Pat Martino(パット・マルティーノ)入門:おすすめアルバム別の聴きどころとトランスクライブで学ぶジャズ・ギター術

はじめに — Pat Martinoとは

Pat Martino(パット・マルティーノ)は、ジャズ・ギター界を代表するアーティストの一人で、その流麗で緻密なライン構築、強靭なテクニック、そして独自のハーモニー感覚で多くのミュージシャンに影響を与えました。キャリアは1960年代のハードバップ期から始まり、70年代にはモードやジャズ・ロック的な要素も取り入れた作品を発表。1980年代に脳の病気で記憶を失うという困難を経験しましたが、再びギターを学び直して復活し、その後の演奏にも新たな深みが加わりました。

おすすめレコード一覧(聴きどころを深掘り)

  • El Hombre(初期リーダー作) — 初期の鋭さと歌心を味わう

    パットのリーダー初期作群は、ブルージーでありながらハードバップ/モダンジャズの語法を凝縮しています。ここでは短いテーマから即興へと滑らかに流れ込む彼の「歌うような」ライン形成と、ベーシックなコード進行上での展開力を聴くことができます。ギターのタッチ、フレージングの間(ま)や、シングルノートでの旋律的な躍動に注目すると彼の作法がよくわかります。

  • Strings!(初期の別方向) — メロディー性とアレンジの妙

    タイトルから推測できる通り、アンサンブルやアレンジに重点が置かれた楽曲が多く、ギター・ソロは楽曲全体の「声部」として機能します。単に速いフレーズを並べるのではなく、楽曲の中での役割を考えたソロ構築、そしてトーンの変化やダイナミクスの使い方を学べます。ギターを“歌わせる”コツが詰まっています。

  • Baiyina (The Clear Evidence) — モード/ワールド色を取り入れた実験性

    70年代に発表されたこの作品群は、インド音楽的要素やモード的アプローチ、エレクトリックなテクスチャーを取り入れ、従来のジャズ・ギター像を拡張しました。長尺のモード・ワークやリフを基盤にした即興が多く、旋法(モード)を中心に据えたソロ展開のつくり方、リズム感を活かした反復モチーフの発展など、即興編曲のヒントが豊富です。

  • 復活以降の代表作(The Return など) — 再学習から生まれた“研ぎ澄まされた”表現

    脳の病気から復活して以降の作品群は、以前のテクニックはそのままに、フレージングの選択や音楽表現の深みが増しています。メロディーを大事にする姿勢、テーマの発展による長めのソロ構成、そしてアンサンブルとの対話(インタープレイ)に注目してください。技術的な速さだけでなく、音の選び方や間の使い方でドラマを作る術が学べます。

  • ライブ録音(複数) — 即興の瞬発力と対話を楽しむ

    スタジオ作品では見えづらい、瞬間の創造力とオーディエンスとの呼吸、長尺ソロの構築力がライブ盤でははっきり聴き取れます。テーマ提示からモチーフ展開、ビルドアップ、そしてクライマックスへ至る“即興ドラマ”の作り方を学ぶのに最適です。複数のライブ盤を聴き比べることで、同じ曲でも日によって異なる選択をしていることが分かり、表現の幅を知れます。

アルバムごとの聴きどころ(技術・表現の観点)

  • モチーフの扱い方を見る
    Patは短いモチーフを繰り返し発展させるのが巧みです。あるフレーズを繰り返しながら、少しずつ変化を加えていくプロセス(リズムやピッチ、装飾の変化)に注目してください。モチーフ・ベースのソロ構築は聴き手にも分かりやすい“物語”を与えます。

  • ハーモニーへのアプローチ
    単なるスケール縛りではなく、和音の内声の動きや代理コードの使い方に工夫があります。セカンダリー・ドミナントやモーダル・インターチェンジをソロの中でどう利用しているか、耳で追うとハーモニー理解が深まります。

  • タイム感とフレージング
    パットはタイム(時間感覚)を自在に操作します。アップテンポでもフレーズの「重心」を後ろに置いてグルーヴを生むことがあるので、単にノートの速さだけでなく“どこに重みを置いているか”を意識して聴いてみてください。

  • 音色とタッチの多様性
    ソロの中でピッキング強弱、右手のニュアンス、ミュートやレガートの割合を変えることで表情を作っています。録音ごとにトーンが異なる場合、それを表現手段としてどう使っているかを比較するのも面白いです。

聴き方・学び方の具体的アドバイス

  • ディープリスニングの習慣化
    1曲を選び、テーマ→ソロ→テーマの流れを数回聴き込みます。ソロをフレーズごとに区切って、似たモチーフがどう変化していくかメモすると解析が容易になります。

  • トランスクライブ(書き起こし)を重ねる
    短いフレーズを耳で追い、タブや譜面に起こす作業はPatの言語感覚を身につける最短の近道です。最初は数小節単位でOK。微妙なアクセントやタイミングを耳で掴むことが重要です。

  • モードとターゲット・ノートに注目
    彼のソロでは“ターゲット・ノート”(解決点)に向かうための通過音が多用されます。どの音を目標にしているかを意識するとフレーズの機能が理解しやすくなります。

  • ライブ演奏の比較
    同じ曲のライブ/スタジオを比較して、即興の選択の幅やフレーズの“揺らぎ”を観察しましょう。瞬間の選択がその日の演奏の個性を作ることがよくわかります。

どの盤から始めるべきか(初心者〜中級者向け推薦順)

  • まず「初期リーダー作(El Hombre 等)」でパットのメロディセンスとハードバップ的語法を掴む。

  • 次に「Baiyina」のようなモード/実験作で音楽語彙を広げる。

  • 復活後の作品やライブ盤で、より成熟した表現・即興構築を学ぶ。

最後に — Pat Martinoを聴く価値

Pat Martinoの音楽は純粋に「ギターが語る」楽しさに溢れています。速弾きや技巧だけでなく、メロディーの選択、モチーフの発展、ハーモニーへのアプローチ、そしてライブでの即興ドラマの作り方まで、学びどころが非常に多いアーティストです。おすすめ盤を手がかりに、繰り返し聴いてトランスクライブしてみてください。聴くたびに新しい発見があるはずです。

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