音楽制作で失敗しない「ピーク補正」完全ガイド：理論・実践・配信対応まで

2025年12月28日 最終更新日時 : 2025年12月28日 エバープレイ編集部

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ピーク補正とは何か — 基本概念と目的

ピーク補正とは、音声信号のピーク（瞬間的な最大振幅）を管理・調整する作業の総称です。ミックスやマスタリングの工程で行われ、主にクリッピング（歪み）を防ぎ、最終的な音量バランスや配信基準に合わせることを目的とします。ピーク補正は単純な音量の上下だけでなく、インターサンプルピーク（後述）やコーデック処理後の振る舞いまで考慮する必要があり、適切に行うことで音質を維持しつつ安全な配信レベルに整えられます。

ピークとラウドネス（音圧感）との違い

ピークは瞬間的な最大値（dBFSなどで測定）であるのに対し、ラウドネスは人間の聴感に基づいた平均的な音の大きさ（LUFS/LKFSで計測）です。単にピークを抑えても曲全体のラウドネスは下がり、逆にラウドネスを上げればピークが頭を出してしまうことがあります。現代の配信基準やノーマライズはラウドネス基準で自動調整されることが多いため、単独のピーク補正だけで完結させると意図しない音量変化や品質劣化を招くことがあります。

インターサンプルピーク（ISP）と真のピーク（True Peak）とは

デジタル音声はサンプル点で値を持っています。波形を再構成する際、サンプル間で瞬間的にサンプル値を超えるピークが発生する場合があり、これをインターサンプルピーク（ISP）と呼びます。デジタル上でクリップしていなくても、D/A変換やエンコードによってアナログ信号がクリップしてしまうことがあるため、ISPを考慮することが重要です。

真のピーク（True Peak）は、再構成されたアナログ波形の最大値をより正確に推定する測定法で、通常はオーバーサンプリングを用いてサンプル間のピークを検出します。ITUやEBUなどの規格では、配信前に真のピークを一定のマージン以下に抑えることが推奨されています。

ピーク補正に用いられる主な手法

  • ピークノーマライズ：ファイルの最大値を指定したレベル（例：0 dBFSや-1 dBFS）まで持ち上げる／下げる。単純で可逆的だが、ラウドネスは変わらない。
  • リミッター：しきい値を超えるピークを瞬時に抑える処理。ルックアヘッド機能を備えることが多く、急峻なアタックを滑らかに抑えて歪みを低減する。トランジェントが潰れやすい。
  • クリッピング（ハード/ソフト）：波形の頭打ちを意図的に行うことでピークを削る。ハードクリップは倍音を大量に生み出し硬い音になるが、ソフトクリップやアナログサチュレーションはより自然な歪みを与える。
  • コンプレッサー：閾値を超えた信号を圧縮してピークを抑え、必要に応じて出力を上げて全体のラウドネスを確保する。アタック／リリース設定でトランジェント特性を制御。
  • サチュレーション／テープエミュレーション：微小な歪みと倍音を付加して主観的な音圧感を向上させ、過度なピーク処理を避ける手段として使われる。
  • オーバーサンプリング処理：真のピーク検出や処理の精度向上のために使われる。処理後のインターサンプル問題を低減するために重要。

なぜ真のピークが重要か — 配信とコーデックの影響

多くの音楽配信サービスは、配信ファイルを内部で再エンコード（一般に可逆圧縮→非可逆圧縮）します。MP3やAACなどの圧縮では量子化やフィルタリングによってピーク形状が変化し、インターサンプルピークが原因となるクリッピングが発生しやすくなります。したがって、ミックスやマスターの段階で真のピークに余裕（例えば-1 dBTPや-2 dBTPのようなマージン）を持たせることが推奨されます。

実践ガイド：ミックス段階でのピーク補正手順

1) ゲインステージングを徹底する：各トラックのヘッドルームを保ち、バスでの積算ピークがクリップしないようにする。ボーカルやドラムのトランジェントは特に注意。

2) トランジェントの管理：アタックが鋭すぎて馬力が出ない場合は、短時間のアタックタイムを設定したコンプレッサーやトランジェントシェイパーで整える。

3) サブミックス段階でのピーク管理：グループバスに軽めのピークリミッターやサチュレーションを入れ、個々のピークがバスで累積して過大ピークにならないようにする。

4) 真のピーク計測：ミックスを一度書き出して真のピーク（dBTP）を測定し、デジタルクリッピングを避けるために必要に応じてヘッドルームを設定する。

実践ガイド：マスタリング段階でのピーク補正手順

1) 目標設定：配信プラットフォームや用途に応じて目標LUFSと真のピーク値を決める（後節で推奨値を述べます）。

2) 最小限の処理でピークを抑える：リミッターは最終段に配置されることが多く、ラウドネスを稼ぐ役割と同時に頭打ちの防止を担う。スレッショルドとメイクアップゲインは耳で確認しつつ最小限に。

