作曲・編曲・音作りが学べるレコード11選|クリエイション視点の聴き方と実践テクニック

はじめに

音楽制作に携わるアーティストやクリエイターにとって、既存のレコードは単なる音源以上の「教材」です。作曲や編曲、音作り、アルバム構成、コンセプト表現、サウンドの空間設計──様々な創作のヒントが詰まっています。本コラムでは「クリエイションの視点」で深掘りしたおすすめレコードを紹介し、それぞれの作品から学べるポイントや実践的な聴き方を解説します。単なる名盤紹介ではなく、次の制作に直結する聞き取り方、分析の観点を重視しました。

クリエイションを観察するための聴き方フレームワーク

  • 目的を持って聴く — 「作曲(メロディ/和声)」「編曲(楽器配置/役割)」「音作り(トーン/エフェクト)」「構成(曲間/流れ)」「物語・テーマ」のいずれを学ぶかを決めて反復して聴く。

  • フォーカス・リスニング — 1回目は全体感、2回目はドラムだけ、3回目はボーカルのフレージングだけ、というように「要素ごと」に集中して聴き分ける。

  • 再現と分解 — 気になるフレーズやサウンドをDAWや楽器で再現してみる。再現作業は発見をもたらす最良の学習法。

  • 比較と文脈化 — 同時代の他作やプロデューサーの他作品と比較し、何がその作品を特別にしているかを判断する。

  • メタ情報に注目する — クレジット(プロデューサー、エンジニア、ストリングス・アレンジャー等)、レコーディング場所、使用機材の情報も創作手法を理解する鍵となる。

レコードの聴き方:実践的アプローチ

  • セクション分解ノートをつける — イントロ/Aメロ/Bメロ/サビ/ブリッジなど、セクションごとに楽器構成、コード進行、ダイナミクスの変化をメモする。

  • 楽器ごとのマッピング — どの楽器がコードを担っているか、どの楽器がリズム/テクスチャ/カウンターメロディを担当しているかを書き出す。

  • 制作的問いを投げる — 「このエモーションはどのサウンド設計(リバーブ/ディレイ/フィルター等)で作られているか」「この転調の効果は何か」など、問いを持って聴く。

  • 短いフレーズから学ぶ — フレーズ単位でループして、細部(音量バランス、EQの帯域感、アタックの処理)を細かく聞き分ける。

おすすめレコード(クリエイション別に深掘り)

  • The Beatles — Revolver (1966)

    おすすめ曲:“Eleanor Rigby”, “Tomorrow Never Knows”, “Got to Get You into My Life”

    学べること:スタジオを作曲ツールとして活用する発想。テープ・ループ、逆回転、オートチューン以前のテープ処理やアレンジの発想を実験的に取り入れる方法。各楽器の音色選びとボーカルの配置が楽曲の印象を決定づける好例。

    実践テクニック:既存のトラックに“不協和な要素”を一つ入れてみる(管楽器の異なるフレージング、異質なコーラス等)。曲のムードを変える小さな加工(スプリングリバーブ、テープ飄動)で表情をコントロールする練習。

  • Miles Davis — Kind of Blue (1959)

    おすすめ曲:“So What”, “Freddie Freeloader”, “Blue in Green”

    学べること:モーダル・アプローチによる「空間」を活かした即興と構成。音の“間”とフレージングの余裕感、少ない音数で最大の表現をする方法。バンドの呼吸感やリスナーへの余白の作り方を学べる。

    実践テクニック:フレーズを引き算してみる。余白を作ることでテーマの印象がより強くなる実験を行う。即興部分をあえてシンプルにしてテーマの反復に集中する。

  • Joni Mitchell — Blue (1971)

    おすすめ曲:“A Case of You”, “River”, “All I Want”

    学べること:密度の高い歌詞(ストーリーテリング)とギター・チューニング/コードワークの融合。ボーカルのニュアンスと歌詞の語り口が楽曲全体の感情を牽引する例。個人的な感情を普遍化するライティング技術。

    実践テクニック:歌詞の一文を中心に据え、周囲のコードやアレンジを作る方法。オープン・チューニングなど、楽器側の工夫で新しいコード感を発見する。

  • Radiohead — Kid A (2000)

    おすすめ曲:“Everything in Its Right Place”, “Idioteque”, “How to Disappear Completely”

    学べること:エレクトロニクスをロックの語法に統合する実験。非凡なサウンドデザイン、断片的なメロディを再構築して統一感を出す手法、アルバムというフォーマットのコンセプト化。

    実践テクニック:アコースティックな要素と電子的要素を「役割」で分け、意図的に違和感を残す。リズムやループに変拍子的な不安定さを加えて緊張感を作る。

  • Björk — Homogenic (1997)

