コンテンポラリージャズ徹底ガイド:歴史・音楽理論・重要作品と聴き方
コンテンポラリージャズとは何か — 定義と概観
コンテンポラリージャズ(現代ジャズ)は明確な単一ジャンルというより、20世紀後半から21世紀にかけて発展したジャズの多様な潮流を包含する総称です。伝統的なビバップやハードバップの延長線上にあるポストバップ、1970年代以降に隆盛したジャズ・フュージョン、ECMに代表されるヨーロピアン・ジャズ的な静謐さ、M-BASEに代表されるリズム志向の実験、さらにR&B、ヒップホップ、エレクトロニカ、ワールド・ミュージックと融合する動き(いわゆるジャズ魂を保持しつつ外部要素を積極的に取り込む潮流)などが含まれます。
歴史的背景と主な潮流
現代のコンテンポラリージャズは1960〜70年代の変容期に起源を持ちます。マイルス・デイヴィスの電化(『Bitches Brew』1969年など)は、ロックやファンクの要素をジャズに導入する先駆となり、ジョー・ザヴィヌルやウェザー・リポート、パット・メセニー、ジョン・マクラフリンといったアーティストを通じてフュージョンが確立されました。
一方で、1970〜80年代にかけてはヨーロッパのレーベルECMが空間的で静謐なサウンドを提示し、キース・ジャレットやヤン・ガルバレクらを通じて「ECMサウンド」と呼ばれる美学が広まりました。1980〜90年代にはスティーヴ・コールマンらのM-BASEがリズムと構造の探求を推進し、2000年代以降はブラッド・メルドー、ビル・フリゼール、ジョン・スコフィールドらによるポストモダン的なトリオ/ギター・シーンや、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンによるヒップホップ/ソウルとの融合が注目を集めます。
音楽的特徴 — ハーモニーとメロディ
コンテンポラリージャズのハーモニーは、拡張テンション(9th, 11th, 13th)の常用、クォータル・ハーモニー(4度堆積)、ポリコード(複数の和音の同時使用)、モードとスケールの交差(モーダルなアプローチ)といった要素を多用します。また、ハーモニーの進行に対する機能和声への依存度が減り、モードや色彩(カラー)重視の進行が増えています。リハーモナイズ(コードの置き換え)やメロディのオルタレーションも一般的で、楽曲の同じテーマを複数のハーモニー上で再解釈することが多いです。
リズムとアプローチ
リズム面では、スイングからファンク、ヒップホップ的なビートまで幅広いグルーヴを取り込みます。拍子の複雑化(5/4、7/8、変拍子)やポリリズム、メトリック・モジュレーション(テンポや拍感の変化を巧みに利用)もコンテンポラリーな特徴です。M-BASEの影響を受けた作品では非直線的なリズム設計や複合拍子の循環が顕著に現れます。
即興と構造
即興演奏の自由度は保たれつつ、コンテンポラリー作品では即興のための構造化が進みました。モチーフの発展、リズム的ループの積み重ね、電子的なループやサンプルを即興に組み込むなど、即興と作曲の境界が曖昧になる場面が多いのが特徴です。また、即興がアンサンブル・サウンドのテクスチャの一部として扱われることも増え、個人ソロだけでなく集団でのサウンドデザインが重視されます。
制作・プロダクションの技術
レコーディングとプロダクションの技術もジャンルの拡張に寄与しています。エレクトロニクス、シンセサイザー、サンプラー、エフェクト(ディレイ、リバーブ、グラニュラー処理)といったテクノロジーがサウンド・テクスチャを拡張し、スタジオでの細かな音像編集やミックス技術が作曲の一部になっています。ジャズがライブ中心からスタジオ作品での音響デザインに比重を移すことで、新たな表現が生まれました。
重要アーティストと代表作
- マイルス・デイヴィス — 『Bitches Brew』(1969): 電化以降の大きな契機。
- パット・メセニー(Pat Metheny) — 『Pat Metheny Group』以降: モダンなメロディ感とギター・サウンド。