3) 可能ならばマルチバンド処理を併用して低域のピークだけを抑えると音の鮮度を保ちやすい。

4) 真のピーク確認後にエンコードシミュレーション：最終的には配信フォーマット（AAC/MP3など）でのエンコード後に再度検査し、問題があればマスターに戻って調整する。

配信時の実務的な目安（代表的なストリーミング）

配信サービスはラウドネス正規化を導入しており、各社の基準に合わせることが勝負の鍵です。代表的な目安は次のとおりですが、サービスはアップデートされるため必ず公式情報で確認してください。

  • Spotify：音楽はおおむね-14 LUFS（ラウドネスノーマライズの目安）。真のピークは-1 dBTP程度のマージンが実務上推奨される。
  • Apple Music（Sound Check）：概ね-16 LUFS前後を採用しているという報告がある。真のピークはやはり余裕を持つべき。
  • YouTube：おおむね-14 LUFSを基準にすることが多く、ビデオの種類で変動。True Peakは-1 dBTP前後の配慮が有効。

※ 上記のLUFS値は各社のアルゴリズムや用途（広告、ポッドキャスト、音楽）により異なり得ます。配信前に各プラットフォームの最新仕様を確認してください。

ツールとメータリング — 何を使えば良いか

真のピークやLUFSを正確に測るメーターが必要です。代表的なツール：

  • Youlean Loudness Meter（高精度で使いやすい無償版あり）
  • iZotope Insight（詳細な分析とビジュアル）
  • Waves WLM Loudness Meter（旧来からの定番）
  • DAW内蔵のTrue Peak対応メーター（Logic Pro、Cubase、Pro Toolsの最新バージョン）

また、エンコードによる影響を確認するために、最終マスターを各種コーデックで試験エンコードしてチェックすることも重要です。

よくある誤解と注意点

  • 「ピークをゼロにすれば安全」という誤解：デジタルの0 dBFSに余裕なく合わせると、エンコードや再生環境でクリップするリスクがある。真のピークと再生機器の余裕を考慮するべきです。
  • 「ラウドにすれば良い」は通用しない：ラウドネス正規化が増えたことで、極端に大きくするだけでは必ずしも有利になりません。音質を優先して適切なラウドネスで仕上げることが重要です。
  • 過剰なリミッティングは音色を壊す：過度な処理はトランジェントの損失や不自然なコンプレッション感を生み、結果的に楽曲のダイナミクスと魅力を損ないます。

具体的な数値目安（実務）

以下は初心者から中級エンジニア向けの実務目安です。用途により調整してください。

  • 配信用マスター（音楽）：目標LUFS -14〜-10 LUFS（ストリーミング向けは-14 LUFS前後が無難）、真のピーク目標 -1 dBTP〜-0.5 dBTPの間
  • CD制作／高品質配信用：ラウドネスは曲のダイナミクスに合わせて高めにせず、真のピークを0 dBFS未満に確保。CDはリニアPCMなのでデジタルクリップは厳禁。
  • ポッドキャスト／放送：多くの放送局はより低めのLUFS（例：-23 LUFSなど）を要求するため、配信先の基準に従う。

実例：簡単なワークフロー例

1) ミックス段階で各トラックの平均レベルを下げ、マスター出力に-6 dB程度のヘッドルームを確保する。2) マスター段で軽いEQとマルチバンドコンプレッサーを用いて帯域バランスを調整。3) 最終段に高品位のリミッターを配置し、真のピークが-1 dBTPを超えないようにしつつ、リリースとアタックを耳で微調整して不自然さを避ける。4) 最終的に意図したルーフ（LUFS）に達していなければ、少しずつメイクアップゲインを増やしながらピークとLUFSのバランスを調整。

まとめ：ピーク補正を成功させるための心得

ピーク補正は単なる数値合わせではなく、音楽的判断と技術的配慮の両方が求められます。真のピーク（True Peak）やインターサンプルピークを理解し、配信プラットフォームの正規化ポリシーに応じたマージンを設けること。リミッターやクリッピングの使い方は用途に応じて使い分け、過度な処理を避けて楽曲のダイナミクスと質感を守ることが重要です。最後に必ずエンコード後のチェックを行い、実際の配信環境で問題が発生しないかを確認してください。

参考文献

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