ラテン・フュージョン入門:歴史・リズム・名盤から現代への影響まで徹底解説
ラテン・フュージョンとは何か
ラテン・フュージョンは、ラテン系のリズム(アフロ=カリブやブラジル由来のパターン)とジャズ、ロック、ファンク、さらにはエレクトロニクスなどの和声・演奏法を掛け合わせた音楽ジャンルの総称です。一般に“Latin fusion”と呼ばれ、単にラテン音楽を意味するラテン(salsa、son、bossa nova等)とは区別されます。特徴は強いリズム感(クラーベやタンバオ等)とジャズ由来の和声・即興演奏の共存、さらにエレクトリック楽器やモダンなプロダクションを取り入れる点にあります。
起源と歴史的経緯
ラテン・フュージョンのルーツは複数の潮流が交差したところにあります。1940年代にディジー・ガレスピーがチャン・ポーソ(Chano Pozo)と共作した「Manteca」(1947年)は、アフロ=キューバンのリズムをビッグバンド/ビバップに導入した代表例で、いわゆるアフロ=キューバン・ジャズ(Afro-Cuban Jazz)の出発点と位置づけられます。その後1950〜60年代にボサノヴァが米国ジャズと結びつき(スタン・ゲッツ×ジョアン・ジルベルト等)、1960年代末〜1970年代にかけて、エレクトリック楽器を用いるジャズ・フュージョンやロックとラテン・リズムがさらに混ざり合いました。
1969年のウッドストックでのカルロス・サンタナの演奏や、1970年リリースのアルバム『Abraxas』はロックとラテン要素の融合を大衆に示しました。一方、キューバやプエルトリコ出身のミュージシャン(ティト・プエンテ、モンゴ・サンタマリアなど)は、ラテンのダンス音楽とジャズ的手法の橋渡しを続け、1970年代のジャズ・フュージョン潮流と有機的に結びつきました。キューバのバンド『イラケーレ(Irakere)』はジャズ、ロック、ファンク、アフロ=キューバン要素を大胆に併合し、1970年代後半の重要な事例となりました。
リズムとハーモニーの特徴
- クラーベ(Clave)とタンバオ(Tumbao): ラテン音楽の時間軸を決定するクラーベ(2-3/3-2パターン)は、演奏全体のリズム感を規定します。ベースラインのタンバオやピアノのモントゥーノ(反復伴奏パターン)と組み合わさることで独特の推進力が生まれます。
- ポリリズムとシンコペーション: 右手・左手・パーカッションが異なるアクセントを刻むことでポリリズムを形成し、強いシンコペーションが生じます。ジャズ的なスウィングとは異なる感覚の“遅らせ”や“前ノリ”が特徴です。
- ハーモニー: ジャズ由来のテンションコード(9th, 11th, 13th)やモード進行、モーダル即興が組み込まれることで、機能和声を超えた色彩豊かなサウンドが生まれます。これによりダンス音楽的要素とアート音楽的要素が同時に成立します。
典型的な編成とサウンド
ラテン・フュージョンの編成は多様ですが、共通する要素としては、コンガ、ボンゴ、ティンバレスといったラテン・パーカッション群、ドラム、エレキベース、エレキギター、ピアノ(アコースティックまたはエレクトリック・ピアノ)、金管・木管セクション、そして近年はシンセサイザーやエフェクト処理が挙げられます。パーカッションがリズムの核を担い、エレクトリック楽器がハーモニーやリフを拡張するという役割分担が一般的です。
主要なアーティストとおすすめ作品
- ディジー・ガレスピー & チャン・ポーソ — "Manteca"(1947): アフロ=キューバン・ジャズの古典。
- モンゴ・サンタマリア — カヴァー曲"Watermelon Man"(1962): ラテン・リズムによるジャズ曲のヒット。
- カルロス・サンタナ — 『Abraxas』(1970): ロックとラテンの融合を象徴する名盤。
- チック・コリア — 『My Spanish Heart』(1976): スペイン/ラテン音楽要素をジャズ・フュージョンに取り入れた作品。
- イラケーレ(Irakere) — 楽曲群(1970s): キューバでのジャズ/ロック/アフロ=キューバンのクロスオーバー。
- チューチョ・バルデス(Chucho Valdés)、エディ・パルミエリ(Eddie Palmieri)、ティト・プエンテ(Tito Puente)等: ラテン・ジャズシーンで重要なピアニスト/バンドリーダー。
地域別の展開
キューバではソンやルンバのリズムがジャズと結びつき、アフロ=キューバン・ジャズが発展しました。ブラジルではボサノヴァやサンバがジャズと交差し、スタン・ゲッツ×ジョアン・ジルベルトの『Getz/Gilberto』はその象徴です。米国(特にニューヨークやマイアミ)ではプエルトリコ系・キューバ系のコミュニティがサルサやラテン・ジャズを育み、ジャズ・フュージョンの文脈で新たな表現が生まれました。各地域の民族的色彩が異なり、それが多様な“ラテン・フュージョン”像を生んでいます。
制作・アレンジ上のポイント
- リズム・セクションの分離とレイヤー化: パーカッションとドラム、ベースを明確に分けつつ相互作用させる。
- クラーベへの徹底した意識: 全プレイヤーがクラーベの位置を把握することがアンサンブルの要。
- ハーモニーの“余白”: ジャズのテンションを使いつつ、リズムを邪魔しない和音選びが重要。
- 録音/プロダクション: パーカッションの定位を丁寧に作ることで、立体的なグルーヴが得られる。
現代への影響と方向性
ラテン・フュージョンは、ラテン・ポップ、ヒップホップ、エレクトロニカ、現代ジャズに幅広く影響を与えています。近年では、世界的なクロスオーバーの潮流の中で、伝統リズムと最新の音響技術を結びつける試みが増え、プロデューサーやバンドはサンプリング、ビートメイキング、ハイブリッド楽器編成を通じて新たな表現を模索しています。一方で、教育/研究の現場ではクラーベ理論やアフロ=ラテンのリズム学が体系化され、プレイヤー育成にも寄与しています。
リスナーとミュージシャンへの実践的アドバイス
- リスナー: 初めてならディジー『Manteca』、サンタナ『Abraxas』、ゲッツ/ジルベルト『Getz/Gilberto』、チック・コリア『My Spanish Heart』あたりを通して“リズムと和声の共存”を体感すると良いでしょう。
- ミュージシャン: クラーベを身体で感じるトレーニング(手拍子やパーカッションでの練習)を最初に行い、次にモントゥーノやタンバオを実際に演奏してみること。ジャズの即興テクニックとラテンのリズム感を同時に磨くことが鍵です。
まとめ
ラテン・フュージョンは、民族的ルーツに根差したリズムと現代的な和声・サウンドの融合から生まれ、時代と地域を超えて多様に発展してきました。クラーベやタンバオといったリズム的基盤を理解しつつ、ジャズ的な和声感覚や現代のプロダクション技術を取り入れることで、豊かな表現の幅が広がります。歴史的名盤に触れ、リズムを身体化することで、このジャンルの奥深さをより深く楽しむことができるでしょう。
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参考文献
- Britannica: Latin jazz
- Britannica: Dizzy Gillespie
- Britannica: Carlos Santana
- Britannica: Bossa nova
- Britannica: Tito Puente
- Britannica: Mongo Santamaria
- Wikipedia: Chano Pozo
- Wikipedia: Irakere
- AllMusic: Latin Jazz


