カントリーブルース完全ガイド:起源・奏法・代表曲から現代への影響まで深掘り
はじめに — カントリーブルースとは何か
カントリーブルース(Country Blues)は、20世紀初頭から中盤にかけてアメリカ南部の農村部で生まれた「田舎のブルース」を総称するジャンルです。都市部で発展した商業的な“クラシック・ブルース”(女性ボーカル+ピアノ、ジャズ的編成)と区別され、主に一人または少人数のアコースティック楽器(ギター、ハーモニカ、時にバンジョーやマンドリン)を用いて演奏されました。その名の通り“郷愁”や“労働・旅路・貧困”といったテーマを歌詞に含むことが多く、即興性や地域色の強い奏法が特徴です。
成立の社会的背景
カントリーブルースは、奴隷制後の南部黒人コミュニティの生活と密接に結びついています。労働歌、ワークソング、祈祷やゴスペルの旋律、そしてアフリカ起源のリズム感覚やスケール感が融合して生まれました。第一次世界大戦後の20年代、録音技術とレコード産業の発展により、田舎の歌い手たちの演奏が商業的に記録されるようになり、カントリーブルースは広く知られるようになりました。
音楽的特徴と構造
カントリーブルースの代表的な音楽的特徴は次の通りです。
- フォーマット:12小節ブルース形式を基盤にする曲が多いが、自由な小節数や反復も多い。
- 旋法・スケール:ペンタトニック・スケールやブルーノート(♭3、♭5、♭7)を多用。
- リズム:スウィング感やラフなタイム感、フレーズの遅早を活かした”ルブレート”的表現。
- 歌唱表現:装飾的なベンド、ヴィブラート、コール&レスポンスや語り(トーキング)を含む。
- 楽器奏法:フィンガーピッキングの交互ベース(thumb-and-fingers)、ピードモント・スタイル、スライド/ボトルネック奏法、オープン・チューニングの活用。
地域的な流派とスタイルの差異
カントリーブルースは地域ごとに特徴が分かれます。代表的なのは次の分類です。
- デルタ・ブルース(ミシシッピ・デルタ):エモーショナルで粗削りな歌唱、スライド・ギターやラフなリズムが特徴。ロバート・ジョンソンやチャーリー・パットンに代表される。
- ピードモント・ブルース(東海岸内陸):親指で交互ベースを刻み、指先でメロディを弾き分けるフィンガーピッキングが中心。ブラインド・ブレイク、リヴァー・ゲイリー・デイヴィスなど。
- テキサス・ブルース:ジャズやカントリーの影響を受けた流麗なギター、即興性の高いプレイが多い。ブラインド・レモン・ジェファーソンなど。
録音史と商業化
1920年代から1930年代にかけて、パラマウント、オーケー(Okeh)、ヴォーカリオンなどのレコード会社が“レース・レコード”と呼ばれる黒人向けのシリーズや、地方市場向けに田舎の歌手を録音しました。これにより、もともと地域限定で伝承されていた演奏が全国的に流通し、後のフォーク/ブルース復興運動に大きな影響を与えました。一方で、商業的なカテゴリー化や売り出し方(ラジオやレコードのマーケティング)は、演奏者たちの実際の文化的文脈を歪めることもありました。
代表的な人物と名演
- ロバート・ジョンソン(Robert Johnson)— 1936–37年の録音で伝説化。短い生涯と“悪魔に魂を売った”という伝説で知られる。代表曲:「Cross Road Blues」「Hellhound on My Trail」。
- ブラインド・レモン・ジェファーソン(Blind Lemon Jefferson)— 1920年代にヒットを連発したテキサス系ギタリスト。高く伸びるボーカルと独特なギターが特徴。代表曲:「See That My Grave Is Kept Clean」。
- ミシシッピ・ジョン・ハート(Mississippi John Hurt)— 穏やかな歌声と繊細なフィンガーピッキングで知られる。1920年代末に録音され、60年代フォーク復興で再評価された。代表曲:「Candy Man」「Stack O' Lee」。
- サン・ハウス(Son House)、チャーリー・パットン(Charley Patton)、ブッカ・ホワイト(Bukka White)など— デルタ・ブルースの強烈な表現派が多く、後世のロック・ブルースに大きな影響を与えた。
