ウィルソン・ブラザーズ人気曲徹底解剖:5曲の魅力と制作背景
ウィルソン・ブラザーズは1979年にデビューアルバム『Another Night』をリリースしたAOR(Adult Oriented Rock)系の兄弟デュオです。当時の西海岸シーンを代表するスタジオミュージシャン陣を迎えた豪華な布陣で制作され、美しいハーモニーと洗練されたサウンドが高く評価されました。本稿では同アルバムから特に人気の高い「Feeling Like We’re Strangers Again」「Another Night」「Can We Still Be Friends」「Take Me to Your Heaven」「Like Yesterday」の計5曲を取り上げ、それぞれの制作背景、演奏陣、アレンジの特徴、リリース当時の反響などを詳しく解説します。
ウィルソン・ブラザーズの概要
ウィルソン・ブラザーズは、ケリー・ウィルソン(Kelly Wilson)とスティーヴ・ウィルソン(Steve Wilson)の兄弟デュオで、1979年にアトコ・レコードから唯一のアルバム『Another Night』を発表しました。両名ともソングライティングやボーカル、ギター演奏を手がけ、西海岸AOR的なサウンドを追求しています。制作にはTOTOのスティーヴ・ルカサーやサックス奏者のアーニー・ワッツ、キーボード奏者のシェーン・キースターなど、当時の西海岸シーンで活躍していたトップクラスのスタジオミュージシャンが参加しました。また、プロデューサーはカイル・レーニング(Kyle Lehning)が担当し、ジャック・ウィリアムズ(Jack Williams)やファレル・モリス(Farrell Morris)もアレンジ面で名を連ねています。これにより、楽曲ごとにジャズやブルーアイド・ソウルの要素を織り交ぜた多彩なサウンドが実現されました。
2000年に弟スティーヴが他界したため、兄弟での活動はこれ1作に限られましたが、現在もAORファンの間で名盤として語り継がれています。
制作背景とスタジオミュージシャン陣
『Another Night』のレコーディングは1979年、ロサンゼルス近郊のスタジオで行われました。プロデュースを手がけたカイル・レーニングは、当時アメリカ南部で数々の名盤を手がけており、本作でも全体の音像を引き締める役割を果たしました。
演奏陣には以下のメンバーが名を連ねました。
- スティーヴ・ルカサー(Steve Lukather):ギターソロを担当。TOTOの中心メンバーとして知られ、テクニカルながらメロディアスなフレーズを紡ぎます。
- アーニー・ワッツ(Ernie Watts):サックス奏者として参加。その“泣き”のニュアンスを持つソロが楽曲に深い情感を与えています。
- シェーン・キースター(Shane Keister):キーボードを担当。バラードやミディアムスローのイントロに必要な叙情性を生み出しました。
- ジョン・ゴーイング(Jon Goin):アコースティック&エレクトリックギターを担当し、フィンガーピッキングを中心とした暖かみのある演奏で楽曲を彩りました。
- ジャック・ウィリアムズ(Jack Williams):ベースを担当。タイトかつ滑らかなベースラインで楽曲全体を支えています。
- ケネス・バトリー(Kenneth Buttrey):ドラムを担当。リズム隊の要として、AOR的なグルーヴ感を生み出しました。
- ファレル・モリス(Farrell Morris):パーカッションを担当し、楽曲のアクセントを加えています。
- バックコーラスにはデニー・ヘンソン(Denny Henson)らのセッションシンガーが参加し、透明感のあるコーラスワークを実現しました。
以上の演奏陣とプロデューサーによる緻密なスタジオワークが、『Another Night』全体のサウンドクオリティを飛躍的に高めています。
人気曲の徹底解説
Feeling Like We're Strangers Again
「Feeling Like We're Strangers Again」はアルバムの冒頭を飾るミディアムスローナンバーで、イントロではシェーン・キースターのピアノが静かに幕を開けます。その後、ジョン・ゴーイングのアコースティックギターによるフィンガーピッキングが加わり、徐々にファレル・モリス監修のストリングスやバックコーラスが重なる構成です。ケリーとスティーヴによるハーモニーは、ストリングスの広がりと絶妙に溶け合って楽曲全体に清涼感と切なさを同時にもたらしています。
