ラウドネスノーマライズ完全ガイド：LUFSとは何か／配信プラットフォーム別の最適化法

2025年12月28日 最終更新日時 : 2025年12月28日 エバープレイ編集部

はじめに

ラウドネスノーマライズ（Loudness Normalization）は、音楽や動画の再生時に楽曲ごとの聞こえ方（音量感）を揃える技術で、配信プラットフォームや放送局での音量差を解消するために広く使われています。本コラムでは、技術的な基礎（LUFS/LKFS、True Peakなど）、主要な規格や配信サービスの実務上の目標値、マスタリング時の実践的な対策、よくある誤解と注意点を含め、できるだけ具体的に解説します。

ラウドネスノーマライズの基本概念

従来のゲインベースの音量測定（RMSやピークレベル）だけでは、人間の聴覚が認識する音量感（ラウドネス）を正確に反映できません。LUFS（Loudness Units relative to Full Scale）は、人間の聴覚特性を考慮したラウドネスの単位で、ITU-R BS.1770 標準で定義されています。LKFSはLUFSと同等の単位表記です。

  • Integrated LUFS（統合ラウドネス）: 楽曲全体を通した平均的なラウドネス。
  • Momentary / Short-term: 短時間（例: 400ms/3s）の瞬間的ラウドネス。
  • True Peak（真のピーク）: デジタル波形をDACやエンコーダ処理後に生じる可能性のあるインターサンプルピークを考慮したピーク値。dBTPで表記されます。

主要な規格と配信でのターゲット

放送とオンライン配信で採用される目標値は異なります。代表的な基準を挙げます。

  • ITU-R BS.1770: ラウドネスメータリングのベースとなる国際標準。
  • EBU R128（放送向け）: 欧州の放送規格で、推奨統合ラウドネスは -23 LUFS（±1 LU）と定義。放送ではこの基準が広く使われています。
  • ストリーミングサービス: 各社が独自のノーマライズ基準を持っていますが、近年は統合LUFSを基準にすることが一般的です。代表的な目安として、Spotify が -14 LUFS、Apple Music（Sound Check）やYouTube はおおむね -14〜-16 LUFS 前後の挙動を示すと報告されています（サービスや設定により変動）。

なぜプラットフォームごとに差があるのか

差が生じる要因は主に以下の通りです。

  • ユーザー体験: モバイル環境やプレイリスト再生での極端な音量差を防ぐために、やや高め（-14 LUFS前後）に設定するサービスがある。
  • フォーマットとエンコード処理: AAC/MP3などの圧縮で発生しうるインターサンプルピーク対策やリミッティング方針が異なる。
  • ユーザー設定: 多くのサービスではユーザーがノーマライズのオン/オフを切り替え可能で、ターゲット値が動的に適用される。

測定・計測に使う指標とツール

メーターは以下の指標を同時に見ることが重要です。

  • Integrated LUFS: 楽曲の平均ラウドネス。
  • Short-term / Momentary: ラウドネスの変動を把握。
  • True Peak (dBTP): エンコード時のクリッピングを防ぐために必須。
  • ダイナミックレンジ（必要に応じて）: 音楽ジャンルに応じたダイナミクスの管理。

よく使われるメータープラグイン／アプリ例: Youlean Loudness Meter, iZotope Insight, Waves WLM, NUGEN VisLM, Brave Toolsなど。これらはLUFS/LKFS表記やTrue Peak表示に対応しています。

マスタリング時の実践的ガイド

配信向けマスタリングでよく採られる実務的な推奨値と手順は以下です。

  • ストリーミング第一想定: Integrated LUFS を -14 LUFS 前後に調整すると、多くのサービスで余分なゲイン削減（リプレイノーマライズ）を避けられます。ただしジャンル特性やアルバム単位の相対バランスを考慮。
  • 放送向け: EBU R128 準拠で -23 LUFS を目標に。放送は厳格なので放送用に別ミックス/別マスターを用意することが多い。
  • True Peak: エンコードを考慮して、最小でも -1 dBTP（多くは -1 ～ -2 dBTP）を推奨。これによりAAC/MP3変換でのクリッピングを防げます。
  • ダイナミクスの保持: 大きなラウドネスを得るための過度な圧縮は音質を損ないます。楽曲の性格に応じてダイナミックレンジを尊重する判断が必要。
  • ラウドネスの微調整: マスター段で単純にゲインを下げるだけでなく、EQやマルチバンドコンプレッションで音色を整えつつ目的LUFSに到達するのが理想。

配信ワークフローでの注意点

いくつか実務上の落とし穴があります。

  • プラットフォームのアップロード時に自動でノーマライズがかかる場合、事前にターゲットLUFSに合わせたマスターを用意すれば、意図した音量感を保てる。
  • アルバムやEPなど複数トラックをまとめて聴かせる場合、トラック間の相対ラウドネスを揃える（ラウドネス・ワーキング）ことが重要。配信側の正規化によりバランスが崩れる可能性があるため、プラットフォームの仕様を確認する。
  • ユーザー側でノーマライズをOFFにできるサービスもあるので、絶対的な再生音量は聴取環境に依存する点を理解する。

よくある誤解

誤解しやすいポイントを整理します。

  • 「LUFSを上げれば良い音になる」は誤り。LUFSは聞こえ方の平均を示すだけで、音質や迫力はスペクトルバランスやトランジェントの処理にも大きく依存します。
  • 「ピークが低ければ安全」は一面的。True Peak（dBTP）で評価しないと、エンコード時のインターサンプルピークで歪むリスクがあります。
  • 「すべての配信サービスが同じ基準」は間違い。サービスやユーザー設定で差があるため、主要ターゲットに合わせつつ、必要なら複数マスターを用意するのが現実的です。

まとめと実践チェックリスト

配信を前提とした実務的なチェックリストは以下の通りです。

  • Integrated LUFS をターゲット（例: ストリーミング向け -14 LUFS、放送向け -23 LUFS）に合わせる。
  • True Peak を -1 〜 -2 dBTP に抑える。
  • 曲間の相対バランスをアルバム全体で確認する。
  • 最終的に主要プラットフォームにアップロードして、各プラットフォーム上での再生を確認する（ユーザー設定でノーマライズを切る場合もテスト）。
  • 必要ならプラットフォーム別に別マスターを用意する。

参考となるツール

  • Youlean Loudness Meter（無料/有料版あり）
  • iZotope Insight
  • Waves WLM Plus Loudness Meter
  • NUGEN VisLM

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