循環型購買(サーキュラー・プロキュアメント)とは:企業が実践するための戦略、手法、KPI、実例解説
はじめに — 循環型購買の重要性
循環型購買(サーキュラー・プロキュアメント)は、購入という企業活動を通じて製品やサービスのライフサイクル全体で資源の循環を促進し、廃棄物の削減・資源効率の向上・温室効果ガス削減などの環境的価値と、コスト削減やサプライチェーンの強靭化といった経済的価値を両立させるアプローチです。近年、気候変動対策や資源価格の変動、サプライチェーンの混乱を背景に、購買部門が持つ影響力に注目が集まっています。
循環型購買の定義と基本原則
循環型購買は単にエコ商品を買うことに留まらず、以下のような原則に基づきます。
- ライフサイクル思考:原材料調達、製造、使用、回収・再資源化までを一貫して評価する。
- 機能重視の調達(Functional Procurement):製品の所有ではなく、機能や成果を購入する(例:照明サービス、リース型コピー機)。
- リユース・リマニュファクチャ・リサイクルの促進:再製造品や再生材の使用を優先する。
- 設計段階への要求(Design for Circularity):修理性、モジュール性、分解性、再生材使用割合などを仕様に組み込む。
- サプライヤーとの協働:回収・再資源化スキームや製品寿命延伸に向けた共同イノベーション。
背景:政策・市場トレンド
循環型経済は欧州連合(EU)が強力に推進しており、サーキュラー・プロキュアメントに関するガイダンスや事例が多数公開されています。国際標準であるISO 20400(持続可能な調達の指針)は、調達プロセスに環境・社会・経済の観点を取り入れる枠組みを提供します。日本国内でも、環境省の循環型社会形成に関する法制度や、国・自治体のグリーン購入の取り組み、企業のサステナビリティ目標におけるサプライチェーン対応が進んでいます。
具体的な手法・調達プロセスの組み替え方
循環型購買を実践する際の代表的な手法を、購買プロセスの段階ごとに整理します。
調達戦略の策定
・ライフサイクルコスト(LCC)や総所有コスト(TCO)を導入し、初期価格ではなく運用・廃棄・回収コストを含めて評価する。
・カテゴリー戦略で優先領域を決める(高影響カテゴリ=電子機器、設備、消耗品、包装など)。
仕様定義(技術要件と環境要件の設定)
・修理性や耐久性、リサイクル可能性、再生材比率を入札要件に明記する。
・性能ベースの仕様(例:一定時間あたりの光量、可用性、稼働率等)を採用し、結果に対して評価する「パフォーマンス契約」を導入する。
調達方法と契約設計
・プロダクト・アズ・ア・サービス(PaaS)やリース、サブスクリプション契約を活用し、製品寿命の延長と回収をサプライヤーの責任にする。
・回収・再資源化条項を盛り込む(エンドオブライフ回収の義務化、再製品化率の目標設定等)。
・サプライヤー評価で循環指標(再生材使用率、回収率、修理率)をスコア化する。
サプライチェーン連携とイノベーション促進
・共同で回収ネットワークを構築したり、共有インフラを活用してコストを下げる。
・中小サプライヤーの能力開発や投資支援を行い、循環ビジネスモデルを広げる。
測定指標(KPI)と評価方法
循環型購買の効果を検証するための代表的KPIは次の通りです。
- 購入品の再生材比率(重量または価値ベース)
- リユース・修理・リマニュファクチャ率(回収後に再投入される比率)
- ライフサイクルCO2排出量の削減量(購入品に係る範囲を明確化)
- ライフサイクルコスト(TCO)の削減額
- サプライヤーの循環性スコア(評価項目の達成率)
- 製品の平均使用期間の延長(耐用年数)
これらは定期的にレビューし、財務指標やESG報告に連携させることが望ましいです。
導入上の課題と実務的な対処法
循環型購買の導入にはいくつかの障壁がありますが、対処法も明確です。
- コスト意識の壁:初期費用が高く見える場合はTCO/LCCを用いて比較する。補助金や共同調達でコストを分散する。
- 仕様・評価の難しさ:定量評価可能な指標を作り、第三者認証や試験を活用する。ISOや業界ガイドラインを参照する。
- サプライヤーの不足:長期的な需要予測を示して市場形成を促す。パイロット発注で実証し、段階的にスケールする。
- 社内組織間の調整:購買、経理、法務、現場の連携を促すための横断ワーキンググループを設置する。
国内外の事例
世界の自治体・企業で成功している取り組みは複数あります。欧州では公共調達を通じて再製品やサービス化を推進する事例が多く、回収ネットワークと法的枠組みが整備されています。日本でも自治体と民間が連携してリユース家具の共同購入や、ICT機器のリース・再生サービス導入などが進んでいます。具体的には、公共施設の照明をサービス契約に切り替えることでエネルギー削減と機材回収を同時に達成した事例や、オフィス用品のサブスクリプションで廃棄物を大幅に減らした企業事例があります。
実践チェックリスト(購買担当者向け)
導入時に使えるシンプルなチェックリスト:
- 調達カテゴリーごとにライフサイクル影響度を評価したか
- 仕様に修理性・再生材比率・回収要件を組み込んだか
- TCO評価を標準プロセスに取り入れたか
- サプライヤー評価に循環指標を含めたか
- 契約に回収・再資源化や性能保証を明記したか
- パイロットで効果検証する計画があるか
経営層への説得ポイント
・コスト:長期的にはTCO低減、在庫削減、廃棄コスト低減につながる。
・リスク管理:資源依存・サプライチェーン断絶リスクを低減できる。
・ブランド・社会的責任:ESG評価や顧客・投資家の期待に応え、競争優位を作る。
まとめ — 実行に向けたロードマップ
循環型購買は、購買プロセスの再設計とサプライヤーとの協働を通じて初めて効果を発揮します。短期的にはパイロットの実施とKPI設定、中期的にはカテゴリー別の標準化と契約テンプレート整備、長期的にはサプライチェーン全体での製品寿命延伸とリサイクル率向上を目指すロードマップが有効です。社内外のステークホルダーを巻き込み、小さく始めてスケールさせる姿勢が重要です。
参考文献
Ellen MacArthur Foundation — Circular Procurement
European Commission — Circular Economy
ISO 20400 — Sustainable procurement — Guidance
環境省 — 循環型社会の形成に向けて
環境省 — グリーン購入法(概要)
Procura+(公共調達の持続可能性ネットワーク)
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