- ビル・フリゼール(Bill Frisell) — ギターを軸にアメリカーナやフォークを融合。
- ジョン・スコフィールド(John Scofield) — ファンクとジャズの接点で活躍。
- ブラッド・メルドー(Brad Mehldau) — ピアノ三重奏でのロック/ポップ解釈。
- ロバート・グラスパー(Robert Glasper) — ジャズ×R&B/ヒップホップの橋渡し。
- カマシ・ワシントン(Kamasi Washington) — スピリチュアル・ジャズの再活性化。
- スティーヴ・コールマン(Steve Coleman)/M-BASE — リズムと構造の実験。
- スナッキー・パピー(Snarky Puppy) — コレクティヴ的アプローチで世界的成功。
- 日本勢: 宇都宮隆?(注:誤り防止のため代表的なジャズ系では上原ひろみ(Hiromi)、菊地成孔、渡辺貞夫ら)
聴き方の提案 — 初心者から上級者まで
初心者はまずコンテンポラリージャズの代表的な入門編アルバム(例:パット・メセニーの代表作、ブラッド・メルドーのピアノ・トリオ作)を通して、メロディの近さと和声の豊かさを体験するとよいでしょう。中級者はリズム構造に注目し、メトリック・モジュレーションやポリリズムがどう楽曲の推進力を生むかを聴き分けてみてください。上級者や演奏者は、テーマのリハーモナイズ、モード選択、アドリブでのモチーフ展開、サウンド・デザイン(エフェクトやサンプリング)を実践的に分析することで理解が深まります。
現代シーンの特徴 — 多様性と融合
21世紀のコンテンポラリージャズは国際化とジャンル横断が顕著です。アフリカ/中東/南アジアのリズムや旋法を取り込むアーティスト、ヒップホップやソウルのグルーヴを持ち込む若手、クラシック的手法を併用する作曲家まで多様性が広がっています。さらに、女性アーティストや非西欧出身のミュージシャンの台頭も顕著で、表現の幅が拡大しています。
ライブとフェスティバル文化
ライブはコンテンポラリージャズ表現の中心です。即興のインタラクションやサウンドのダイナミズムはスタジオ録音では完全に再現できないことが多く、North Sea Jazz、Montreux、Tokyo Jazz Festivalなどの国際フェスティバルは新しいムーブメントの発表の場となっています。日本でもBlue Note Tokyoやビルボードなど、定期的に国際級アーティストが公演を行います。
教育と市場動向
現代ジャズは教育面でも制度化が進み、バークリー音楽大学やマンハッタン音楽院などのカリキュラムはコンテンポラリー技法を取り入れています。市場面ではストリーミングの普及によりプレイリスト経由での発見が増え、またヴァイナル復権の影響でアルバム単位での聴取も根強く残っています。
実践者へのアドバイス
演奏者はジャズの伝統(コード進行、リズム感、インタープレイ)を土台にしつつ、幅広い音楽を聴くことが重要です。リズムの訓練(メトロノームを用いた変拍子練習、ポリリズムの理解)、ハーモニーの拡張(テンション、スケール選択、リハーモナイズ)、サウンド・デザイン(エフェクトやエレクトロニクスの扱い)を学ぶことで、現代的な表現の幅が広がります。
今後の展望
コンテンポラリージャズは今後も境界を横断し続けるでしょう。AIや新しい音響技術、グローバルなネットワークを通じて地域的な特色を持つ新しい融合スタイルが生まれると予想されます。同時に、アコースティックな即興演奏の価値も並存し、伝統と革新のバランスをとりながら進化していくことが期待されます。
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参考文献
- AllMusic: Contemporary Jazz
- ECM Records(公式サイト)
- NPR: Robert Glasper関連記事
- The Guardian: Kamasi Washington "The Epic" review
- AllMusic: Miles Davis — Bitches Brew
- Wikipedia: M-Base


