ミシェル・ルグランの名盤ガイド:映画音楽とジャズを横断する聴き方とおすすめ作品一覧
はじめに — ミシェル・ルグランという作曲家
ミシェル・ルグラン(Michel Legrand)は、映画音楽とジャズを自在に行き来したフランスの作曲家/編曲家/指揮者です。メロディの美しさ、和声の独自性、そして歌や映画の感情に寄り添う丁寧な仕立てが特徴で、ポピュラー音楽やジャズ、シネマティックな響きを横断する作品群を残しました。本稿では、レコード(オリジナル・サウンドトラックやアルバム)を中心に、聴く価値の高い名盤を深掘りして解説します。
おすすめレコード一覧と深掘り解説
Legrand Jazz(1958)
概要:ルグランがジャズ・オーケストラ/ビッグバンドを率いて録音したアルバム。スタンダードやオリジナル曲を、緻密な編曲とダイナミックなアンサンブルで聴かせます。
- 聴きどころ:映画音楽的な色彩を残しつつ、ジャズの即興性を織り込んだアレンジ。オーケストレーションの妙が随所に光ります。
- 音楽的意義:ルグランが“ジャズ・コンポーザー/編曲家”としての側面を示した代表作で、フランス流の洒落たコード進行と大編成サウンドの幸福な混交を楽しめます。
- おすすめの曲:アルバムの序盤〜中盤にかけてのアレンジ曲群(聴く際はアルバム全体の流れを味わってください)。
Les Parapluies de Cherbourg(『シェルブールの雨傘』オリジナル・サウンドトラック、1964)
概要:ジャック・ドゥミ監督のミュージカル映画『シェルブールの雨傘』の完全歌詞付きサウンドトラック。劇中はセリフまでも旋律に乗せて語られる“全編歌”のスタイルです。
- 聴きどころ:甘く切ない旋律と、映画の叙情をそのまま伝えるソングライン。ルグランのメロディ・メイキングの頂点の一つです。
- 代表曲:「I Will Wait for You(いつか王子様が)」の原型ともいえるテーマは、後に数多くカバーされるスタンダードになりました。
- 音楽的意義:ポップス、ジャズ、映画音楽の境界を溶かした革新的なサントラ。歌を中心に映画の物語を音楽で紡ぐ方法を示しました。
Les Demoiselles de Rochefort(『ロシュフォールの恋人たち』オリジナル・サウンドトラック、1967)
概要:ロマンティックで踊りやすいリズム、ポップかつ映画的なスコアが魅力のミュージカル映画サウンドトラック。ルグランの軽快なアレンジと、映画の夢見心地な色調が一体になっています。
- 聴きどころ:ホーンやストリングスの編成を活かした華やかなアレンジ、そしてキャッチーなメロディ。聴くと視覚的な色彩まで思い浮かべるような音世界です。
- 代表曲:軽快なミュージカル・ナンバー群(劇中のデュエットや合唱パートなどが特に印象的)。
- 音楽的意義:フレンチ・ミュージカルの華やかさとポップセンスを世界に示した一枚で、映画サントラの“楽しさ”を強調する好例です。
The Thomas Crown Affair(『華麗なる賭け』オリジナル・サウンドトラック、1968)
概要:このサウンドトラックから生まれた「The Windmills of Your Mind(邦題:風車の眩惑/回転木馬のテーマ)」は、世界的に知られるルグランの代表曲の一つで、アラン&マリリン・バーグマンらが歌詞を付けた英語版も有名です。
- 聴きどころ:ルグラン独特の循環進行と、不思議な浮遊感を伴うメロディ。映画の心理的・哲学的な層を音で描き出しています。
- 代表曲:「The Windmills of Your Mind」 — 複数のアーティストにカバーされ、映画史にも残る一曲。
- 音楽的意義:映画のムードを一つの主題で掴む能力が顕著に表れた作品。ポップ/ジャズ/映画音楽が交差する点を示します。
Summer of ’42(『42才の夏』オリジナル・サウンドトラック、1971)
概要:柔らかくノスタルジックなテーマ「The Summer Knows」(邦題:夏は来ぬに近い名旋律)で知られるスコア。映画的な叙情性を前面に出した、ルグランのメロディ・メーカーとしての成熟を感じる一枚です。
