初心者のためのフリージャズ入門 第2弾 名盤5選
エリック・ドルフィー、アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、ドン・チェリー、アンソニー・ブラクストンという五人の革新者による代表作を紹介します。これらのアルバムは録音・リリース時期も演奏編成も異なりながら、それぞれ即興演奏の構造的解体、新たな技法の提示、精神性の探求など、多様な角度からフリージャズの表現領域を大きく拡張しました。各作品の録音背景、音楽的特色、批評的評価に注目しながら、フリージャズがいかにして「自由」の概念を深め、後続のアーティストに影響を与えてきたかを解説します。
1. Eric Dolphy – Out to Lunch! (1964)
『Out to Lunch!*』は1964年8月にリリースされ、ニュージャージー州エングルッドクリフのヴァン・ゲルダー・スタジオで1964年2月25日に録音されました。ブルーノート傑作のひとつと評される本作には、トランペットのフレディ・ハバード、ヴィブラフォンのボビー・ハッチャーソン、ベースのリチャード・デイヴィス、ドラムのトニー・ウィリアムスが参加しており、リズムの複雑さと構築のバランスが絶妙です。評論家からは「最高傑作」と評され、その革新的なアンサンブルは現代の即興演奏家にも多大な影響を与えています。
トラック解説:
1.Hat and Beard
Thelonious Monkへのオマージュで、バスクラリネットの荒々しいフレーズとパーカッシブな間奏が印象的です。
2.Something Sweet, Something Tender
ドルフィーとRichard Davisによる弓ベースとのユニゾン・デュエットを含む、抒情的で詩的な一曲です。
3.Gazzelloni
イタリアのフルーティスト、Severino Gazzelloniへの献辞で、Dolphyの高度なフルート・テクニックが存分に発揮されています。
4.Out to Lunch
タイトル・トラックでは明示的な拍子が外され、内的なパルスが感じられる自由度の高い演奏が展開されます。
5.Straight Up and Down
酩酊した足取りを彷彿とさせるリズムと、マルチフォニクスを交えたアルトサックスのソロが聴きどころです。
2. Albert Ayler – Love Cry (1968)
『Love Cry』は1968年にImpulse! Recordsからリリースされ、1967年8月31日と1968年2月13日にニューヨークのキャピトル・スタジオで録音されました。ドナルド・アイラーとの最後の共演作で、全8曲を収録。短いテーマの反復と激烈な即興が交錯し、ハープシコードを取り入れた独特の色彩が特徴です。アヴァンギャルド・ジャズとしての金字塔と評価され、そのスピリチュアルなサウンドは後続のミュージシャンに多大な示唆を与えました。
音楽的特徴:
・テナーサックスの鋭いトーンとDonald Aylerのトランペットが対話するホーン・アンサンブルは、自由奔放ながら緻密に構築された演奏を展開しています。
・Call Cobbsの電気チェンバロは「Dancing Flowers」や「Ghosts」で幻想的な響きを生み出し、フリージャズに新たなテクスチャを加えています。
・ベースのAlan SilvaとドラムのMilford Gravesは、時に軍隊行進のようなリズムを生み出し、時に完全に自由なインタープレイで楽曲を牽引しています。
3. Archie Shepp – Fire Music (1965)
『Fire Music』は1965年9月にリリースされ、同年2月16日と3月9日にヴァン・ゲルダー・スタジオで録音されました。トランペットのテッド・カーソン、トロンボーンのジョー・オレンジ、アルト・サックスのマリオン・ブラウン、ベースのレジー・ジョンソン、ドラムのジョー・チェンバースが参加し、社会的・政治的メッセージを帯びた楽曲を収録。挑戦的でありながら聴きやすく、前衛性と情熱的な演奏が高く評価されています。
フリージャズと構成の融合:Sheppは本作で純粋な自由即興だけでなく、しっかりとした楽曲構成を併せ持つスタイルを追求しています。たとえば、12分超の「Hambone」はリズム主体のテーマと即興が交錯し、聴き手を強烈に引き込みます。この「構成力と即興力の同居」は、Robert Gilbert(All About Jazz)が「挑戦的でありながら親しみやすい」と評したポイントでもあります。