歌詞のテーマは「すれ違い」であり、恋人同士の距離感や心の揺れを繊細に描写しています。サビ前後ではアーニー・ワッツのサックスソロが登場し、中盤からラストにかけて感情を爆発させるような“泣き”のフレーズを奏でます。このサックスソロが、楽曲に深い余韻を残すポイントです。
リリース当時はアメリカ西海岸のFMラジオでミドルローテーションを獲得し、日本では輸入盤ファンを中心にヘビーローテーションされました。後年のCD再発時には「イントロのピアノとサックスの絡みが心に沁みる」といった声が多く寄せられ、AORファンからは「後期AORを象徴する1曲」として高く評価されています。
演奏陣とアレンジのポイント
- ピアノ(シェーン・キースター):静かに立ち上がるイントロで楽曲の叙情性を演出し、中盤以降はストリングスと調和してドラマチックな展開を支えます。
- アコースティックギター(ジョン・ゴーイング):コードチェンジの合間に差し込むフィンガーピッキングが、楽曲に暖かみと人間味を加えています。
- サックス(アーニー・ワッツ):中盤からのソロでは、情感を揺さぶる“泣き”のフレーズが印象的。ラストにかけて余韻を深める役割を果たします。
- ストリングス(ファレル・モリス監修):楽曲の展開に合わせて徐々に厚みを増し、サビ以降では一気にドラマチックな盛り上がりを演出します。
- バックコーラス(デニー・ヘンソンほか):「ストレンジャー」というフレーズが重なるたびに楽曲全体を包み込むような統一感を与えています。
Another Night
「Another Night」はオリジナルではホリーズ(The Hollies)の楽曲ですが、ウィルソン・ブラザーズ版はAORサウンドで大胆に再解釈されています。イントロはスティーヴ・ルカサーが奏でるクリーントーンのギターリフで幕を開け、その後ケリーとスティーヴによるツインボーカルが美しいハーモニーを織り成します。ジョン・ゴーイングやスティーヴ・ルカサーによるギターソロが鮮烈なアクセントとなり、オリジナルとは異なるグルーヴ感を生み出しています。
サビの“Another Night”というフレーズは、伸びやかなメロディラインで聴き手に一種の浮遊感を与えます。リズム隊はジャック・ウィリアムズ(ベース)とケネス・バトリー(ドラム)がタイトにグルーヴを刻み、ウィルソン兄弟のボーカルをしっかりと支えました。バックコーラスは透明感のある層を成し、CSN&Y的な爽やかさを演出しています。
日本ではシングル化こそされませんでしたが、アルバム収録曲として多くのファンに愛され、後のライブでも定番曲として演奏されました。また、エンディングではフェードアウトを用いずに一度静かに締めた上で最後に再び盛り上げる構成となっており、聴き手に強い余韻を残します。
楽曲の特徴
- ギターリフ(スティーヴ・ルカサー&ジョン・ゴーイング):イントロのクリーントーンとリズムギターの掛け合いにより、オリジナルのポップ性を保ちつつAORらしい洗練された印象を与えています。
- リズム隊(ジャック・ウィリアムズ、ケネス・バトリー):楽曲のコアとなるタイトなグルーヴを提供し、中盤以降のビルドアップを支えます。
- バックコーラス(デニー・ヘンソンほか):ホリデイ感のある透明なハーモニーでサビを彩り、CSN&Y的なテイストを演出しています。
- エンディング:フェードアウトを使わず、一度静かな平坦部をはさみつつラストサビで盛り上げる構成が、聴き手に鮮烈な印象を残します。
Can We Still Be Friends
「Can We Still Be Friends」は、トッド・ラングレン(Todd Rundgren)の有名なバラードをウィルソン・ブラザーズがカバーした楽曲です。イントロではアコースティックギターとエレクトリックピアノがしっとりとした雰囲気を醸し出し、ケリーとスティーヴのツインボーカルが合わさることで原曲にはないAOR的な温かさを加えています。
ギターソロはスティーヴ・ルカサーが担当し、余計な装飾を排したエモーショナルな演奏で、原曲の憂いをより深く表現。バックコーラスにはデニー・ヘンソンらが参加し、コーラスワークに層を加えています。サビ終盤からラストにかけてはファレル・モリス監修のストリングスがフェードアウトしながら切なさを際立たせ、聴き手の余韻を深く刻みます。
日本ではAORカバーの秀作として高い評価を受け、ラジオ局のバラードタイムで頻繁にオンエアされたことでも知られています。
演奏陣とアレンジのポイント
- アコースティックギター&エレクトリックピアノ:イントロで楽曲の叙情性を演出し、中盤以降のエモーショナルな展開を支えます。
- ギターソロ(スティーヴ・ルカサー):原曲の哀愁を引き継ぎつつ、スリリングで大人びたフレーズを紡ぎ出します。
