ウィルヘルム・メンゲルベルク徹底ガイド — コンセルトヘボウ代表録音のおすすめ聴きどころと評価・倫理論争
ウィルヘルム・メンゲルベルクとは — 背景と評価の両面
ウィルヘルム・メンゲルベルク(Wilhelm Mengelberg, 1871–1951)は、オランダのアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を長年(1895年から1945年頃まで)率いた巨匠です。彼は19世紀末〜20世紀前半のヨーロッパにおける「演奏家としての個性」を体現した指揮者の一人で、特にブルックナーやマーラー、ベートーヴェン、モーツァルト、バッハの解釈で知られます。
一方で第二次世界大戦期におけるナチスとの関係や占領下の活動が大きな論争を呼び、今日では芸術的評価と倫理的評価を並列して考える必要がある指揮者でもあります。本稿ではその複雑さを踏まえつつ、音楽的観点から“レコード(録音)として聴く価値のある”代表録音を挙げ、なぜ注目に値するかを深掘りします。
聴くべき代表録音(おすすめリストと聴きどころ)
以下は入手しやすい再発盤や評価の高い録音を中心に選び、各録音の音楽的特徴や聴きどころを解説します。再発レーベルとしては、Tahra、Music & Arts、EMI/Warner(歴史的アーカイヴ)といったレーベルからまとまったボックスや個別リリースが出ています。
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Bruckner:交響曲第7番(Mengelberg / Concertgebouw)
おすすめポイント:メンゲルベルクのブルックナーは、テンポの弾力性、呼吸の取り方、壮大なクレッシェンド表現が魅力です。第7番はブルックナーの中でも感情表現が豊かな作品で、メンゲルベルクの“歌うような弦”、豊かなホルン・ソロ、劇的な対比が効果的に出ています。
聴きどころ:第1楽章の重心移動、第2楽章(スケルツォ)のリズムの推進力、終楽章の荘厳な高まり。歴史的録音ならではのテンポの柔軟さや、アンサンブルの空気感を味わってください。
入手指針:Tahra や歴史音源を扱うレーベルの再発盤が音質と資料性の面で充実しています。
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Mahler:交響曲(断片的だが重要な演奏記録)
おすすめポイント:メンゲルベルクはマーラーの早期擁護者の一人であり、マーラー作品を演奏会に定着させました。完全な「全集」は少ないものの、彼とコンセルトヘボウのマーラー演奏(交響曲や歌曲の録音断片)は、マーラー解釈史を辿る上で重要です。
聴きどころ:放出や静寂の扱い、声楽パート(歌曲での伴奏)の細やかな配慮、オーケストラの色彩感覚。マーラーの「遠近感」を作る名人とも言えます。
入手指針:歴史アーカイブ再発シリーズでマーラー関連録音を探すと、貴重なライブ録音や放送音源が含まれています。
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Beethoven:交響曲(断片的録音・ライブ演奏)
おすすめポイント:ベートーヴェンでも、メンゲルベルクは古典的厳格さだけにとどまらない柔軟なフレージングを見せます。第9などの大作では合唱とオーケストラのバランスに独自の美意識が出ます。
聴きどころ:第1楽章の構築感と第2〜3楽章でのリズム処理、第4楽章のドラマ性。歴史録音ならではの“当時の響き”を知る意味でも価値があります。
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Bach / Mozart / Brahms:宗教曲・管弦楽/合唱作品
おすすめポイント:メンゲルベルクは宗教音楽やモーツァルトの曲でも合唱とオーケストラの色合いを大事にしました。例えばバッハの宗教曲(断章的録音)やモーツァルトのレクイエム/声楽付き作品は、当時の合唱の音色と解釈を知る良い資料です。
聴きどころ:合唱の輪郭、音楽語法としてのレガートやダイナミクスの扱い。古楽運動以前の“ロマン派的バッハ/モーツァルト”理解の一例として興味深いでしょう。
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名曲集・アンソロジー/ボックスセット(Mengelberg 関連コンピレーション)
おすすめポイント:多数の散逸した録音を体系的に聴くなら、研究・音楽史的解説付きのボックスセットやアンソロジーが非常に有用です。音源の来歴(コンサート録音、放送、スタジオ)や録音年が注記されているものを選ぶと、解釈の変化や彼の芸術的発展が追えます。
入手指針:Tahra、Music & Arts、あるいはEMI系の歴史アーカイヴシリーズなどをチェック。解説書付きの再発盤を選ぶと理解が深まります。
メンゲルベルクの演奏スタイルをどう聴くか — 聴取ガイド
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テンポと呼吸:メンゲルベルクはテンポの伸縮(rubato)を積極的に用い、長いフレーズの呼吸感を強調します。現代のテンポ均一主義とは一線を画すため、最初は“違和感”を覚える人もいるでしょう。そこを越えると、楽曲の歌いまわしやドラマ性が立ち上がります。
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音色とバランス:コンセルトヘボウ管弦楽団とのコンビネーションは“ブレンドした弦”、温かく豊かな弦楽器群と歌う木管が特徴です。現代の録音と比べるとダイナミック・レンジは限定的ですが、色彩表現はしっかりと伝わります。
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表現の“過剰さ”に注意:当時の音楽観に基づく強烈なクレッシェンドや句切りの仕方を「古臭い」と切り捨てるのは簡単ですが、歴史的文脈で理解すると新たな魅力が見えてきます。演奏史の一断面として聴くことを勧めます。
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倫理面の配慮:芸術的評価と個人の政治的行為をどう切り分けるかは聴取者の判断です。録音を聴く際には、メンゲルベルクの芸術的貢献と同時に、その時代背景や論争を知っておくと、聴取体験がより深くなります。
入手のコツと再発盤選びのポイント
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解説・注釈の充実した再発を選ぶ:歴史録音は出所や編集の仕様が重要です。解説書や原盤情報が付いている盤を選ぶと、録音の来歴が把握できます。
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デジタルリマスターの品質を確認:同じ曲でもリマスターやノイズ除去の方針で聴感が変わります。レビューや信頼できる販売ページのサンプルを聴いて選ぶと良いです。
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コレクション的にはボックスセットが便利:多くの断片録音をまとめて聞けるボックスセット(レーベルの企画盤)は学術的価値も高く、メンゲルベルク研究に向く選択です。
最後に:なぜメンゲルベルクを聴くのか
メンゲルベルクは「過去の遺物」ではなく、20世紀前半の演奏慣習と指揮者個性を学ぶための生きた資料です。彼の録音を通して、作品の別の表情、あるいは演奏史における解釈の変遷を実感できます。作品そのものの魅力を新たな角度から再発見するために、まずは上述の代表録音や解説付きの再発盤から入ることをおすすめします。
参考文献
- Wikipedia: Wilhelm Mengelberg(英語)
- Encyclopaedia Britannica: Wilhelm Mengelberg
- Tahra(歴史音源レーベル — Mengelberg 関連再発あり)
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