 2:非合金構造用鋼)。
  • S235:公称降伏強さが235MPa級であること。等級にはS235、S275、S355などがある。
  • JR/J0/J2:Charpy衝撃試験の基準温度を示す接尾語。JRは+20°Cで27J以上、J0は0°Cで27J以上、J2は−20°Cで27J以上。

機械的性質(代表値と厚さ依存性)

EN 10025‑2に基づくS235JRの機械的性質は板厚によって若干変化します。代表的な最低保証値は次の通りです(設計・選定の際は必ず供給証明書や規格本文を確認してください)。

  • 公称降伏点(ReL/Rp0.2):厚さにより変化。一般に、厚さ≤16mmでは235MPa、>16~40mmでは225MPa、>40~63mmでは215MPa、>63~80mmでは205MPa(目安)。
  • 引張強さ(Rm):おおむね360~510MPaの範囲(厚さや製品形状により異なる)。
  • 伸び(A):通常最低値は20%程度(基準の試験片長さに依存)。
  • 衝撃靭性:JR等級では+20°CでCharpy Vノッチエネルギーが27J以上。
  • 弾性係数:約210GPa(常温)。
  • 密度:およそ7.85g/cm3。

化学成分(代表的な目安)

EN 10025‑2では化学成分について製造工程と品質管理の要件が示されますが、代表的な最大値の目安は次のとおりです。実際の契約材料ではメーカー提供の化学組成表を確認してください。

  • 炭素(C):おおむね0.17~0.22%(最大許容値は厚さや供給条件で変わることがある)。
  • マンガン(Mn):約1.4%(上限目安)。
  • リン(P):≤0.035%(不純物管理のための厳しい上限)。
  • 硫黄(S):≤0.035%(硫化物による脆性を抑制)。
  • シリコン(Si)、窒素(N)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等が微量含まれる場合あり。

製造・供給形態

S235JRは一般に熱間圧延で生産され、以下のような形状で供給されます。

  • 熱間圧延鋼板・薄板(コイル供給含む)
  • ビルトアップ用形鋼(I形鋼、H形鋼、チャンネル、アングル)
  • フラットバー、丸鋼、プレート等

加工性(切断・曲げ・溶接・機械加工)

S235JRは低炭素鋼であり、加工性は良好です。具体的なポイントは以下の通りです。

  • 切断・加工:レーザー切断、プラズマ、ガス切断、シャーリング等に良好に適用できます。
  • 曲げ:延性があるため冷間曲げやプレス加工に向いていますが、曲げ半径は板厚と用途に応じて設計します。
  • 溶接:優れた溶接性(アーク溶接、抵抗溶接など)。一般に予熱は厚さや溶接継手の拘束条件、低温環境での脆性を考慮して判断します。低温での靭性確保が必要な場合はJ0/J2等級を選定することがある。
  • 熱処理:熱処理(焼ならしや焼鈍)を標準的に必要とする材料ではありません。熱処理は用途や要求特性に応じて行われます。

耐食性と表面処理

S235JR自体は大気環境で一般的に用いられる炭素鋼であり、耐食性は高くありません。屋外や湿潤環境では適切な防錆処理が必要です。

  • 亜鉛めっき(溶融亜鉛めっき、電気めっき)
  • 塗装(溶剤系・粉体塗装、エポキシ系下塗+ウレタン上塗りなど)
  • 耐候性鋼が求められる場合は耐候性鋼(COR-TENなど)への変更を検討

設計上の留意点

S235JRを設計で扱う際の主な考慮点は次のとおりです。

  • 厚さに伴う機械特性の低下(降伏点は厚くなるほど低めに扱う)。
  • 低温下での脆性:冷間・低温環境ではJRよりJ0/J2の等級選定を検討。
  • 溶接後の残留応力や熱影響部(HAZ)の脆化対策として、必要に応じて予熱や後熱処理を検討。
  • 疲労設計:繰返し荷重が大きい構造用途では、疲労特性を考慮した断面形状や接合方法の選定が必要。

代表的な用途

S235JRはコストパフォーマンスに優れるため、以下のような用途で広く用いられます。

  • 建築の一般構造部材(梁・柱・床版・ブレース)
  • 橋梁の非高荷重部位(高強度鋼が必要な部位は別等級を採用)
  • 架台、足場、手摺、階段、フェンスなどの一般構造物
  • 軽構造物や機械フレーム、搬送設備のフレーム等

S235JRと近似等級の比較(S275、S355など)

同系統の等級と比べると、S235JRは最低降伏点が比較的低く、加工性や経済性が良い一方で、高応力部には不向きです。

  • S275(降伏点275MPa):同じく汎用構造用だが設計でより高い強度を要求する場合に選定。
  • S355(降伏点355MPa):高強度鋼であり、橋梁や高荷重の構造部位で採用されることが多い。
  • 衝撃試験等級:同じS235でもJR/J0/J2により低温特性が異なるため、使用環境に応じて選ぶ。

品質管理・試験項目

S235JRの供給では通常、次のような品質確認が行われます。

  • 化学成分分析(成分証明)
  • 引張試験(Rm、ReL、伸びなど)
  • 衝撃試験(Charpy Vノッチ、JRは+20°Cで27J以上)
  • 曲げ試験、非破壊検査(必要に応じて)
  • 表面検査・寸法公差確認

調達時のチェックポイント

  • 供給証明書(EN 10204など)で機械的性質・化学成分・試験結果を確認すること。
  • 用途温度域:低温環境で使用する場合はJRでは不十分なことがあるためJ0/J2等級を選ぶ。
  • 板厚・形状に応じた許容強度を確認する(設計値は厚さ依存)。
  • 表面仕上げや防錆処理の要否を契約に明記すること。

持続可能性とリサイクル

鉄鋼は世界で最もリサイクルされる材料の一つであり、S235JRを含む構造用鋼材も高いリサイクル率を持ちます。建築・土木の廃材は適切にリサイクルされ、溶鋼原料として再利用されることが一般的です。近年は製造過程のCO2削減やスクラップ循環の効率化が注目されています。

まとめ:S235JRを選ぶ理由と注意点

S235JRは加工性、溶接性、コスト面でのバランスが良く、建築・土木の汎用構造材として非常に広く使われています。だが、設計上は厚さ依存の強度低下、低温での靭性、疲労・腐食環境などを考慮して等級選定・表面処理・溶接手順を適切に決めることが重要です。契約材料については必ず供給者の材質証明(化学成分、機械的性質、試験成績)を確認してください。

参考文献

SteelConstruction.info — Grades of structural steel (EN 10025 overview)

EN 10025‑2:2004(European Committee for Standardization) — 標準(参照用。規格本文は購入が必要な場合があります)

Tata Steel — Structural steels product information(S235等の技術資料)

ArcelorMittal — Steel grades and specifications(メーカー技術情報)