楽器録音の完全ガイド:マイク選び・配置・音作り、現場で使える実践テクニック

はじめに — 楽器録音で最も大切なこと

楽器録音の目的は「あとでどれだけ加工できるか」ではなく、まず良い素材を録ることにあります。マイクやプリアンプ、インターフェイスなど機材は重要ですが、音の三要素(音源そのもの、マイク配置、空間)を意識して記録することが最優先です。本コラムでは機材選定から配置、レコーディング実務、トラブルシュート、各楽器別の具体的手法までを詳しく解説します。

基本の信号経路とゲイン構成

楽器録音の基本的な信号経路は楽器→マイク/DI→ケーブル→プリアンプ→ADコンバーター→DAWです。各段階でのゲイン管理が音質に直結します。目安としては、録音時の平均レベルをDAWで-18dBFS前後に設定し、ピークが-6〜-3dBFSに収まるようにします。これは後処理で充分なヘッドルームを確保するためです。

  • 24ビット録音を標準にする。16ビットと比べてダイナミックレンジとノイズ耐性が向上します。
  • サンプリングレートは44.1kHzまたは48kHzが一般的。超高サンプルレートはCPU負荷とデータ量を増やすため、用途に応じて選ぶ。
  • プリアンプのカラーリングは楽曲や楽器によって使い分ける。透明なプリアンプは後処理の自由度が高く、ヴィンテージ風プリアンプは特定の質感を即座に得られる。

マイクの種類と指針

マイクの基本的な種類はダイナミック、コンデンサー(大口径・小口径)、リボンです。それぞれに得意・不得意があります。

  • ダイナミック:高SPLに強く、アンプの近接やスネアに向く(例:Shure SM57)。
  • 小口径コンデンサー:トランジェントや高域が繊細でアコースティック楽器やオーバーヘッド向け(例:AKG C451、Neumann KM184)。
  • 大口径コンデンサー:ヴォーカルやルームキャプチャ、ピアノの多用途に使用(例:Neumann U87、AKG C414)。
  • リボン:柔らかく自然な中低域。ギターキャビネットやブラスに最適。ただし古い受動リボンはファンタム電源や不適切な接続で破損する恐れがあるため注意。

指向性と設置上の注意

指向性(カーディオイド、オムニ、双指向性など)は収音のキャラクターと空間情報に直結します。近接効果やSPL耐性を考慮してマイクと音源の距離・角度を決めます。

  • 近接効果:指向性マイクは近接で低域が増えるため、低域が膨らみ過ぎるときは距離を取るか角度をつける。
  • 3:1ルール:複数マイクでオーバーラップする場合、各マイク間の距離は互いに収音したい音源からの距離の3倍以上にすることで位相干渉を抑える指標。
  • 位相チェック:複数マイクを使う際は録音後に位相を反転して比較し、サウンドが薄くならないか確認する。時間差アライメントはDAWで微調整する。

ステレオ収音テクニック

ステレオ感を得るための代表的手法を状況別に使い分けます。

  • XY(コインシデント):位相の問題が少なくモノ互換性が高い。ギターアンプやアコースティックギターに有効。
  • ORTF:カーディオイド2本を約110度、17cm間隔で配置。自然な広がりと定位を得られる。
  • スペースドペア(A-B):広いステレオ像を得られるがモノフォールド時の位相問題に注意。
  • M/S(Mid-Side):中音と側音を別々に録り、後でデコードする技法。モノ互換性とステレオ幅の調整が容易。
  • Blumlein:双指向性の90度ペア。空間の自然な再現に優れるが、設置場所の反射に敏感。

楽器別の具体的セッティング

ドラム

ドラムはマルチマイクが基本。キック、スネア、ハイハット、タム、オーバーヘッド、ルームの組み合わせが一般的です。

  • キック:ダイナミック(例:AKG D112、Shure Beta52)をフロントに、必要ならサブキックで低域を補強。
  • スネア:トップにコンデンサーまたはダイナミック(SM57)、ボトムにリボンや小型ダイナミックでスナップを捕らえる。
  • オーバーヘッド:大口径/小口径コンデンサーでシンバルとキット全体を把握。XYやORTFで位相を抑える。
  • 位相調整:トラック同士の時間差をDAWで微調整、位相反転スイッチでチェック。

アコースティックギター

ギターの狙いは弦の明瞭さ、ボディの低域、そしてプレイのディテール。マイク1本でも2本でも運用可能です。

  • 定番:小口径コンデンサーをサウンドホールから約12〜20cm、12時方向より少しブリッジ寄りに向けるとバランス良好。
  • 2本法:ネック付近に大口径コンデンサー、ブリッジ付近に小口径を置き、フェーズとバランスを調整。
  • DI併用:エレアコはピックアップのDIとマイクのブレンドで自然さと低域安定を両立。

