「増三和音(オーギュメント)」を深掘りする:性質・機能・実践的活用法と歴史的背景

概要:増三和音とは何か

増三和音(オーギュメント三和音、英: augmented triad)は、根音(R)から長三度(M3)を重ね、さらにもう一つ長三度を重ねてできる三和音です。たとえばC増(Caug)は音構成がC–E–G#(あるいはA♭)となり、和声的には根音・長三度・増五度(#5)で表されます。等間隔に長三度を二つ重ねることで得られるため、対称性が強く、転回形によらず同じ音高集合を保つという性質を持ちます。

構成と表記

基本的な表記は次の通りです。

  • 英語表記:aug, +(例:Caug, C+)
  • 記譜上の表記:C–E–G# または C–E–A♭(表記の仕方により機能や解決先の示唆が変わることがあります)
  • 機能和音表:R–M3–#5(増五度を含むことを明示)

ジャズでは「C+」や「C(#5)」と表記されることが多く、増三和音が三和音として使われる場合と、7thや拡張和音の一部として使われる場合があります。

音楽理論的性質:対称性と集合論的特徴

増三和音は、等間隔(長三度=4半音)を二回積み上げるため、12音平均律上で三つの音が均等に配置された「対称音程集合」を形成します。ピッチクラス集合としては {0,4,8} に対応し、フォルテ表記では3-12に該当します。インターバル・ベクターは <0,0,0,3,0,0>(すなわち、インターバルクラス4が3回現れる)となり、これは増三和音のシンプルな対称性を数値的に示しています。

この対称性の結果、どの転回形も同じ音高集合を持ち、転回操作で別の三和音に見えるもののピッチクラス的には同一である点が重要です。つまり、C–E–G#、E–G#–C、G#–C–E は同一集合です。

調律と純正音程での問題点

平均律以外、特に純正調においては増三和音は単純整数比で綺麗に表しづらい和音です。たとえば長三度を純正5:4で二回重ねると根音から増五度は25:16になり、純正の完全五度(3:2)とは大きく異なる値になります。したがって歴史的な平均律以前の体系や移調を重視しない純正系では、増三和音は自然発生的な和声というよりは“問題を含む”色彩音として現れることが多いです。平均律ではこの不協和が均され、対称性が実用的に利用可能になります。

機能と和声的役割

増三和音は伝統的な機能和声(古典的トニック・ドミナント・サブドミナント)に納まりにくい性質を持ちますが、次のような機能や用法が一般的です。

  • 連結(コネクティング)和音:隣接する和音間の経過和音として用いられ、半音進行や臨時記号的変化を滑らかにする。
  • 転調の媒介:対称性と拡張性により、複数の調へ自然に移行させるゲート的役割を果たす。
  • 色彩的/印象的効果:終止や機能的解決を伴わないが、独特の緊張感・曖昧性を演出する。
  • 拡張和音の一部としての役割:ジャズでは7thや9thなどを伴う和音の#5要素として、ドミナント上で使用される(例:C7(#5)の一部)。

解決と音の動き(ボイスリーディング)

増三和音の解決方法は文脈に依存しますが、一般的なボイスリーディングの傾向としては次のようなものがあります。

  • 増五度(#5)の音は半音上行で隣接の音へ行くと自然に解決することが多い(例:C–E–G# の G# → A など)。
  • 長三度の上昇/下降を利用して他の和音の導音や第3音へ繋げることができる(E を導音的に扱って F に進める等)。
  • 共通音を残したまま一声だけ動かすことで滑らかな連結が可能(コモントーン・テクニック)。

実践的な例として、トニック(C)からIV(F)へ移行する途中にCaug(C–E–G#)を挿入すると、G# が A(IVの主要音)へ上行し、E は残るかFへ半音上行することで滑らかにIVへ解決できます。ポピュラー音楽や映画音楽でよく使われる進行です。