- 聴きどころ:抒情的で淡いピアノやストリングスの扱い、時折忍び寄るジャズの色合いが、映画の追憶性を支えます。
- 代表曲:「The Summer Knows」 — 多くの歌手やインストゥルメンタル奏者に取り上げられた名テーマ。
- 音楽的意義:ルグランの“歌心”が器楽的に発揮された作品で、映画サウンドトラックとしての感情の語り口が非常に整理されています。
その他:歌手との共演アルバムやプロジェクト
ルグランは映画音楽だけでなく、ジャズ/ポップの歌手との共作や編曲制作でも多くの名演を残しました。アラン&マリリン・バーグマンらの作詞家と組んだ歌物はとくに名高く、さまざまな歌手が彼の曲を採り上げています。
- ポイント:映画主題歌がインストやジャズ編成で再提示されることが多く、原曲とは別の魅力が発見できます。
- 注目点:歌詞の異なる英語版/仏語版がそれぞれ違った表情を見せることがあるため、複数バージョンを比較するのも楽しみの一つです。
聞き方・選盤の視点(音楽的アプローチ)
ミシェル・ルグランの魅力を深く味わうためのポイントを音楽的に整理します(レコードの物理的扱いの話は除外します)。
- 主題旋律に注目する:ルグランの楽曲は一度聴いただけで頭に残る“主題”が骨格。まずはテーマを追い、変奏や編曲がどのようにそのテーマを展開するかを聴き比べてください。
- 和声の動きを追う:モダンな和声感覚(時に循環進行や非機能和声)を映画の情緒に合わせて用いることが多いので、コードの動きが感情に与える影響を味わうと理解が深まります。
- 編曲と色彩感:ストリングス、ホーン、リズムセクションの取り合わせで情景描写をするタイプの作曲家です。編成の違いで同じテーマでも印象が大きく変わる点に注目しましょう。
初心者におすすめの入門順
- まずは映画サウンドトラックの名曲群(『シェルブールの雨傘』『華麗なる賭け』の主題)でメロディを覚える。
- 次に『Legrand Jazz』などのインスト作品で編曲・オーケストレーションの幅を確認する。
- 最後に歌物や別ヴァージョン(英語詞・仏語詞の違い)を比較して、ルグランの“曲が持つ多面性”を楽しむ。
コレクション上の注意点(版やヴァージョンの見方)
どのレコード(オリジナル盤やリイシュー)を選ぶかで聴感が変わることがあります。以下は音楽的に注意したい点です(再生・保管・メンテナンスの話は省きます)。
- サウンドトラックは映画で使われたオリジナル・ミックスと、映画用に再レコーディングされたスタジオ・アルバムが存在することがあるため、どちらの“音”を求めているかを確認する。
- 別テイクやボーナストラックの有無で編曲や演奏の違いが楽しめることがあるので、詳しいライナーノーツが付いた盤を選ぶのも一手です。
まとめ
ミシェル・ルグランは、印象的な旋律と巧みな編曲で映画・ジャズ・ポップス界に強い影響を与えた作曲家です。まずは代表的なサウンドトラック(『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』『華麗なる賭け』『42才の夏』)と、ジャズ寄りの作品(Legrand Jazz)を押さえると、その音楽世界の広がりを実感できるでしょう。各盤は、同じテーマでも編曲や歌詞の違いで別の魅力を見せるので、比較鑑賞がおすすめです。
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参考文献
- Michel Legrand — Wikipedia (英語)
- Legrand Jazz — Wikipedia (英語)
- The Umbrellas of Cherbourg — Wikipedia (英語)
- The Young Girls of Rochefort — Wikipedia (英語)
- The Thomas Crown Affair (film) — Wikipedia (英語)
- Summer of '42 — Wikipedia (英語)
- Michel Legrand — AllMusic(ディスコグラフィ等)


