ミシェル・ルグラン徹底解説:映画音楽の巨匠が生み出す名曲とジャズ的和声の魅力
プロフィール
ミシェル・ルグラン(Michel Legrand, 1932–2019)は、フランス出身の作曲家、編曲家、指揮者、ピアニストです。映画音楽、ジャズ、ポップスの領域を自在に横断し、叙情的でジャジーな和声感覚、豊かなオーケストレーション、魅力的なメロディで世界的に知られています。映画監督ジャック・ドゥミとのコンビによるミュージカル映画(例:『シェルブールの雨傘』)の音楽や、英語圏のヒット曲「The Windmills of Your Mind」(邦題:風のささやき)などで国際的な評価を獲得しました。
キャリアと主なハイライト
- 映画音楽:ジャック・ドゥミ作品の音楽(Les Parapluies de Cherbourg『シェルブールの雨傘』、Les Demoiselles de Rochefort『ロシュフォールの恋人たち』など)で広く認知されました。ハリウッドとも深く関わり、『The Thomas Crown Affair』(1968)などで国際的に評価を得ました。
- 名曲の創作:「The Windmills of Your Mind」は映画『The Thomas Crown Affair』のために書かれ、英語詞はアラン&マリリン・バーグマンが担当。独特の循環するイメージと和声進行で強烈な印象を残す楽曲です。
- ジャズとの接点:自身のアルバムやスタジオ作品で、当代の名手を起用した編曲・指揮を行い、ジャズ界とも密接な交流を持ちました。特に1950〜60年代のジャズ/ポップスの録音で重要な役割を果たしました。
- 国際的評価:映画音楽・歌曲のヒットによりアカデミー賞やグラミー賞で高く評価され、多くの国際的アーティストと共演・共作しました。
代表曲・名盤(入門におすすめ)
- Les Parapluies de Cherbourg(シェルブールの雨傘)サウンドトラック(1964)
全編歌で構成されたミュージカル映画のサウンドトラック。主題歌はポップで切ないメロディが印象的で、ルグランのメロディメイカーとしての才がよく分かります。
- Les Demoiselles de Rochefort(ロシュフォールの恋人たち)サウンドトラック(1967)
カラフルで洒落たオーケストレーションとジャズの要素が融合した映画音楽。シネマティックでありながら軽快なリズム感も魅力です。
- The Thomas Crown Affair(1968)サウンドトラック — 「The Windmills of Your Mind」
循環的でイメージ性の強いテーマ曲。映画音楽としてだけでなくスタンダードとしても広くカバーされています。
- Legrand Jazz(1958)
当時の著名なジャズ奏者を多数迎えたアルバム。ルグランのジャズ的な編曲能力と、オーケストラを攪拌する感覚が聴ける名盤です。
- The Summer of '42(サマー・オブ・'42)サウンドトラック(1971)
温かくノスタルジックな旋律を基調としたスコア。映画の郷愁を音楽で見事に表現しています。
音楽的特徴と魅力の深掘り
- メロディの魅力:ルグランのメロディは「歌える」ことが多く、シンプルさの中に微妙な転調や装飾が施されているため、一度聴くと耳に残ります。映画的なナラティブを短いフレーズで語る力量があります。
- 和声(ハーモニー)の豊かさ:ジャズ由来のテンション・コードや拡張和音を取り入れつつ、フランス音楽的な色彩(ドビュッシーやラヴェルの影響を感じさせるモード感や色彩和音)を融合させます。このため、甘美でありながらどこか切ない、複雑さを帯びた響きが生まれます。
- 編曲・オーケストレーション:管弦楽の使い方が非常に巧みで、弦楽器のレイヤー、木管の色彩、ハープやマリンバなどのパレット的使用で情景を描きます。ジャズソロをオーケストラの中で自然に浮かせる手腕も特筆されます。
- リズム感とスウィング:映画音楽であってもジャズ的なスウィング感やリズム変化を取り入れ、単なる伴奏に終わらない「躍動」を音楽にもたらします。
- 言葉と音楽の調和:英語詞・仏語詞の双方で歌になる曲を多く残しており、歌詞と音楽の親和性が高いのも特徴です。バーグマンズとの共作(英語詞)は特に名高いです。
聴きどころ・鑑賞のポイント
- まずは主旋律を追い、その後で伴奏や内声部の動きを注意して聴くと、和声の工夫や転調の妙が分かります。
- 映画音楽では「場面とテーマの対応」を意識して聴くと、ルグランがどのように物語を音で補強しているかが見えてきます。
- ジャズ寄りの編曲作品ではソロ楽器の表現とオーケストラ間の対話に注目すると、ルグランの編曲センスの高さが理解できます。
影響とレガシー
ミシェル・ルグランは映画音楽家としてだけでなく、編曲家・ピアニストとしての側面でも後世の音楽家に影響を与えました。ポップスやジャズ、クラシックの境界を越える姿勢は現在の映画音楽やクロスジャンル作品にも脈々と受け継がれています。また、多くの楽曲がスタンダードとしてカバーされ続け、世代を超えて親しまれています。
聴き始めガイド(短めのプレイリスト案)
- 「Les Parapluies de Cherbourg」サウンドトラック:作品として一気に聴く(映画と合わせるのが理想)
- 「Legrand Jazz」:ジャズ編曲/指揮としての側面を楽しむ
- 「The Windmills of Your Mind」:名曲のメロディと和声をじっくり味わう
- 「The Summer Knows(Theme from The Summer of '42)」:映画スコアの叙情性を堪能する
まとめ — なぜルグランは魅力的なのか
ルグランの音楽は映画的な情景描写とジャズ由来の和声・リズム感、そしてポップな歌心を高度に融合させています。技術的に高度でありながら感情に直接訴えかけるメロディを持ち、聴き手を物語の中へと誘う力があります。多様なジャンルを横断する柔軟性と独自の色彩感覚が、彼の作品を時代を超えて輝かせ続けています。
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参考文献
- Michel Legrand — Wikipedia (英語)
- Michel Legrand — AllMusic
- Michel Legrand obituary — The Guardian
- Michel Legrand, Composer of Elegant Film Scores, Dies at 86 — The New York Times
- Michel Legrand — Discogs