    おすすめ曲:“Jóga”, “Bachelorette”, “Hunter”

    学べること:声を楽器化するアプローチとオーケストラ/ビートの融合。テクスチャーとダイナミクスで感情を描写する比喩的なサウンド設計。コラボレーション(プロデューサー、ストリングスアレンジャー)を通じたコンセプト実現のプロセス。

    実践テクニック:ボーカルの非典型的な処理(ディストーション、グリッチ、ストレッチ)を試す。単一のモチーフをさまざまなテクスチャで展開することでドラマを構築する。

  • Kraftwerk — Trans-Europe Express (1977)

    おすすめ曲:“Trans-Europe Express”, “Europe Endless”, “Metal on Metal”

    学べること:ミニマルなモチーフの反復で世界観を作る方法。シンセサイザーの音色選択とリズムの機械性が曲全体のアイデンティティになること。テクノや電子音楽の言語化。

    実践テクニック:モチーフを極限まで削ぎ落として反復し、微細な変化(フィルターの開閉、タイミングのズレ)で興味を維持する。

  • Kendrick Lamar — To Pimp a Butterfly (2015)

    おすすめ曲:“Alright”, “King Kunta”, “These Walls”

    学べること:社会的テーマを音楽構成で表現する方法。ジャズ、ソウル、ファンクをヒップホップに統合したプロダクションの奥行き。アルバム全体の物語性とトラック配置によるダイナミクス設計。

    実践テクニック:テーマに沿ったサウンドパレット(特定の楽器群やコード進行)を決めて曲間で再提示することでアルバムの一貫性を保つ。

  • Aphex Twin — Selected Ambient Works 85–92 (1992)

    おすすめ曲:“Xtal”, “Tha”, “Pulsewidth”

    学べること:低予算・限られた機材でも独自の世界観を作る手法。質感(サンプルの粗さ、ローファイ感)を積極的に表現へと変換するアイディア。アンビエント/エレクトロニカの空間設計。

    実践テクニック:自作のサンプル素材を加工してテクスチャを作る。完璧さを目指さず“素材感”を作品の一部として取り入れる。

  • Yellow Magic Orchestra — Solid State Survivor (1979)

    おすすめ曲:“Technopolis”, “Behind the Mask”, “Castalia”

    学べること:日本的ポップセンスと先進的な電子音楽の融合。メロディラインのキャッチーさを保ちつつも緻密なシンセ・アンサンブルを作る手法。テクノポップの先駆的アレンジ。

    実践テクニック:日本語/英語メロディの語感を生かしたフレージング、シンセ音色のレイヤー構成を練る。

  • Cornelius — Fantasma (1997)

    おすすめ曲:“If You’re Here”, “Mic Check”, “Moon Walker”

    学べること:細部に宿るプロダクションの美学。断片的なアイディアのモンタージュでアルバムのムードを作り上げる。ポップスにおけるサウンド・デザインと編曲の密度。

    実践テクニック:小さなサウンド・モチーフ(クリック、パーカッションのスナップ)を意識的に配置してリスナーの注意を誘導する。

  • Nujabes — Modal Soul (2005)

    おすすめ曲:“Reflection Eternal”, “Aruarian Dance”, “Feather”

    学べること:ジャズ的和声感とビートの親和性、サンプリングの美学、メロウなムードの作り方。トラックごとの空気感を統一するサンプル選びとEQ処理。

    実践テクニック:柔らかいビートのスウィング感を研究し、ピアノやサックスのサンプルを温かくまとめるミキシング手法を試す。

レコードから得た学びを自分の創作に落とし込む方法

  • ミニプロジェクト化する — 「このアルバムの〇〇的要素だけを使って1曲作る」などテーマを限定した短期的課題を設定する。

  • パーツを再解釈する — 気に入ったフレーズをそのままコピーするのではなく、異なるキー/テンポ/楽器で再解釈して自分の文脈に落とし込む。

  • コラボレーションで視点を変える — 他のミュージシャンやプロデューサーと作品を分析し、異なる見方や技術を取り入れる。

  • バランス感覚を養う — 技術(音作り)ばかりでなく、曲の“感情”や“語り”を最優先にする判断力を磨く。音が良くても曲の核が弱ければ伝わらない。

おわりに

良いレコードは「どう作られたか」を考え続けることで二度三度と新しい発見を与えてくれます。本稿で紹介した作品はその発見の宝庫です。紹介した聴き方・実践テクニックを試しながら、自分なりの表現に落とし込んでください。創作は模倣から始まり、独自性へと昇華していきます。

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