SRAMとは:仕組み・用途・SRAMとDRAMの違い、設計課題と最新対策を徹底解説
SRAMとは:概要と定義
SRAM(Static Random-Access Memory、静的ランダムアクセスメモリ)は、電源が供給されている限りデータを保持する半導体メモリの一種です。広義には「リフレッシュ不要でビットを保持する揮発性メモリ」を指し、CPUキャッシュや組み込みメモリ、FPGAのブロックRAMなど、低レイテンシで高性能を要求される用途に広く使われます。
SRAMの基本構造と動作原理
最も一般的なSRAMビットセルは「6トランジスタ(6T)セル」です。6Tセルは2つの相互接続されたインバータ(各々が保持ノード)と、2つのアクセス用トランジスタ(ワードラインで制御)で構成されます。これにより、安定した「0/1」の保持と読み書きが可能になります。
- 保持(静的): インバータの正帰還によって状態が維持され、外部からのリフレッシュは不要です。
- 読み出し: ワードラインをオンにしてビットラインとノードを接続。差動のビットライン電圧を感知器(センスアンプ)で読み出します。読み出し中にセルの状態が崩れないよう、ビットラインのプレチャージや読み出し用の工夫が必要です。
- 書き込み: 書き込みはビットラインに所望の値を強制し、ワードラインをオンにしてセルのノードを上書きします。書き込みの安定性はトランジスタ比(セル比)に依存します。
SRAMとDRAMの違い(性能・構造・用途)
SRAMとDRAMは用途や設計要件が大きく異なります。
- 保持方式: SRAMは静的に保持(リフレッシュ不要)、DRAMは蓄電型で定期的なリフレッシュが必要。
- 速度: SRAMは非常に高速(一般に数nsオーダーのアクセス)、DRAMはやや遅く(数十ns以上)ランダムアクセスで劣る。
- 集積度とコスト: DRAMはセルがシンプル(1トランジスタ+キャパシタ)なためビット当たり面積が小さく高密度でコストが低い。SRAMはセルが多数のトランジスタを必要とするため密度は低く高コスト。
- 用途: SRAMはキャッシュやレジスタファイル、組み込み高速メモリに適し、DRAMは主記憶(メインメモリ)に適する。
SRAMの種別:セル構成とインタフェース
用途に応じてSRAMには複数のバリエーションがあります。
- 6Tセル: 一般的な汎用セル。読み書きのバランスが良い。
- 8T / 10Tセル: 読み出し時のセル破壊を避けたり、読み取り・書き込みポートを分離したりするためにトランジスタを追加した構成。低電圧や低ノイズ環境での安定性向上が狙い。
- 同期SRAM(SRAMのタイミング): 非同期SRAMは外部クロックに依存せず、信号立ち上がりで動作。同期SRAMはクロックに同期して動作するため、インタフェースが簡潔で高周波数動作に向く。
- デュアルポート/マルチポートSRAM: 同時に複数アクセスを許す設計。例えばGPUのレジスタファイルや高速ネットワーク機器で使われる。
- SRAMベースのブロック(FPGAなど): FPGA内のブロックRAMはSRAM技術で実装されることが多く、デュアルポートや読み出し専用構成などを備えます。
SRAM回路設計での重要指標
SRAM設計では複数のマージンや性能指標が重視されます。
- Static Noise Margin(SNM): セルの安定性を表す代表的指標。読み取り・書き込み時にセルが意図せず反転しないための余裕を示します。
- セル比(β比): 読み書き時の強さ(アクセストランジスタ対保持トランジスタ)を表し、書き込みのしやすさや読み出しの安全性に影響します。
- レイテンシとスループット: アクセス時間(nsオーダー)と同時に列選択やセンスアンプの設計でスループットが決まります。
- スタティックリークと動的電力: トランジスタの微細化に伴いリーク電流が増加するため、低電力化策が必須です。
設計課題と解決技術
近年の微細化・低電圧化によりSRAM設計は難易度が上がっています。代表的課題と対策を挙げます。
- 低電圧での安定性低下: Vddを下げるとSNMが小さくなりビットフリップが起きやすくなる。対策として8T/10Tセルや書き込みアシスト回路、読み出し分離などが用いられます。
- ばらつき(プロセス変動): トランジスタ特性のばらつきに対して冗長行/列やECCを導入して歩留まりと信頼性を確保します。