ジャンル別の用例

クラシック:ロマン派以降、増三和音は色彩的かつ転調的要素として利用されるようになりました。リストやラヴェル、ドビュッシーらは対称的な和音を色彩的に扱い、増三和音やホールトーン(全音階)との結び付きを利用して調性の曖昧さを演出しました。

ジャズ:ジャズ理論では、増三和音は単独でも、またドミナントの#5音を含む拡張和音の一部としても日常的に使用されます。ソロの素材としては増三和音のアルペジオや、全音音階・オーギュメント・スケール(増スケール)などがよく採られます。

ポップ/ロック:ポップスでは増三和音は“通過和音”や“装飾的和音”として広く使われます。有名な楽曲の中にも増三和音的な響きを使って情緒を高める例が多くあります(実際の楽曲例は楽譜や出典により参照してください)。

スケールと即興(インプロヴィゼーション)への応用

増三和音は、以下のようなスケールと密接に関係します。

  • 全音階(ホールトーン・スケール):全音階上には増三和音が自然に現れ、和音色を滑らかに生み出す。
  • オーギュメント・スケール(増スケール):増三和音を含む6音スケールや8音スケールの概念があり、増和音の色彩を伸ばすための即興素材となる。
  • クロマティシズム:半音の横行と組み合わせることで、増の響きが強調される。ジャズ的なラインでは3度積みのアルペジオを織り交ぜることが多い。

実践的ボイシングと配器

ピアノ:増三和音は根音を省いた「第3音をベースにした配置」や、オクターブでの重複を活かした開放的なヴォイシングが有効です。中音域に密集させるとかえって不安定さが増すため、内声を分散させて響きのバランスを取ると色彩的になります。

ギター:ギターでは半音のテンションが顕著に出るため、増三和音を弾く場合は弦ごとの響きとポジションを選んで使うと効果的です。奏法的にはスライドで#5へ接近させるなど、装飾的に用いられることが多いです。

作曲・編曲のテクニック

・経過和音として用いる:二つの安定した和音間に入れて色を付ける。
・転調のためのブリッジ:対称性を使って複数のキーに自然に繋ぐ。
・モチーフの変形:増三和音のアルペジオをモチーフ化して反復・変奏すると独特の整合性が得られる。
・不協和からの解決を逆手に取る:解決しないまま残すことで曖昧な終止感を演出する。

和声分析上の注意点と混同しやすい和音

・増三和音と増六の和音(augmented sixth)は異なる概念です。増六和音は特定の解決方向性(外へ開く傾向)を持つ機能和音であり、増三和音とは区別して扱う必要があります。
・増三和音と異名同音(G#とA♭)の表記の違いは、和声的な機能示唆に関わるため、楽譜上の表記には注意が必要です。例えばG#表記は上行解決を示唆する場合が多く、A♭表記は下行や別のターゲットを示唆することがあります。

歴史的背景(概観)

バロック以前には明確な形で独立して用いられることは稀でしたが、18世紀末以降、調性感の拡張とともに増三和音的な響きが増加します。ロマン派の作曲家たちは長三度の積み重ねや臨時記号を用いて色彩的な効果を追求し、近代以降は調性の曖昧化やモード活用の一環として増三和音や対称音程が作曲技法に組み込まれていきました。20世紀の印象主義(ドビュッシー、ラヴェル)やジャズの登場により、増三和音は日常的な素材として定着しました。

まとめ:増三和音の魅力と活用のポイント

増三和音は対称性と曖昧さ、そして色彩感を兼ね備えた和音です。機能和声の枠に厳密に当てはめることは難しい一方で、連結和音、転調の媒介、即興素材として非常に有用です。実践では次の点を意識するとよいでしょう。

  • 表記(#5か♭6か、G#かA♭か)によって解決方向が示唆される
  • 増三和音は平均律での使用に適しているが、純正系では調整が必要
  • ボイスリーディングではコモントーンの保持と一声の半音移動を活用する
  • 即興では全音音階や増スケール、アルペジオが有効

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参考文献