サードパーティクッキーの完全ガイド:基本概念から規制・代替手段・実務対策まで
サードパーティクッキーとは — 概念と基本
サードパーティクッキー(third-party cookie)とは、ユーザーがアクセスしているウェブサイト(ファーストパーティ)とは別のドメインが発行・読み書きするクッキーのことを指します。例えば、example.com を閲覧しているページ内に ads.example-ad.com(広告ネットワーク)や analytics.example-analytics.com(解析サービス)のコンテンツ(iframe、画像、スクリプト等)が組み込まれている場合、これらの別ドメインが発行するクッキーが「サードパーティクッキー」です。
技術的な仕組み(簡潔な説明)
HTTPの仕組み上、サーバーはレスポンスヘッダにSet-Cookieを含めてクッキーを発行できます。ブラウザがそのレスポンスを受け取ると、指定されたドメイン・パス・有効期限・属性(Secure、HttpOnly、SameSiteなど)に基づいて保存します。ページ読み込み時に埋め込まれたサードパーティのリソースがレスポンスヘッダでSet-Cookieを返すと、そのドメインのクッキーが保存され、次回そのドメインへリクエストが送られる際にCookieヘッダが付与される、という流れです。
例(概念):
Set-Cookie: uid=abc123; Domain=tracker.example; Path=/; Secure; HttpOnly; SameSite=None; Max-Age=31536000
上記のように SameSite=None が明示され、Secure が付与されていれば、クロスサイトリクエストでも送信されうるサードパーティクッキーになります(最新ブラウザでの挙動に依存します)。
なぜ使われてきたのか — 主な用途
- 広告トラッキング:ユーザーをサイト間で識別し、行動に基づくターゲティング広告を配信するため。
- クロスサイト解析/計測:複数サイトにまたがる訪問経路やコンバージョン計測。
- ソーシャルウィジェット:Likeボタン等がユーザーを識別して外部サービスの状態を維持。
- ログインやセッション管理(ただし重要なサービス上は通常ファーストパーティで行う)
プライバシー上の懸念
サードパーティクッキーはサイトを跨いだユーザー行動の長期的な追跡を可能にするため、個人の行動プロファイルを構築できてしまいます。これによりプライバシー侵害や無断データ収集、望まないターゲティングが問題視され、規制・ブラウザベンダーによる制限の対象となりました。
ブラウザや仕様の対応状況(概観)
- Safari(Apple/WebKit): Intelligent Tracking Prevention(ITP)によりサードパーティクッキーは厳しく制限されており、デフォルトで第三者追跡を阻止する仕組みが導入されています。
- Firefox(Mozilla): Enhanced Tracking Protection により既定で第三者トラッキングのブロックが有効です。
- Chrome(Google/Chromium): 長らく段階的な移行計画(Privacy Sandbox)を示しており、SameSite デフォルト値の導入や各種制限、Privacy Sandbox API(Topics、FLEDGEなど)の開発・検証を進めています。完全な取り扱いは段階的で、仕様と実装は変化しています。
- SameSite 属性: 現代ブラウザは SameSite のデフォルトを Lax にする等の変更を行い、クロスサイト送信は制限される方向です。クロスサイトでクッキーを送るには SameSite=None を明示する必要があり、さらに Secure が要求されることが多いです。
法規制(簡潔)
欧州のGDPRやePrivacy指令(各国での実装)では、トラッキング目的のクッキーについてはユーザーの同意(インフォームドコンセント)を得ることが求められます。その他の地域でもプライバシー保護の流れが強まり、クッキー利用には透明性と同意管理が重要になっています。
サードパーティクッキー廃止の影響
- 広告業界: 個別ユーザーを識別する従来のクロスサイトターゲティングやリターゲティングは難しくなり、広告の配信・計測モデルの再設計が必要になりました。
- 分析・計測: 従来のクロスサイト計測や重複ユーザーの把握が困難に。ファーストパーティデータやサーバーサイド計測への移行が進んでいます。
- サイト運営者: サードパーティ依存のウィジェットや広告ソリューションは見直す必要があり、ユーザー体験や収益モデルにも影響します。
代替技術とアプローチ
- ファーストパーティクッキーの活用:自サイトドメインでのデータ収集を重視する。ログインベースのIDやファーストパーティの計測スニペットを活用。
- サーバーサイドトラッキング(サーバーサイドでイベントを集約・送信):クライアント側の制限を回避しつつ、プライバシーと透明性を確保する実装が増加。
- Privacy Sandbox系API(例:Topics API、FLEDGE / Protected Audienceなど):ブラウザ上で集約・匿名化した情報を広告に提供する試み。ただし議論と実験が続いている
- コンテキスト広告:ユーザー行動ではなくページの文脈に基づく広告配信に回帰する動き。
- プロバイダ間の「ファーストパーティセット」等の業界標準(同意のもとでのID共有など)の模索
- ブラウザフィンガープリント回避や合成IDの導入(ただしプライバシー懸念と規制の観点で注意が必要)
開発者・運営者向けの実務的な対策
- 依存箇所の洗い出し:どの機能がサードパーティクッキーに依存しているかを特定する。
- ファーストパーティ化:可能な限り計測・認証等をファーストパーティに移行する。サーバーサイドでイベントを受けて処理する設計が有効。
- 同意管理(CMP)の実装:GDPR等に対応するため、ユーザーに明示的な同意選択肢を提示・記録する。不要なサードパーティスクリプトは同意依存にする。
- Cookie属性の正しい指定:SameSite、Secure、HttpOnly、適切なDomain/Path、有効期限の設定を行う。
- 代替指標の採用:クッキーベースでない集計方法(ロールアップ集計、確率的推定、サンプルベースの計測)やコンテキスト指標を検討する。
- ユーザー透明性:プライバシーポリシーと実装を一致させ、何を収集しどう使うかを明確にする。
検証・デバッグの方法
- ブラウザ開発者ツールの「Application / Cookies」などでクッキーの発行元・属性を確認する。
- ネットワークパネルで Set-Cookie ヘッダの有無を確認する。
- プライバシー系拡張やブラウザの追跡防止設定を切り替えて挙動比較を行う。
- プレビュー環境で CMP を有効にして、同意あり/なしの際のサードパーティスクリプト挙動を検証する。
まとめ(要点)
サードパーティクッキーは長年ウェブの広告・解析インフラとして機能してきましたが、プライバシー懸念と規制、ブラウザの仕様変更により、その利用は大幅に制限されつつあります。開発者や広告・分析担当者は、サードパーティクッキーに依存する設計を見直し、ファーストパーティデータの活用、サーバーサイド計測、ユーザー同意管理、ブラウザベンダーが提示するPrivacy Sandboxのような代替手段の検討を進める必要があります。ユーザーのプライバシー尊重と透明性を前提に、新しいトラッキング/計測の方法を設計することが今後の重要な課題です。
参考文献
- MDN Web Docs — HTTP cookies(日本語)
- IETF RFC 6265 — HTTP State Management Mechanism
- MDN — Set-Cookie ヘッダー(日本語)
- Chrome Privacy Sandbox(Google)
- Mozilla — Enhanced Tracking Protection(日本語)
- Apple WebKit — Intelligent Tracking Prevention
- EU GDPR(英文)
- European Commission — ePrivacy rules and guidance


