音の持続を科学と演奏で深掘りする — サスティンの物理・心理・実践ガイド

はじめに:音の持続とは何か

音の持続(サスティン、sustain)は、音が発生してから聞こえなくなるまでの時間的な要素と質感を指す総合的な概念です。楽器や声、電子音における「音がどれだけ長く聞こえるか」「どのように減衰するか」「残響や反射がどう関与するか」を含意します。作曲・演奏・録音・音響設計のあらゆる場面で重要な要素であり、音楽表現の核となることが多いテーマです。

物理的な側面:振動、共鳴、減衰

音の持続は物理現象に根ざしています。基本的には振動源(弦、空気柱、弓による振動など)がエネルギーを持ち、それが媒質(楽器のボディ、空気、反射面)を通じて放射されます。重要な要素は次のとおりです。

  • 初期エネルギー量:弓の速度、ピッキングの強さ、吹奏の圧力などが初期振幅を決めます。エネルギーが大きいほど基本的に持続時間は長くなりやすい。
  • 減衰(ダンピング):材料や結合(弦とブリッジ、コーンとキャビネットなど)によるエネルギー散逸が音を減衰させます。金属弦のギターとナイロン弦のギターで減衰特性が異なるのはこのためです。
  • 共鳴とモード:楽器ボディや空洞が特定の周波数で共鳴し、特定の帯域でエネルギーを蓄えたり放射したりすることで、持続感が変わります。例えばピアノのサウンドボードやバイオリンの共鳴体がサステインに大きく寄与します。

各楽器における持続の特徴

楽器の種類によって持続の生まれ方、コントロール方法は異なります。

  • ピアノ:ハンマーで弦を叩くため自発振動は急速に始まり、その後は弦と駒、サウンドボードの共鳴で減衰していきます。サステイン・ペダルはダンパーを持ち上げ、弦の共鳴を長く保つことで持続を増幅します(ハーモニック共鳴も発生)。
  • ギター(アコースティック):弦の振幅は比較的速く減衰しますが、ボディの共鳴が低域を支え持続感を与えます。ピックアップやエレキギターのソリッドボディ設計、ピックアップのタイプ、アンプやエフェクターで持続が大きく変わります。ディストーションやコンプレッションは倍音を強調し主観的なサステインを延ばします。
  • 弦楽器(バイオリン等):弓による持続的なエネルギー供給が可能であり、表現として最も直感的に持続をコントロールできます。音色の変化(フォルテ、ピアノ、スピッカート等)で持続感を操作するのが演奏表現の要です。
  • 管楽器・声:演奏者が息でエネルギーを供給し続けられるため理論上は非常に長い持続が可能です。ただし呼吸やフレージング、音色変化が表現上の制約となります。
  • 電子楽器・シンセサイザー:ADSRのようなエンベロープで持続(S)を明示的に設定できます。オシレーターやフィルター、エフェクト(リバーブ、ディレイ、リリース)を組み合わせることで任意の持続感を作り出せます。

心理音響(聴覚側)の影響

持続の感じ方は物理的な減衰だけで決まるわけではありません。人間の聴覚・認知が大きく関与します。

  • 時間積分:人は短時間にエネルギーを積分して音の大きさや存在感を判断します。ゆっくり減衰する音は脳が「長く存在した」と認識しやすい。
  • 倍音構成:高次倍音が多い音は聴覚的に「明るく」聞こえ、倍音の残存があると持続が強調されることがあります。
  • マスキング効果:別の音が同時にあると減衰部分をマスクして実際より短く感じたり、逆に残響が被さることで長く感じたりします。
  • 慣れと期待:音楽的な文脈(フレーズ、テンポ、ジャンル)により、同じ物理的持続でも「十分だ」と感じるかどうかが変わります。

録音・ミキシングにおける持続の操作

現代の音楽制作では持続は重要なサウンドデザイン要素です。主なテクニックは次のとおりです。

  • リバーブ:空間感と残響によって音の減衰を人工的に延ばす。RT60(-60dBまで減衰する時間)という測定量を意識すると設計しやすい。
  • ディレイ:反射を時間的に付与することで反復的な持続感を作る。
  • コンプレッション:ピークを抑えながらサステイン成分を持ち上げる「サステイン延長」的な使い方が可能(サステインペダル的な効果)。
  • サチュレーション/オーバードライブ:倍音を増やして聴覚的な持続感を強化する。
  • リサンプリング・ストレッチ:サンプルをループさせたり、タイムストレッチして長い持続音を作る。

測定と指標:減衰曲線、RT60、エンベロープ

音の持続を定量化するにはいくつかの方法があります。楽器内での減衰は通常対数スケールで観察され、エンベロープ(ADSR)が広く使われます。空間的な持続はRT60や初期反射の分布で評価されます。録音評価では波形のエンベロープやスペクトログラムを解析して減衰と残響成分を分離することが多いです。

作曲・アレンジでの活用法

持続は楽曲のムードやダイナミクス設計に直結します。いくつかの活用例:

  • フレーズのつなぎ:レガートやサステインでフレーズを滑らかにつなぐと、流れが生まれる。
  • テクスチャ作り:持続音の層を重ねることで包み込むようなパッド感や持続的な背景音を作る。
  • 瞬間性の対比:短く切れる音(パーカッシブ)と長い持続音を対比させることでリズムや強弱を強調する。
  • 舞台空間の演出:残響の長さを変えることで“広さ”や“距離感”を演出できる。

演奏者向けの実践的ヒント

  • ピアノ:ペダルは音色の混ざり(ハーモニック共鳴)も生む。短いパッセージではクリアなアーティキュレーションを選び、持続が欲しい場面では適切なタイミングでペダルを使う。
  • ギター:サステインを伸ばしたければピックの角度や弦の種類、ピックアップの高さ、アンプのセッティング(リバーブ、ディレイ、コンプ、オーバードライブ)を調整する。サスティナー系のエフェクトやサステインブースターも有効。
  • 弓楽器・声:身体的にエネルギーをコントロールして持続を滑らかにする。息や弓圧の分配が重要。
  • 電子楽器:ADSRを理解し、特にリリースとディケイを状況に応じて操作する。フィルターエンベロープやLFOで持続中の色付けを行うと表現が豊かになる。

注意点と落とし穴

  • 過剰な残響やエフェクトは混濁を生み、アンサンブル内での明瞭性を損なう。
  • 会場や再生環境によって持続感は大きく異なる。ライブではPAや部屋の残響特性を考慮する必要がある。
  • 主観的な「心地よさ」と物理的な最適解は一致しないことが多いので、目的(ソロ、伴奏、映画音楽など)に合わせた調整が必要。

まとめ:持続は技術と感性の融合

音の持続は物理・材料・演奏技術・心理・音響処理が複雑に絡み合うテーマです。科学的な理解(振動や共鳴、RT60、エンベロープ)を武器にしつつ、実際の演奏や制作の現場で「何を伝えたいか」を基準に持続の長さや質感を選ぶことが大切です。適切にコントロールされたサステインは、楽曲の表現力を飛躍的に高めます。

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参考文献