- メモリセルのリークと消費電力: パワーゲーティング、drowsyキャッシュ(低電力モードでセル電圧を下げる)、セクションごとの電源遮断などで静的消費電力を低減します。
- ソフトエラー(SEU)対策: α粒子や宇宙線の影響でビット反転が起こるため、重要データ領域にはECCやスクラビング(定期検査と訂正)を適用します。
高速化手法(キャッシュ設計での工夫)
CPUキャッシュや高速バッファでのSRAM活用にあたっては、レイテンシと消費電力のトレードオフを管理するための技術が多用されます。
- 階層化キャッシュ: L1は超低遅延(数サイクル)・小容量、L2/L3は大容量でやや遅いSRAM(あるいはSRAMベースの構造)を使うことで性能とコストを両立します。
- バンク分割と並列化: 複数バンクに分けアクセス競合を減らして並列スループットを高めます。
- ウェイ予測・サブバンク: 必要な部分だけを活性化して電力を節約する技術が使われます。
- ECCとパリティ: L1ではパリティ検査、L2以上ではECC(単一ビット訂正など)を使う実装が一般的です。
用途例(実世界での採用事例)
SRAMは以下のような用途で不可欠です。
- CPU/GPUのキャッシュ: 低レイテンシで高頻度アクセスのためにSRAMが用いられます。L1は通常SRAMで、L2/L3もSRAM/SRAM類似構成が一般的です。
- レジスタファイル: プロセッサ内部の高速アクセス領域はSRAM構造で実装されます。
- 組み込みシステム: SoC内のオンチップメモリ(コード領域やデータバッファ)にSRAMが使われます。
- FPGA: 多くのFPGAはSRAMベースのコンフィギュレーションと、ブロックRAM/DSPマクロにSRAMを利用します(ボード起動時にビットストリームをロードする必要があります)。
- ネットワーク機器・ストレージコントローラ: 高速キャッシュやルックアップテーブル、高速バッファでSRAMが使われます。
信頼性・運用上の注意点
SRAMは設計と運用で信頼性対策が求められます。
- ECCとスクラブ: 長時間運用や重要データ保存にはECCと定期スクラビングを組み合わせるのが標準的です。
- 温度・電圧変動: 温度上昇や電源変動がSNMを悪化させるため、設計マージンを十分に取ります。
- 製造テストとリダンダンシー: 欠陥セルを修復するためのスペア行/列やセルレベルの置換が行われます。
将来展望と代替メモリ
SRAMは高速性で依然重要ですが、低消費電力・高密度化の要求から新技術との競合や補完が進んでいます。
- eDRAM(埋め込みDRAM): キャッシュ容量を増やしたいがSRAM面積が許さない場合の代替として採用されることがあります(プロセッサ統合での例あり)。
- MRAM/PRAM/ReRAMなどの不揮発メモリ: 低電力・不揮発の特性から将来的にはキャッシュ階層の再設計やソフトキャッシュ戦略に使われる可能性がありますが、アクセス遅延や耐久性などの課題があります。
- プロセスの微細化による課題: トランジスタのばらつきやリーク増大に伴い、SRAMセル設計の革新(セルの多様化、回路アシスト)が継続的に必要です。
まとめ
SRAMは「高速・ランダムアクセス・リフレッシュ不要」という特性から、CPUキャッシュや組み込み高速メモリ、FPGAブロックRAMなどで不可欠な役割を果たしています。一方で密度やコスト、微細化に伴う設計上の課題(低電圧での安定性、リーク、ばらつき、ソフトエラー)もあり、8T/10Tセル、ECC、パワーゲーティングなど多様な対策が実装されています。今後はeDRAMや不揮発メモリ技術との組み合わせや、SRAMセル自体の改良が進み、用途ごとに最適なメモリ階層の設計がさらに重要になるでしょう。
参考文献
- Wikipedia: Static random-access memory
- Intel: Cache (概要とアーキテクチャに関する解説)
- JEDEC Solid State Technology Association(メモリ規格と資料)
- Stanford 講義資料: SRAM設計概説(教育資料)
- David A. Patterson & John L. Hennessy / CMOS VLSI Design(テキスト、SRAM回路設計やキャッシュの解説)
- 論文例: SRAM scaling challenges(IEEE等のレビュー記事)