歌詞の主題と語りの手法
歌詞は旅、愛、裏切り、死、宗教的救済、労働の辛さなど現実的なテーマが中心です。即興で語るように歌う「トーキング・ブルース」の形式や、出来事を物語るナラティブな手法が多用され、演者によって同じテーマでも言い回しや比喩、場所の名前の差異が大きく異なります。
演奏テクニックの具体例(入門者向け)
カントリーブルースを演奏する際に覚えておくと良い基礎テクニック:
- オルタネイト・ベース(親指で低音弦を交互に弾き、人差し指〜薬指で旋律や装飾を弾く) — ピードモント系に有効。
- スライド奏法(スライドバーやガラス筒)— デルタ系に多い。オープン・チューニング(Open G, Open Dなど)で行うと倍音が生きる。
- ブルーノート志向のベンドやヴィブラート — 表情を付けるために不可欠。
- リズムの“遅早”を意識する — メトロノームだけに頼らず、語りかけるようなフレージングを心がける。
カントリーブルースと他ジャンルとの関係
カントリーブルースは後のエレクトリック・ブルース、ロック、フォーク、カントリー・ミュージックに多大な影響を与えました。1950〜60年代のフォーク/ブルース復興運動では、当時の若い白人ミュージシャンやリスナーが歴史的録音を再発見し、ボブ・ディランやエリック・クラプトンらにインスピレーションを与えました。また、ブルースの演奏技術やスケールはカントリーやロックのギタリストに取り入れられ、現在のポピュラー音楽の語法の一部となっています。
保存と再評価—フィールド録音とアーカイブの重要性
アラン・ロマックスやアメリカ国内のフィールド録音家たちは、1930年代以降に多くの地域音楽を記録しました。こうしたアーカイブは、消えつつあった演奏を保存し、後世の研究・再評価を促しました。また、レコード会社や現代のリイシュー(再発)運動により、多くの歴史的録音がCDやストリーミングで再び聴けるようになっています。
現代における実践と継承
現在でも世界中のアコースティック・ギタリストやフォーク/ブルース愛好家がカントリーブルースを学び、ライブやフェスティバルで演奏しています。技術書やオンライン教材、YouTubeのレッスン動画も充実しており、奏法の継承はデジタル世代にも広がっています。一方で元の文化的文脈や人々の生活史を尊重した研究・紹介が重要視されるようになっています。
聴きどころ・入門盤の選び方
カントリーブルースを初めて聴く場合は、代表的なアーティストのコンピレーション盤や歴史的編集盤(1920s–1930sの録音集)から入るのが良いでしょう。録音品質は当時の技術的制約で粗いことが多いですが、その生々しさが魅力でもあります。演奏のニュアンスを学びたい場合は、ピードモント系のフィンガーピッキング曲とデルタ系のスライド曲を両方聴いて比較すると理解が深まります。
まとめ
カントリーブルースは、アメリカ音楽の源流の一つであり、豊かな表現と地域色、即興性に富んだジャンルです。社会的背景や録音史を踏まえて聴くことで、単なるノスタルジー以上の深みを感じ取ることができます。奏法面でも学ぶべき要素が多く、今日の多様な音楽に影響を与え続けています。
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参考文献
- Britannica — Country blues
- Britannica — Robert Johnson
- Britannica — Blind Lemon Jefferson
- Britannica — Mississippi John Hurt
- Library of Congress — The Alan Lomax Collection
- Smithsonian Folkways — Mississippi John Hurt
- AllMusic — Country Blues
- Rock & Roll Hall of Fame — Robert Johnson
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