延長和音の完全ガイド：構造・表記・実践テクニック（9th/11th/13th）

2025年12月28日 最終更新日時 : 2025年12月28日 エバープレイ編集部

延長和音とは何か

延長和音（えんちょうわおん、extended chord）は、三和音（根音・3度・5度）にさらに上の三度を積み重ねて作られる和音で、9th（9度）、11th（11度）、13th（13度）などを含みます。ポピュラー音楽やジャズで多用される概念で、和音に豊かな色彩やテンションを与えるために使われます。理論上は7度の上にさらに三度を重ねることで9、11、13が生成され、すべてを含めた13thまでの延長が一般的です。

基本的な構築法と表記

延長和音は基本的に三度積み（tertian stacking）から成ります。Cを根音とした場合の基本形は次の通りです。

  • C（根音）
  • E（長3度）
  • G（完全5度）
  • B（長7度）→ 7th
  • D（9度）→ 9th
  • F（11度）→ 11th
  • A（13度）→ 13th

表記は用途により省略や変化が生じます。代表的な表記例：

  • C9：C7に9度（D）を加えた形。通常は3度・7度・9度が重要視される。
  • C11：C7に9度・11度を加えた形。ただし自然な11度（F）は3度（E）と半音上の衝突を生むため、3度が省かれるか#11/b5などに変化することが多い。
  • C13：C7に9・11・13を加えた形。実際の演奏では省略を含めたヴォイシングが一般的。

省略と実践的ヴォイシング（rootless voicings）

鍵盤やギターなど実際の演奏では全音を同時に鳴らせないため、いくつかの音を省略します。代表的な省略法は以下です。

  • 根音（ルート）をベース奏者に任せる（ピアノのコンピングなど）。
  • 5度は和音の安定性に寄与する一方で、色彩にはあまり影響しないため省略されることが多い。
  • 3度と7度は和声機能（メジャー/マイナー、ドミナント/トニック）を決定するため通常は維持する。

ジャズピアノのルートレス・ヴォイシング（rootless voicings）は、左手やベースがルートを担当する前提で、上声部に7度、3度、13度、9度などを配置して豊かなテンションを生み出します。ギターでもバーコードの制約を回避するために、特定のテンションだけを押さえることが多いです。

テンションの分類と機能

延長音は大きく「コンフォートなテンション」と「不安定なテンション」に分けられます。

  • コンフォートなテンション：9th（特に長9度は柔らかい色彩）、13th（長13度）はドミナントに豊かさを与える。
  • 不安定なテンション：11th（特にナチュラル11は3度と衝突しやすく、ドミナント上では#11が好まれる）、b9や#9などは解決感を強く伴う。

テンションは機能和声における「導き手」として働き、特にドミナント・コード（V7）におけるb9、#9、b13などはトニックへの解決を強調します。一方、メジャーコードにおける9thや13thは和音を拡張しても機能を損なわないため、サステインのある色彩を付加します。

モードとスケールの対応（コード＝スケール理論）

延長和音を理解する際、どのスケールが与えるテンションと合うかを把握することが重要です。代表的な組み合わせ：

  • ドミナント（C7）：ミクソリディアン（C mixolydian: C D E F G A Bb）→ ナチュラル9、11、13を含む。ただしナチュラル11は3度とぶつかる場合がある。
  • リディアン・ドミナント（C7#11）：リディアン・ドミナント / オルタード・リディアン（C Lydian dominant: C D E F# G A Bb）→ #11を含むため、4度音がシャープされる。
  • オルタード（C7alt）：半音階的・テンション重視（b9,#9,b5,#5など）→ ジャズ・ソロで強い解決力を演出。
  • メジャー（Cmaj9/Cmaj13）：イオニアン（C major）またはリディアン（Cmaj9#11の場合）→ 9th/13thは穏やかな拡張。

よく使われるテンションの種類と表記

  • 9 / b9 / #9：9度の変化は音色に敏感。b9は古典的なドミナント解決で用いられる。
  • 11 / #11 / b11：ナチュラル11は3度と干渉するため、#11（Lydian的）またはb11（ソウル/ファンク的なカラー）として用いられる。
  • 13 / b13：13は6度のオクターブ上。b13は五度の変化や半音移動を伴い、しばしば#5/b13と同義的に扱われる。

ヴォイシングのテクニックと実例

実践でのヴォイシングは機能と音色のバランスです。代表的なテクニック：

  • クローズド・ヴォイシング：隣接した音程を重ねる。室内楽的で透明な響き。
  • オープン・ヴォイシング：音を広げて配置。厚みと広がりが出る。
  • ドロップ2 / ドロップ3（ギター・ピアノ）：和音のある音を下げて指回しを容易にし、開いたサウンドを得る。
  • アッパー・ストラクチャー・トライアド（UST）：上声部にトライアドを重ねる手法。例えばC7の上にE♭メジャー（♭3構成）やDメジャー（9,13を含む）を置いて複雑なテンションを作る。

例：G7alt → 左手ベースがG、右手にF（7）、Ab（b9）、B（#5）、E（13）などを配置すると、ソリッドで強い解決感が得られます。ピアノではしばしば3度を省いて7度・13度・9度だけを配置することで和音の方向性を保ちます。

歴史的背景とジャンル別の用法

延長和音のルーツはクラシック（ロマン派以降）にも見られ、ラヴェルやドビュッシーなどの作曲家が色彩和声として9度や11度を使用しました。20世紀に入るとジャズでより体系化され、ビバップ時代以降は7thコードにテンションを付加することが即興とアレンジの重要技法となりました。ポップスやソウル、R&Bでも13thや9thは和音の“温かさ”や“リッチさ”を出すために用いられます。

和声機能と進行上の振舞い

延長和音は機能和声の枠組みを拡張しますが、根底にある解決機能（ドミナント→トニック等）は保たれます。重要なのはテンションの解決先を意識することです。例えば、V7(b9)のb9はトニックの3度に半音で解決する傾向があり、これを活かした進行設計が効果的です。

実践的な練習方法と作曲・アレンジのコツ

  • まずは基本スケール（イオニアン／ミクソリディアン）で各延長音を弾き、どの音が受け入れられやすいか耳で確認する。
  • ルートレス・ヴォイシングを練習して、左手やベースに依存したコンピングを試す。
  • 上声部の旋律（トップノート）を意識してヴォイシングを組み立て、メロディと和音がぶつからないようにする。
  • 実際のスタンダードやポップ曲のコード譜を解析して、どのテンションが使われているかを確認する。

よくある誤解と注意点

延長和音を“ただ付ければ良い”と考えるのは誤りです。ナチュラル11は3度と衝突するため配置に注意、また過剰なテンションの重ね過ぎは混濁した響きを生む可能性があります。編成（ピアノ・ギター・管楽器など）やアンサンブルで誰がどの音を担当するかを明確にすると良い結果になります。

まとめ

延長和音は和音に色彩と機能的テンションを加え、作曲・編曲・即興の幅を大きく広げるツールです。理論的には三度積みで説明できますが、実践では省略やヴォイシング、スケール選択が重要になります。ジャズの即興やポップのアレンジ、クラシックの色彩和声まで幅広く応用できるため、理論と耳の両面から学ぶことをおすすめします。

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