エレキギター/アンプ

近接で密度感のある音を取りたい場合はダイナミック、より滑らかでリボンの暖かみを求める場合はリボンを活用します。

  • 定番:Shure SM57をキャビネット中心より少し外側に当てる。角度をつけると高域が落ち着く。
  • リボン:Royer R-121を中心より少し外して設置すると甘い中域が得られる。ファンタムに注意。
  • アイデア:マイクを複数(近接+ルーム)で録り、後で位相を整えてブレンド。

ベース

ベースはDIとアンプマイクの両方を記録するのが定番。DIで低域の明瞭さ、アンプでキャラクターを得る。

  • DI:高品質なDIボックス(アクティブ/パッシブを用途に応じて)を使う。
  • アンプマイキング:ダイナミックや大口径コンデンサーを使用。キャビネットのセンターで低域、エッジ寄りで高域を拾う。

ピアノ

アップライトとグランドで考え方が異なります。グランドは弦と響板の両方を捉えるためにステレオ配置が有効です。

  • グランド:フレーム上部に対してXYやORTFでステレオ、低域補強に近接マイクを追加することも。
  • アップライト:裏側のサウンドホールに1本、大きめのコンデンサーを置くと暖かさが得られる。

弦楽器・管楽器

クラシック系は空間の再現が重要。指向性や距離でホール感を調整します。金管は高SPLに注意、リボンは慎重に。

  • ヴァイオリン:小口径コンデンサーを楽器のf穴からやや離して斜めに向ける。
  • チェロ:中低域が重要なのでやや近めに配置。
  • 管楽器:ベルから近すぎるとピーキーになるため、角度をつけて数十センチ離して拾う。

環境・アコースティック処理

部屋の音は録音に決定的な影響を与えます。反射が多すぎれば音は濁り、吸音しすぎれば死んだ音になりがちです。最小限の対策でも効果は大きいです。

  • 初歩対策:反射点に吸音パネル、床にカーペット、背面に拡散体や本棚。
  • 即席隔離:ゴボ(可搬隔壁)や毛布での反射抑制。ただし低域の処理は難しい。

モニタリングとレイテンシー

録音時は演奏者がモニターで遅延を感じないことが重要です。インターフェイスのバッファを小さくするか、ダイレクトモニタリングを使いましょう。ヘッドフォンミックスは演奏者のために最適化し、極端な処理は録音時に避けるのが基本です。

位相と問題解決のワークフロー

位相問題やノイズが出たら以下の手順で切り分けます。

  • ケーブル・コネクタのチェック。
  • ファンタム電源やグランドループの確認(ハムがある場合はDIのグランドリフトなどを試す)。
  • マイクの単体録音で問題の有無を確認。
  • 複数マイクの場合は位相反転で違いをチェックし、必要ならDAWでタイムアライメント。

実践的なレコーディング・ワークフロー

現場で効率よく進めるための流れです。

  • 機材チェックとトーン設定:チューニング、弦・シンバルの状態確認、楽器の基本音の調整。
  • サウンドチェックでゲイン構成を決める。演奏ピークを想定したセッティング。
  • テスト録音を複数ポジションで行い、ベストなテイクを選ぶ。
  • バックアップ:録音中は複数トラック/別メディアに録るか、定期的にプロジェクトを複製。

よくあるトラブルと対処法

  • ハム・ブザー:グランドループ、長いケーブル、電源ノイズ。グランドリフトやケーブル交換で対処。
  • 薄い音:位相打ち消しの可能性。位相反転や距離の調整、3:1ルールの確認。
  • 過度の低域:近接効果やルームの定在波。距離を取るか高域側でブレンド。

ホームスタジオでのコスト効率の良い選択

高価な機材がすべてではありません。まずは良いマイク1〜2本(汎用の小口径コンデンサーとダイナミック)、信頼できるオーディオインターフェイス、良質なヘッドフォン、基本的なルーム処理で大きく音が向上します。後からプリアンプやマイクを追加していくのが現実的です。

まとめ — 録音で最も重要な姿勢

理想の録音はテクニックと耳の掛け合わせです。機材の知識を持ちつつ、まずは音をよく聴き、なぜその音が良いのかを理解することが最も重要です。実践を重ねることで、機材選びや配置の判断力が磨かれます。

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参考文献