- バックコーラス(デニー・ヘンソンほか):サビでは原曲以上に厚みのあるコーラスを実現し、AOR的な温かさを付与します。
- ストリングス(ファレル・モリス監修):サビ終盤からラストにかけて緩やかにフェードアウトし、切なさをさらに深めます。
Take Me to Your Heaven
「Take Me to Your Heaven」はウィルソン・ブラザーズのオリジナル曲としても知られるAORナンバーです。イントロではケリーによるギターフレーズが軽快にリズムを刻み、そのままバックコーラスと絡み合いつつキャッチーなサビへと展開します。サビの“Take Me to Your Heaven”というフックが繰り返されるたびに、聴き手の耳に強く残る構成です。
リズム隊はジャック・ウィリアムズ(ベース)とケネス・バトリー(ドラム)がタイトなグルーヴを生み出し、間奏ではシェーン・キースターのエレクトリックピアノが軽やかなコードワークを奏でます。ギターソロはミディアムテンポの中でアクセントを効かせるフレーズが印象的で、楽曲に躍動感を与えています。日本ではシングル盤として輸入流通され、洋楽チャートでローカルヒットを記録しました。後にスティーヴィー・ウッズ(Stevie Woods)など他アーティストによってもカバーされ、そのカバー版とオリジナルの両方がAORファンから高い評価を得ています。
楽曲の特徴
- ギターフレーズ(ケリー・ウィルソン、スティーヴ・ルカサー):イントロからすぐに耳を引くキャッチーなリフが印象的です。
- バックコーラス:サビでのフックを何度も反復しつつ、層の厚いコーラスワークが楽曲全体を盛り上げます。
- リズム隊(ジャック・ウィリアムズ、ケネス・バトリー):軽快かつタイトなグルーヴでミドルテンポの楽曲をしっかりと牽引します。
- ギターソロ:ミディアムテンポにアクセントを加えるフレージングで、聴き手を飽きさせない展開を見せます。
- エンディング:フェードアウトを使わずにラストサビを繰り返した後、一度静かに収束し、最後に盛り上げる構成が余韻を残します。
Like Yesterday
「Like Yesterday」はアルバムのクライマックスを飾るスローバラードで、余韻と感情を深く刻む一曲です。イントロではシェーン・キースターの繊細なピアノとジョン・ゴーイングのアコースティックギターが静かに調和し、徐々にアーニー・ワッツのサックスとファレル・モリス監修のストリングスが加わって劇的に盛り上がります。
サックスソロは中盤から後半にかけて“泣き”の表現を存分に発揮し、リスナーに強い感動をもたらします。歌詞は過ぎ去った恋へのノスタルジーを綴っており、アルバムのクロージングとして深い余韻を残す構成です。リリース当時はAORファンのみならず、ソウルフルなバラードを求めるリスナーからも支持を集めました。
演奏陣とアレンジのポイント
- ピアノ(シェーン・キースター):ソフトで切ないイントロを演出。曲が進むにつれてストリングスと調和し、ドラマチックな展開を支えます。
- アコースティックギター(ジョン・ゴーイング):フィンガーピッキングによる暖かみのある音色が、楽曲に優しさを与えます。
- サックス(アーニー・ワッツ):中盤から終盤にかけて感情を爆発させる“泣き”のソロを展開し、楽曲の最高潮を演出。
- ストリングス(ファレル・モリス監修):終盤にかけてオーケストラ的な広がりを見せ、クロージングとしての余韻を深めます。
- バックコーラス:リフレインされるフレーズが、楽曲の切なさをさらに引き立てています。
まとめ
ウィルソン・ブラザーズが残した『Another Night』は、1979年当時のAORシーンにおいて群を抜くサウンドクオリティを誇り、現在でもAORファンの間で名盤として語り継がれています。紹介した「Feeling Like We're Strangers Again」「Another Night」「Can We Still Be Friends」「Take Me to Your Heaven」「Like Yesterday」の各楽曲は、いずれも西海岸を代表するトップクラスのスタジオミュージシャン陣と兄弟ならではのハーモニーが融合し、聴き手に深いエモーションを届けます。2000年にスティーヴが他界したため、その後の活動は途絶えましたが、ウィルソン・ブラザーズが残した音楽的遺産は色褪せることなく、今なお多くのリスナーに愛され続けています。
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