キューバン・ジャズ入門:起源・リズム・主要人物と必聴盤

キューバン・ジャズとは

キューバン・ジャズ(しばしばアフロ=キューバン・ジャズ、またはラテン・ジャズの一部として言及される)は、キューバに根ざすアフロ=キューバンのリズムとアメリカのジャズの和声・即興技法が融合して成立した音楽ジャンルです。リズムの多層化、鍵となるリズムパターンであるクレーベ(clave)、ピアノや管楽器のオスティナート、打楽器群の高度な掛け合いが特徴で、1940年代以降にニューヨークなどで大きく花開きました。

歴史と起源

キューバ音楽自体は19世紀からのソンやダンソン、ルンバなどアフロ=キューバン系の諸ジャンルを母体とします。20世紀前半にはダンソンを経てムンボやマンボなどの発展があり、これらの発展過程がジャズとの接点を生みました。

アフロ=キューバン・ジャズの先駆的な作品としては、1943年にマリオ・バウザ(Mario Bauzá)とマチート(Machito)による『Tanga』などが挙げられます。1940年代後半にはディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)がキューバ出身の打楽器奏者チャノ・ポーソ(Chano Pozo)と協働し、『Manteca』などの録音で大きな成果を上げ、ジャズ側からの本格的な導入が行われました。これらの動きはニューヨークを中心に、ジャズの即興性とキューバの複合リズムが結合する新たな地平を切り開きました。

音楽的特徴(リズムと構造)

キューバン・ジャズを語る上で不可欠なのがクレーベの概念です。クレーベは一般に3-2または2-3という方向性を持つ叩き方のパターンで、楽曲全体の拍子感やフレージングの基準になります。ジャズのフレーズをキューバン・リズムに乗せる際、クレーベに対するラインの配置やアクセント感の調整が重要です。

その他の基本要素には次のようなものがあります。

  • グアヘオ(guajeo): ピアノやギター、ホーンが繰り返すリフ状のオスティナートで和声進行の骨格を作る。
  • モントゥーノ(montuno): ループする伴奏進行やソロのためのヴァンプ。即興ソロの土台となる。
  • トゥンバオ(tumbao): ベースやコンガが演奏する反復的なリズムパターン。
  • 打楽器群のレイヤー: コンガ、ボンゴ、ティンバレス、クラーベ、カウベルなどが相互にリズムを補完する。

和声的にはジャズの拡張和音やモード、ブルース的フレーズが用いられる一方で、リズムの周期やアクセントはキューバ的な感覚に合わせて編曲されます。これにより、リズムと和声のクロスオーバーが生まれます。

代表的な人物・バンド

  • マリオ・バウザ(Mario Bauzá): マチートの楽団で音楽的指導を務め、アフロ=キューバン要素をビッグバンドに導入した先駆者。『Tanga』などで知られる。
  • マチートとマリオ・バウザ(Machito & His Afro-Cubans): 1930年代から活動し、ニューヨークのラテン=ジャズ・シーンを牽引した。
  • チャノ・ポーソ(Chano Pozo): コンガ奏者。ディジー・ガレスピーと共作した『Manteca』はジャンルの転換点となった。
  • ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie): ジャズ側からの重要人物。キューバン要素を取り入れたビッグバンド録音で影響を与えた。
  • イスラエル・ロペス“カチャオ”(Cachao)とオレステス・ロペス(Orestes López): アルカーニョやダンソン楽団でダンソン=マンボの発展に寄与。マンボの創出に関わったとされる人物たち。
  • チューチョ・バルデス(Chucho Valdés)とイラケーレ(Irakere): 1970年代以降にジャズ/ロックとキューバの伝統音楽を融合させ、国際的に高い評価を得た。アルトゥーロ・サンドヴァル、パキート・ドリヴェーラといったスターを輩出した。

代表的な録音・作品

いくつかの録音はキューバン・ジャズの理解に役立ちます。必聴とされる例を挙げると:

  • Machito and His Afro-Cubans『Tanga』: 初期のアフロ=キューバン・ジャズを象徴する作品。
  • Dizzy Gillespie with Chano Pozo『Manteca』: ジャズとキューバン・リズムの本格的な融合を示した名曲。
  • Irakere(代表作アルバム): 1970年代以降のキューバ内でのジャズ表現の到達点の一つ。

その後の発展と国際化

1950年代のマンボ・ブーム、1960年代以降のラテン・ジャズの発展、そしてキューバ革命以降の移民による文化的交流は、キューバン・ジャズを世界へ拡散させました。多くのキューバ系/ラテン系ミュージシャンがニューヨークなどで活躍し、ジャズのスタンダード曲にキューバン・グルーヴを取り入れる試みが続きます。また、1970年代以降のイラケーレに代表されるように、キューバ国内でもジャズ的要素と民族音楽を統合する実験が進みました。

演奏上のポイント(演奏者向け)

実際に演奏する際には次の点が重要です。

  • クレーベの向き(3-2か2-3か)を確認し、それに沿ったフレージングを行う。
  • ピアニストやギタリストはグアヘオを正確に刻み、ソロ時もモントゥーノへの自然な移行を意識する。
  • ベースはトゥンバオで拍の推進力を維持し、打楽器と密に連携する。
  • 打楽器群は互いのスペースを尊重しつつポリリズムを整える。特にコンガ、ボンゴ、ティンバレスの役割分担が重要。
  • ソリストはジャズ的な即興を行う一方、周期的なリズム構造を意識してフレーズを組み立てる。

現代のキューバン・ジャズ

現代ではゴンサロ・ルバルカバ、オマー・ソサ、チューチョ・バルデスなど国際的に活躍するピアニストが、伝統的なキューバ要素と現代ジャズの語法を結び付けています。また、世界各地のジャズ・フェスティバルやレーベルを通じて新たなコラボレーションが生まれており、エレクトロニクスやワールドミュージック的手法を取り入れた作品も増えています。

影響と意義

キューバン・ジャズは単なるジャンルの混成ではなく、リズム学習やアンサンブルの概念、即興のあり方に新たな視座を与えました。ジャズが持つ和声的な自由と、キューバ音楽が持つリズム的精緻さが組み合わさることで、世界のポピュラー音楽にも大きな影響を与えています。

まとめ

キューバン・ジャズはクレーベを中心としたリズム構造とジャズの即興・和声が結合した豊かな音楽伝統です。歴史的にはマリオ・バウザやチャノ・ポーソ、ディジー・ガレスピーらによる初期の実験から始まり、イラケーレなどを通じた国内での発展、移民コミュニティと国際シーンでの深化を経て、現在も進化を続けています。演奏・聴取の際にはリズムの層を感じ取り、クレーベに忠実であることが体験を豊かにします。

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参考文献