膨張タンクとは?仕組み・役割・種類をわかりやすく解説|空調・給水設備の必須機器

膨張タンクとは

膨張タンク(ぼうちょうタンク)とは、給湯設備や冷温水空調システムなどの密閉配管内で発生する圧力変化を吸収する装置です。
英語では「Expansion Tank(エクスパンションタンク)」と呼ばれます。

配管内の水は、温度が上昇すると体積が膨張します。
このとき、密閉系の配管内では逃げ場がなく、圧力が急上昇して機器や配管に負担がかかります。
膨張タンクは、その膨張分の水を一時的に吸収して圧力を一定に保つ役割を果たします。


膨張タンクの必要性

例えば、冷温水式の空調システムやボイラー設備では、運転時に循環水の温度が大きく変化します。
水は加熱によって約3〜5%膨張するため、その分の逃げ場所が必要になります。

膨張タンクを設けない場合、次のような問題が発生します。

  • 配管・バルブ・熱交換器の破損
  • 安全弁の頻繁な作動や漏水
  • システム内の圧力不安定化
  • エア混入や循環不良

つまり、膨張タンクは「システムの安全弁的な役割」を担う、圧力安定装置とも言えます。


膨張タンクの仕組み

膨張タンクの基本構造は「水側」と「空気(またはガス)側」に分かれています。
加熱により水が膨張すると、膨張した分の水がタンク内に流入し、空気側が圧縮されて圧力を吸収します。
冷却時には逆に水が戻るため、システム全体の圧力が一定に保たれます。

構造イメージ

 ┌───────────────────┐
 │   空気室(圧縮されて圧力を吸収) │
 │───────────────────│
 │   仕切り膜(ダイヤフラム)       │
 │───────────────────│
 │   水室(配管と接続)             │
 └───────────────────┘

この仕組みにより、加熱・冷却の繰り返しによる圧力変動を吸収し、システムを保護します。


膨張タンクの種類

1. 開放型膨張タンク

水面が大気に開放された構造で、主に古い暖房システムやボイラー系統で用いられます。
構造が簡単でメンテナンス性に優れますが、
・蒸発による水量減少
・空気混入による腐食リスク
といったデメリットがあります。

2. 密閉型膨張タンク(密封型)

現在の主流であり、内部がゴム膜(ダイヤフラム)で水と空気に分離された構造です。
密閉系のため外気に触れず、腐食しにくく・水位管理が容易です。
冷温水空調設備、給湯設備、床暖房など、さまざまな用途で使用されます。

密閉型の代表的タイプ

種類特徴
ダイヤフラム式水と空気をゴム膜で分離。保守性が高く、最も一般的。
ピストン式高圧用途に適し、精密な圧力制御が可能。
エアチャージ式空気室を加圧して調整。簡易的な構造だが、空気補充が必要。

膨張タンクの設計・選定ポイント

1. 容量の算定

膨張タンクの容量は、系統内の総水量・温度変化・膨張率・初期圧力などから求めます。
設計時には、次のような要素を考慮します。

  • 総水量(V)
  • 水の体積膨張率(β)
  • 設定圧力範囲(P1〜P2)
  • 安全弁設定圧力

→ 一般的には、メーカー提供の選定表または計算式を用いて容量を決定します。

2. 設置位置

通常は配管系統の吸込み側や戻り側(低圧部)に設置します。
ポンプの吐出側に設けると圧力変動が大きくなるため注意が必要です。

3. メンテナンス

  • 定期的に内圧(エア圧)を点検・補充する
  • ゴム膜(ダイヤフラム)の劣化チェック
  • 錆・漏水・空気抜き弁の確認

膨張タンクが使用される主な設備

  • 冷温水空調システム(チラー・AHU系統)
  • 給湯設備(ボイラー・温水タンク)
  • 地下ピットの加圧給水設備
  • 床暖房・融雪設備

建築設備においては、圧力安定・安全・寿命延長の観点から欠かせない要素です。


まとめ

膨張タンクは、加熱・冷却によって変化する水の体積を吸収し、配管内の圧力を一定に保つための重要な装置です。
特に空調や給湯などの密閉系システムでは、膨張タンクがないと圧力異常が発生し、重大な設備トラブルにつながります。

適切な容量選定と定期メンテナンスを行うことで、
安全・安定・長寿命な設備運用を実現できます。