事業運営部とは|役割・組織設計・業務改善の実践ガイド
はじめに — 事業運営部の存在意義
事業運営部(事業オペレーション部)は、企業が持続的な成長を遂げる際に「日々の事業が安定して、かつ効率的に回る」ことを担う中核部門です。売上創出を直接担う営業やプロダクト開発とは異なり、事業運営部はプロセス、リソース、データ、ガバナンスを整備して事業価値の最大化を支援します。本稿では、事業運営部の役割、組織設計、主要業務、KPI、導入・改善手順、実践上の注意点と具体的なツール例まで、実務で役立つ観点から詳述します。
事業運営部の主要な役割
- 業務標準化とプロセス整備:業務フローの設計、SOP(標準作業手順書)作成、業務分掌と権限整理を行い業務の再現性と品質を担保します。
- KPI設計とモニタリング:事業目標と整合したKPI/OKRを設定し、ダッシュボードや定例レビューで状況把握と施策フォローを行います。
- リソース配分と予算管理:人員、設備、予算の最適配分を行い、コスト管理(OPEX)と投資効果の最大化を目指します。
- 改善活動と品質管理:PDCAやLean、Six Sigma等の手法で業務効率化や不良削減に取り組みます。
- システム・ツール導入とデータ活用:ERP/CRM/BI等の導入・運用支援、データ整備と分析により、意思決定を支援します。
- ガバナンスとコンプライアンス:契約管理、リスク管理、法令遵守のフレームを整備して事業の健全性を確保します。
- クロスファンクショナル調整:営業、開発、カスタマーサクセス、財務など他部門との調整役を担い、ボトルネックの解消にあたります。
組織設計と典型的な役職
事業運営部の構成は企業の規模や業種によって異なりますが、典型的な役職と役割は次のとおりです。
- 事業運営部長(Head of Business Operations):戦略と施策の落とし込み、経営層とのパイプ役、部門の目標管理。
- オペレーションマネージャー:日常業務の運用管理、SLA/プロセス遵守の監督。
- プロジェクトマネージャー:大規模な改善プロジェクト・システム導入の推進。
- ビジネスアナリスト/データアナリスト:データ分析、KPI設計、ダッシュボード構築。
- プロセス改善担当(Lean/Six Sigma):業務可視化、ボトルネック分析、改善施策の実行。
- システム/IT担当:ツール選定・導入・運用、RPAや自動化の設計。
- コンプライアンス/リスク管理:契約・規制対応、内部統制の整備。
主要業務プロセスとKPI例
事業運営部が管理・改善する主要プロセスと、それに紐づく代表的なKPIは次の通りです。
- 需要予測・キャパシティ計画:在庫ターン、キャパシティ稼働率、リードタイム
- 受注~納品プロセス:注文処理時間、オンタイム納品率、欠品率
- 顧客対応・サポート:初動応答時間、問題解決平均時間(MTTR)、NPS/CSAT
- コスト管理:変動費・固定費、営業利益率、顧客獲得単価(CAC)
- 品質管理:不良率、再作業率、クレーム件数
- プロジェクト・改善活動:プロジェクト完了率、ROI、改善によるコスト削減額
事業運営部を立ち上げる/改善するためのステップ
- 現状把握(AS-IS):プロセスマッピング、データ収集、ステークホルダーインタビューを通じ現状を可視化します。
- ミッションとKPIの定義:事業戦略に整合したミッションと主要KPIを設定し、部門のKPIツリーを作成します。
- 組織設計と権限付与:役割分担と権限(決裁フロー)を明確化し、必要な人材像を定義します。
- プロセス標準化とSOP作成:重要プロセスに対して標準手順を作り、トレーニングを実施します。
- ツール導入とデータ基盤整備:ERP/CRM/BIやRPA等を導入し、データの一元管理と可視化を図ります。
- パイロットとスケール:小さな領域で改善を試行し、効果を検証した上で横展開します。
- 継続的改善の仕組み化:定例レビュー、報酬や評価へのKPI連動、ナレッジ共有により改善文化を根付かせます。
活用できる手法とツール
事業運営部で効果的に使われる手法・フレームワークと代表的なツール例は以下のとおりです。
- 手法:PDCA、Lean、Six Sigma、ITIL(ITサービス運用)、OKR、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)
- BI/分析ツール:Tableau、Power BI、Looker
- ERP/基幹系:SAP、Oracle、NetSuite
- CRM:Salesforce
- ワークフロー/プロジェクト管理:Jira、Asana、Notion
- 自動化:RPA(UiPath、Automation Anywhere)やワークフロー自動化
よくある課題と対策
- 課題:権限不足で実行力が弱い
対策:経営層からの明確な権限付与と評価制度の連動。意思決定基準を明文化する。
- 課題:データが分散し信頼できない
対策:マスターデータの整備、ETLによる統合、BIダッシュボードで単一の真実(single source of truth)を作る。
- 課題:現場の抵抗や過重労働
対策:現場巻き込み型の改善、段階的な導入、業務の自動化による負荷軽減。
- 課題:標準化と柔軟性のバランス
対策:コアプロセスは標準化し、例外処理やローカル最適はガイドライン化して運用する。
実務に効くチェックリスト(導入・改善時)
- 事業戦略に対する事業運営部のミッションは明確か?
- KPIは定量的でアクションに直結しているか?(週次/月次で追えるか)
- プロセスマッピングは実行可能なレベルで定義されているか?
- 必要な権限と予算は確保されているか?
- データ基盤と可視化の仕組みは整っているか?
- 改善活動が継続するための評価・報酬設計はあるか?
ケース例(概念的)
例:成長フェーズのSaaS企業では、カスタマーオンボーディングの標準化が課題となる。事業運営部はオンボーディング手順のSOP化、成功指標(初期利用率、チャーン率低下)を設定し、CRMとカスタマーサクセスの連携を設計。RPAにより定型連絡を自動化し、工程ごとのKPIをダッシュボード化することでオンボーディング期間を短縮し、解約率を改善する、といった流れが考えられます。
まとめ
事業運営部は、企業の「やること」をただ管理するだけでなく、事業戦略と現場の橋渡しを行い、継続的な改善とデータ駆動の意思決定を実現する役割を持ちます。成功には明確なミッション設定、適切な権限付与、データ基盤の整備、現場との共創的な改善文化の醸成が不可欠です。本稿で示した設計要素やチェックリストを参考に、自社に最適な事業運営部の形を設計してください。
参考文献
- McKinsey - Operations insights
- Deloitte - Operations Transformation
- AXELOS - ITIL(ITサービス管理)
- ISO - ISO 9001 Quality Management
- UiPath - RPA
- Salesforce - CRM
- SAP - ERP
- Tableau - BI
- 経済産業省 - DX推進関連資料
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