Broadcast(ブロードキャスト)— ハウントロジーを体現する英国インディの音世界と名盤ガイド

Broadcast — 概要とプロフィール

Broadcast(ブロードキャスト)はイングランド、バーミンガム出身のバンドで、1995年にトリッシュ・キーナン(Trish Keenan:ボーカル、キーボード)とジェームズ・カーギル(James Cargill:ベース、サウンド・プロダクション)を中核に結成されました。1990年代後半から2000年代にかけて、1960年代のポップ/サイケデリア、ライブラリー・ミュージック、モダンな電子音楽を独自に融合させたサウンドで注目を集め、その後の“ハウントロジー(hauntology)”的な美学に大きな影響を与えました。

なぜBroadcastは特別なのか — 音楽的な魅力の深掘り

  • 時代を歪める“懐古と未来”のバランス

    Broadcastの音楽は、60年代のガール・グループやライブラリー音楽、テレビ/映画のサウンドトラック的な要素をモダンな電子プロダクションと組み合わせます。結果として“どこか古く、しかし今聴くと新しい”独特のタイムレス感を生み出します。

  • トリッシュ・キーナンの声と歌唱表現

    トリッシュの声は淡く、ドリーミーでありながら冷静さを保つ特徴があります。抑制された発声とささやきめいたフレージングにより、楽曲に不穏で神秘的な空気を与え、聴き手の想像力を刺激します。

  • アレンジの緻密さと“低解像度”の美学

    オーケストラヒットやアナログシンセ、ループ、エフェクト処理を巧みに組み合わせ、透明感のある層状サウンド(レイヤー)を構築します。完璧にクリアにするのではなく、レトロな機材のノイズやテープ的な色味を残すことで、温度感と距離感を同居させます。

  • 映画音楽的な構成とストーリーテリング

    多くの楽曲においてメロディーやリズムよりも“ムード”を優先する構成がとられ、断片的なフレーズや間(ま)で情景を描写する手法が目立ちます。このため、聴く者は曲の中に小さな物語や挿話を見出すことができます。

  • コラボレーションと視覚表現の統合

    アートワークやコラージュで知られるJulian Houseらとのビジュアル面での協働により、音と映像(ジャケット/アートディレクション)が密接に結びついた世界観を提示しました。音楽が一つの“メディア体験”として受け取られる要因となっています。

代表作・名盤の紹介

  • The Noise Made by People(2000)

    フルアルバム・デビュー作。アナログ感とポップなメロディーのバランスが秀逸で、Broadcastの核となる音世界が確立された作品です。サイケデリックな要素とモダンなリズムメイクが同居します。

  • Haha Sound(2003)

    よりビート志向で洗練されたプロダクションが特徴。ポップさと実験性の両立が進み、バンドとしての表現幅が広がったアルバムです。

  • Tender Buttons(2005)

    エレクトロニカ色を強め、断片的でミニマルな曲構成に踏み込んだ作品。商業的・伝統的なポップソングの形からさらに距離を取った実験性の高いアルバムです。

  • Broadcast and The Focus Group Investigate Witch Cults of the Radio Age(2009)

    Julian House率いるThe Focus Groupとのコラボレーション作品。よりコラージュ的でサウンドコラージュ的なアプローチが強く、バンドの“ハウントロジー”的美学を象徴する一枚とされています。

  • The Future Crayon(編集盤、2006)

    シングルやB面、未収録曲を集めた編集盤で、コアなファンにとってはバンドの多彩さを再確認できる内容です。

サウンドの作り方(制作上の特徴)

  • アナログ機材やヴィンテージ音源の質感を生かしつつ、現代的なサンプリングやシーケンスを取り入れることで、古さと新しさを同居させます。

  • ボーカルのマイク処理やエフェクトで“距離感”を作ることが多く、意図的に奥行きのあるミックスを作成します。

  • サウンドデザイン的な要素(効果音的なループ、断片的なフレーズ)を曲の構造に組み込むことで、繰り返し聴くたびに新しい発見がある設計にしています。

ライブ/映像表現と体験

ライブは決して派手ではなく、むしろ観客を音に引き込む“映画の一場面”のような演出を重視しました。ビジュアル・アートワークやステージの照明、スクリーン映像などと音楽が一体化する形式を好み、コンサートは単なる“演奏”以上の没入体験となりました。

影響とレガシー

  • Broadcastは2000年代のインディ/エレクトロニカ周辺の多くのアーティストに影響を与え、“ハウントロジー”と呼ばれるムーブメントの代表的存在の一つと見なされています。

  • トリッシュ・キーナンの早すぎる死(2011年)は音楽界に大きな喪失感をもたらしましたが、作品群はその後も新しいリスナーやミュージシャンに発見され続けています。

Broadcastの音楽に惹かれる理由 — 聴き手の視点

  • ノスタルジアを呼び起こすが単純なレトロ回帰ではない、時間軸が曖昧な感覚がある

  • 細部に仕掛けられた音のテクスチャやエフェクトを見つける楽しみがある

  • ボーカルの儚さと均衡したプロダクションが作る“夢のような”聴覚体験

  • アルバムで通して聴くと一つの短編映画を観たような満足感が得られる

これからBroadcastを聴く人へのガイド

  • まずは『The Noise Made by People』でバンドの基礎的な美学を掴み、その後『Haha Sound』『Tender Buttons』、『Broadcast and The Focus Group...(2009)』へと辿ると変化と広がりが分かりやすいです。

  • アルバム全体を通して聴くことを推奨します。個々の曲も魅力的ですが、流れ(曲順)や音の積層が重要な要素です。

  • ヘッドフォンや良質なスピーカーで聴くと、微細なテクスチャや空間表現をより楽しめます。

まとめ

Broadcastは、ノスタルジックな素材と現代的な音響感覚を融合させ、聴く者を時間と空間の狭間に誘うユニークな音楽世界を築きました。ポップと実験の境界を自然に行き来するその作品群は、今なお新しいリスナーを惹きつけ、世代を越えて影響を与え続けています。

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参考文献