社会的・詩的メッセージ:3曲目「Malcolm, Malcolm - Semper Malcolm」ではShepp自らが詩を朗読し、マルコムXへの祈りを捧げています。タイトルの「Semper」はラテン語で“永遠に”を意味し、力強い社会的メッセージが込められています。一方で「The Girl from Ipanema」のようなスタンダードにもShepp流のスリルを注入し、キッチュな要素すらアヴァンギャルドに転化しています
トラック解説:
1.Hambone
テンションの高いリズム・セクションが持続的に跳ねるイントロから幕開けし、SheppとCursonの対話的ソロが展開する代表曲です。
2.Los Olvidados
ルイス・ブニュエル監督の1950年映画へのオマージュであり、映画の暗いテーマを想起させる陰影あるメロディが印象的です。
3.Malcolm, Malcolm - Semper Malcolm
詩と演奏が一体化したトラックで、政治的・社会的な情熱が直截に伝わります。Sheppの朗読の合間を縫うようにバンドが応じる構成が斬新です。
4.Prelude to a Kiss
デューク・エリントンの名曲をShepp流に再構築。オリジナルの優雅さを保ちつつ、微妙に歪んだハーモニーが新鮮です。
5.The Girl from Ipanema
ボサノヴァの定番を大胆に解体し、Sheppが荒々しく“殴り書き”するかのような演奏で締めくくります。
4. Don Cherry – Complete Communion (1966)
『Complete Communion』は1966年5月にリリースされ、1965年12月24日に録音されました。LPの両面にわたるスイート形式で、複数のテーマが有機的に繋がる構造を提示。対話的なインタープレイと構造的革新により、Cherry自身の個性が鮮明に示された作品です。
スイート形式の革新:
各サイドは4つの小テーマで構成されたスイートとなっており、モノテーマ作品を排して複数のモチーフを自然につなげる構造は、批評家にも「60年代フリー・ジャズの最重要作の一つ」と評価されています。
インタープレイとダイナミクス:
チェリーとガト・バルビエリは、テーマを熟知したうえで即興的に変奏を加え、互いの動きを即座に受け止める「会話的」アプローチを実践しています。ベースのヘンリー・グリムスとドラムのエド・ブラックウェルは、リズムの安定基盤を提供しつつも、ソロイスト同様に積極的にソロパートを展開し、曲の推進力を生み出しています。
テーマ群の構成:
1曲目「Complete Communion」は〈Complete Communion〉〈And Now〉〈Golden Heart〉〈Remembrance〉から成り、各セクションの対比が鮮やかです。2曲目「Elephantasy」は〈Elephantasy〉〈Our Feelings〉〈Bishmallah〉〈Wind, Sand And Stars〉の4部構成で、より抽象度の高いフレーズが連続します。
5. Anthony Braxton – For Alto (1971)
『For Alto』は1969年に録音され、1971年にDelmark RecordsからダブルLPとしてリリースされました。全編アルト・サックスのソロ演奏のみで構成されたジャズ史上初の試みで、無伴奏即興演奏の可能性を大きく拡張。後進のサクソフォン奏者に大きな刺激を与え、ソロ表現の新たな地平を切り開きました。
コンセプトと演奏スタイル:
ブラクストンはアーノルド・シェーンベルクやファッツ・ウォーラー、カールハインツ・ストックハウゼンといった作曲家やピアニストのソロ作品に着想を得て、サックス独自の「言語」を構築しようとしました。各曲は特定のアーティストに捧げられており、演奏開始点として明確なアイデアを示す仕組みが組み込まれています。
収録曲分析:
アルバムは全8曲で構成され、例えば「Dedicated to Multi-Instrumentalist Jack Gell」「To Composer John Cage」「To Artist Murray DePillars」「To Pianist Cecil Taylor」などがあります。曲ごとに挑戦的なマルチフォニックやトリル、長音、アーティキュレーションの変化が探求されています。
これら五つのアルバムは、それぞれ録音・編成・アプローチが異なりながら、即興演奏の自由度を飛躍的に高め、フリージャズの可能性を広げました。現代の即興演奏家たちは、これらの作品が提示した「構造の解体」「精神的儀式性」「ソロの純度」といった要素を土台に、新たな表現を追求し続けています。
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