イルムガルト・ゼーフリート入門:モーツァルトとドイツ語リートの名演&おすすめ録音ガイド
イルムガルト・ゼーフリートとは
イルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried, 1919–1988)は、第二次大戦後のウィーンやザルツブルクを中心に活躍したオーストリアのリリック・ソプラノです。モーツァルト歌唱の名手として高く評価されただけでなく、ドイツ語リート(シューベルト、R.シュトラウス、ブラームスなど)でも深い表現力を示しました。声は軽やかで温かく、透明感と柔らかなニュアンスに富み、台詞的な語り口(Sprechgesang)と抒情性を同時に兼ね備えている点が特徴です。
声の特徴と歌唱の魅力
- 音色:明るく伸びのある上音域と、柔らかな中低域のバランスが良い。鋭さよりも“寄り添うような”温かさを感じさせる声質。
- 表現力:語りかけるようなフレージングと細部のニュアンス操作に長け、テクスチュアの細やかな違いを聴かせる。
- レパートリー適性:モーツァルトのソロ・アリアや役(パミーナ、スザンナ、ツェルリーナ等)と、ドイツ語リートが特に魅力を発揮する。
- アンサンブル:オーケストラやピアニストとの対話を重視し、伴奏と声が「会話」する録音によい成果が多い。
おすすめレコード(カテゴリー別)
1. モーツァルト・オペラ(オペラ全集・抜粋)
ゼーフリートはモーツァルト演奏の中で最も自然体の一人です。台詞の明瞭さ、語りかけるような表現、そして音楽的な軽やかさが魅力となるので、まずは以下のタイプの録音を探してみてください。
- Le nozze di Figaro(フィガロの結婚) — スザンナ役の演奏を収めた録音。登場人物の心情を細やかに描き分けるため、オペラ全体の流れの中でのゼーフリートの歌を聴くと、その魅力が分かります。
- Die Zauberflöte(魔笛) — パミーナのアリア(特に第2幕の情感のこもった場面)での表現は必聴です。
- Don Giovanni(ドン・ジョヴァンニ)やCosì fan tutteのツェルリーナ/フィオルディリージ系の小役での録音も、当時のモーツァルト解釈を知るうえで面白い対比になります。
2. ドイツ語リート(シューベルト/R.シュトラウス/ブラームス)
ゼーフリートのリート録音は、歌い手としての「語る力」が最も顕著に出る分野です。ピアノ伴奏との“対話”に耳を傾けてください。
- シューベルト:『冬の旅』や『美しき水車小屋の娘』などフル・サイクルではなくても、代表的な歌曲(「魔王」「セレナーデ」「アヴェ・マリア」など)を集めた選曲集で彼女の抒情性を味わえます。
- R.シュトラウス:MorgenやZueignung、Cäcilieなど、声の温度やフレージングによって曲の性格を変えて聴かせるタイプの歌が特にマッチします。
- 伴奏:エリック・ヴェルバ(Erik Werba)や有名なピアニストと組んだリサイタル盤が残っており、ピアノとの緊密なアンサンブルが魅力です(盤によって伴奏者名が異なるため、手元の盤情報を確認してください)。
3. ライブ/ザルツブルク祭典などの録音(名演ライブ)
フェスティヴァルや舞台でのライブ録音は、セリフ的な息遣いや表現の「瞬間性」が強く出ます。録音の音質は様々ですが、演奏の熱気と表現の即興性を重視するならライブを探す価値があります。
- ザルツブルク・フェスティヴァルでのモーツァルト演奏:舞台上での芝居と歌唱が自然に結びついた演奏は、ゼーフリートの人物描写力を最もよく示します。
- ラジオ放送録音(戦後〜1950年代の放送)も、当時の演奏慣習や声の生の感触を知るうえで貴重です。
4. 編集盤・ボックス(入門用、まとめて聴きたい人向け)
「ベスト・オブ」的な編集盤や、リサイタル録音を纏めたボックスはまず手に入れて音楽性をつかむのに便利です。ラジオ録音〜スタジオ録音まで網羅したリマスター盤が出ていることが多く、音質改善されたCD/配信版も探してみてください。
録音を選ぶ際のポイント(聴きどころ)
- 「台詞としての歌唱」を聴く:単に美しい声を聴くだけでなく、言葉の意味をどう歌にしているかに注目するとゼーフリートの真骨頂が見えてきます。
- 伴奏との会話:ピアノやオーケストラが単なる伴奏ではなく“語り合っている”録音を選ぶと良い。伴奏者名(ピアニスト、指揮者)が記載されている盤を確認しましょう。
- ライブかスタジオか:スタジオ録音は音質が安定していて細部が聴き取りやすい一方、ライブは表現の切れ味や舞台性が強く出ます。目的に応じて使い分けてください。
- 復刻盤の注釈を読む:編集盤やボックスは録音時期やリマスターの内容を注記していることが多く、録音年で時代の解釈の差も楽しめます。
具体的な聴取ガイド(おすすめトラック例)
- モーツァルト:パミーナのアリアやスザンナの場面歌。フレーズ終わりのフェードアウトや語尾の処理に注目。
- シューベルト:短い歌曲(「ロザムンデ」「セレナーデ」「夢」など)で、語り口の変化とピアノの間合いを見る。
- R.シュトラウス:高音域での伸びと、抒情的フレーズの内面的な温度差に耳を澄ます。
どうやって入手するか(現代の選択肢)
- CD再発:クラシック専門レーベルがリマスターして再発していることが多いので、発売元・盤の評(解説書)を確認してください。
- 配信:主要配信サービスでも代表的なアリアや編集盤が配信されている場合があります。まずは一曲単位で試聴して音色や表現を確認するのがおすすめです。
- 中古レコード:オリジナル・プレスの音色や雰囲気を楽しみたいなら中古レコードを探すのも面白いですが、今回はレコードの保管や再生の技術的解説は割愛します。
最後に:ゼーフリートの魅力を最大限に味わう聴き方
生真面目さと自然体のバランスに魅力がある歌手なので、「完璧な技巧」だけを追うのではなく「語りかけられている感覚」に身を任せて聴くと良いです。モーツァルトやシューベルトなど、言葉とメロディの結びつきが強い作品でこそ彼女の個性が光ります。
参考文献
- Irmgard Seefried — Wikipedia (English)
- イルムガルト・ゼーフリート — Wikipedia (日本語)
- Irmgard Seefried — Discogs(ディスコグラフィー)
- Irmgard Seefried — AllMusic(アーティスト紹介・作品情報)
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