MPBとは何か:歴史・音楽的特徴・重要アーティストを深掘りする

イントロダクション

MPB(Música Popular Brasileira/ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)は、ブラジルの都市部で発展した大衆音楽の総称であり、単なるジャンル名を超えて文化的・政治的な意味合いを持つ概念です。本稿ではMPBの起源、音楽的特徴、歴史的背景、主要なアーティストと作品、そして現代における展開までを詳しく解説します。なお、記述は公開資料や専門辞典を参照してファクトチェックを行っています。

MPBの定義と語源

MPBという用語は1960年代中盤以降に一般化しました。もともとはラジオやレコード市場で「ブラジルのポピュラー音楽」を区別するためのマーケティング用語として使われ始め、特に都市的で洗練された作曲や編曲、詩的な歌詞を持つ楽曲群を指すことが多くなりました。他方で、サンバやフォルクローレ、北東部のリズムなど伝統音楽を現代的に再解釈する試みも含まれます。

起源──ボサノヴァからの流れ

MPBの直接的な前史としてはボサノヴァが重要です。1950年代末、アントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン)やジョアン・ジルベルト、ヴィニシウス・デ・モライスらが中心となって生まれたボサノヴァは、ジャズ的な和声感、抑制されたリズム、都会的な詩性を特徴としました。1958年から59年にかけての一連の録音は、以後のブラジル都市音楽に大きな影響を与え、MPBの土台を作りました(参考:ボサノヴァ解説)。

1960年代後半──政治と文化の交錯(トロピカリアを含む)

1964年以降の軍事政権下、ブラジルの文化は検閲と政治的圧力にさらされました。MPBはそうした時代において、抵抗や批評の表現手段となることが多く、歌詞に寓意や隠喩を多用して体制を批判する作品が生まれました。同時期にはトロピカリア(Tropicália)という前衛的な文化運動が台頭し、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、オス・ムタンチスらが西洋ロック、電子音楽、民俗音楽を混淆させる実験を行いました。トロピカリアはMPBの枠組みを拡張し、政治性と国民文化の再定義を促しました(参考:トロピカリア研究)。

音楽的特徴

  • 和声とメロディの洗練:ジャズやクラシックの和声進行を取り入れた楽曲が多い。
  • リズムの多様性:サンバ、ボサノヴァ、ショーロ、フォホー、バイアォンなどブラジル各地のリズムを現代的に融合する。
  • 声と解釈の重視:歌い手による解釈やニュアンスが楽曲の意味を決定づけるケースが多い(例:エリス・レジーナ)。
  • 詩的・社会的な歌詞:個人的な感情表現と同時に社会批評や政治的メタファーを織り込む。
  • 編曲の工夫:弦楽器や管楽器、民族打楽器、電子音響を組み合わせた多層的なアレンジ。

重要なアーティストと代表作

MPBは幅広い個性を包含します。以下は特に影響力の大きかった人物と作品の一例です。

  • ジョアン・ジルベルト(João Gilberto) - ボサノヴァの開拓者。アルバム『Chega de Saudade』はジャンル確立の象徴。
  • アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim) - 作曲家として『Garota de Ipanema(イパネマの娘)』など世界的ヒットを生む。
  • チコ・ブアルキ(Chico Buarque) - 社会的・政治的な歌詞で知られる。アルバム『Construção』など。
  • カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)&ジルベルト・ジル(Gilberto Gil) - トロピカリア運動の中心人物。その後もMPBを牽引。
  • エリス・レジーナ(Elis Regina) - 表現力豊かな歌唱でMPBの歌唱基準を引き上げた。
  • ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento) - ジャズ、フォルクローレ、宗教音楽を融合した独自の世界観。

フェスティバルとメディアの役割

1960年代から70年代にかけて、テレビやラジオの音楽番組、音楽祭がMPBの普及に寄与しました。音楽フェスティバルやテレビ番組は新曲を紹介する場であり、政治的メッセージを含む作品も広く伝播されました。こうした媒体はMPBを商業的にも確立させ、レーベルやプロデューサーによる編曲・演出の質を高める役割を果たしました。

検閲と抵抗

軍事政権下では検閲が常態化し、多くの歌詞や楽曲が禁止や改変の対象となりました。作家・歌手たちは比喩や寓話、言葉遊びを使って検閲をすり抜けつつメッセージを伝えました。また、政治的弾圧を受けたアーティストの国外亡命(例:カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジルの一時的亡命)もあり、これが作品に国際的な視座や影響をもたらしました。

地域性と多様性

MPBはブラジル各地の音楽的伝統を取り込むことで独自性を保っています。北東部のフォルロやバイアォン、アフロ・ブラジリアンのリズム、南部の影響などが楽曲に反映されるため、MPBを一括りに定義するのは難しく、むしろ多様性がその本質といえます。

重要アルバムとリスニングガイド

  • 『Chega de Saudade』 - João Gilberto(ボサノヴァ原点)
  • 『Tropicália ou Panis et Circenses』 - トロピカリア・コラボレーション(1968)
  • 『Construção』 - Chico Buarque(1971)
  • 『Clube da Esquina』 - Milton Nascimento & Lô Borges(1972)
  • エリス・レジーナのライヴ録音各種(解釈の豊かさを聴く)

1970年代以降の変容と現代のMPB

1980年代以降、MPBはさらに多様化し、ロック、ポップス、電子音楽、ワールドミュージックとの融合が進みました。1990年代から2000年代にかけては、マリサ・モンチやセウ・ジョルジといった世代が国際的にも注目を集め、MPBはブラジルの“ソフィスティケートされた大衆音楽”として再評価されました。現在でもカエターノやジルベルト・ジル、ミルトンらの活動は続いており、若い世代による再解釈も盛んです。

社会文化的意義

MPBは単なる音楽スタイルではなく、ブラジルの近現代史と深く結びついています。植民地的な文化遺産、都市化、政治的闘争、人種/地域の多様性といったテーマがMPBを通じて表現され、国内外のリスナーにブラジル文化を伝える重要なメディアとなっています。

まとめ

MPBはボサノヴァの洗練と、サンバや地域音楽のルーツ、さらに政治的・社会的文脈が交差して生まれた音楽潮流です。多様な影響を受けながら独自の音楽言語を築き、時代ごとに形を変えて進化してきました。入門としては代表的なアーティストや歴史的アルバムを聴くこと、さらに歌詞の訳や背景を読むことでMPBの深みをより理解できます。

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参考文献