LANケーブル完全ガイド:Cat5e〜Cat8までの規格と伝送特性、設置ポイントとトラブル対策

LANケーブルとは——ネットワークの「配線」そのもの

LANケーブル(ローカルエリアネットワーク用ケーブル)は、コンピュータやルータ、スイッチ、IPカメラなどの機器間でデータと電力(PoE)を伝送するための物理的な配線です。日常では「イーサネットケーブル」「LANケーブル」「カテゴリケーブル(Cat)」などの呼び方が使われ、家庭から企業のネットワーク、データセンターまで幅広く用いられます。

構造と基本要素

  • 導体(芯線):一般に銅が使われる。24AWGや23AWGなど太さ(AWG)が性能に影響する。安価な「CCA(銅被覆アルミ)」は導電性や耐久性で劣るため注意が必要。
  • 絶縁体:各芯線を絶縁し、ペアごとの特性に影響する。
  • 撚り対(ツイストペア):信号対をねじることで近接からの干渉(クロストーク)を低減する。撚りピッチ(ねじれの密度)が性能に影響する。
  • シールド(有無):UTP(Unshielded Twisted Pair、無シールド)とSTP/FTP/S/FTPなどのシールド付きがある。シールドは外来ノイズや近接ケーブル間の干渉を低減するが、適切な接地が必要。
  • ジャケット(被覆):外皮。難燃性や有毒ガス拡散の規格(PVC、LSZH/LS0Hなど)により用途が分かれる(例:天井やダクト用の「プルーマ(plenum)」対応等)。
  • コネクタ:一般的には8P8Cモジュラーコネクタ(通称RJ45)が用いられる。配線規格としてT568A/T568Bの色順がある。

カテゴリ(Cat)と性能

「Cat(カテゴリー)」はケーブルの性能クラスを示す目安で、周波数帯域や最大伝送速度、耐干渉性の指標になります。代表的なカテゴリとポイントは以下のとおりです。

  • Cat5:旧世代。100Mbps(100BASE-TX)向けが主。現在はほとんど置き換えられている。
  • Cat5e(カテゴリー5e):最大1000Mbps(1GBASE-T)まで対応。家庭・小規模オフィスの標準になっている。
  • Cat6:最大1Gbpsを安定して、条件次第で10GBASE-Tを短距離(概ね最大55m)でサポート。撚り密度が高く、しばしば23AWGが用いられる。
  • Cat6A:10GBASE-Tを最大100mでサポートするよう設計。周波数帯域が高く、シールド付きの製品も多い。
  • Cat7 / Cat7a:ISO/IEC規格に由来する分類で、シールド構造を前提とした高周波対応(Cat7は最大600MHz、Cat7aはさらに高周波まで対応)。ただしTIA/EIAによる公式なカテゴリ名称ではない点に注意。
  • Cat8:25G/40Gなど高速伝送向けに設計され、周波数帯域は最大2,000MHz程度、短距離(一般に最大30m)での高速リンクを意図している。データセンターのトップオブラック接続などで採用される。

伝送特性と評価指標

LANケーブルの性能は複数の電気的指標で評価されます。主要なものは次の通りです。

  • 周波数帯域(MHz):ケーブルが取り扱える信号周波数の上限。カテゴリが上がるほど高周波対応になる。
  • 伝送速度(Mbps/Gbps):プロトコル(100BASE-TX/1000BASE-T/10GBASE-Tなど)とケーブルの組合せで決まる。
  • 減衰(Insertion Loss):長さに伴う信号損失。長くなるほど信号は弱まる。
  • 近端クロストーク(NEXT)/遠端クロストーク(FEXT):同一ケーブル内の他ペアからの干渉を示す指標。撚りやシールドで低減できる。
  • 返品損失(Return Loss):インピーダンス不整合による反射の大きさ。高周波では特に重要。

実務上の注意点(設置と運用)

  • 長さの制限:一般的に水平配線の推奨最大距離は100m(90mの永久リンク + 2×5mのパッチケーブル)。これを超えると規格通りの性能が保証されない。
  • 撚りの維持:接続時にペアの撚りを過度にほどくと性能低下(クロストーク増大)を招く。端末での抜き取り長は短くするのが望ましい(目安として13mm程度まで等の実務ガイドラインあり)。
  • 曲げ半径:ケーブルを急に曲げると導体や絶縁に負荷がかかり性能劣化や断線を招く。一般に外径の4倍以上の曲げ半径が推奨されることが多い。
  • 電源ケーブルとの分離:電力線からの誘導ノイズを避けるため、同一ダクトや束での併設は避け、一定の距離を保つ(国や規格で具体値は異なる)。
  • シールドの接地:STP系は適切な接地が必要。接地されていないシールドは逆にノイズ源となる可能性がある。
  • PoE(Power over Ethernet):ケーブルで給電する場合、電流により発熱が発生するためケーブルの許容温度や四芯すべてを使うか(規格による)、束線時の減衰増加などを考慮する必要がある。IEEE 802.3af/at/btなどの規格に対応するか確認する。

コネクタ配線(T568A/T568B)と互換性

8本の芯線を配列する標準としてT568AとT568Bがある。どちらを採用しても機能的には差はなく、配線の両端で同じ配列にすることが基本。両端で配列が異なるとクロス接続(クロスケーブル)になり、古い機器では通信不良となるが、現代の多くのスイッチやNICは自動MDI/MDIXにより相互調整する。

テストと認証

導通テストだけでなく、実際の性能を保証するにはケーブル認証器(FlukeのようなレベルIII認証器)でNEXT、PSNEXT、減衰、挿入損失、遅延差などを測定することが重要です。大規模導入やデータセンターなどでは必須の工程です。

用途別の選び方(家庭〜データセンター)

  • 家庭/SOHO:将来も見据えてCat5e以上、できればCat6を推奨。一般的な100Mbps〜1Gbps用途に十分。
  • 企業オフィス:1GbEが主流だが、将来的に10GbEを見越すならCat6Aを敷設しておくと安全。
  • データセンター:高密度・高帯域が求められるため、Cat8や光ファイバーの採用が多い。短距離で高帯域が必要な場合にCat8が選択される。

よくあるトラブルと対処法

  • 通信速度が出ない:ケーブルカテゴリ、コネクタの配線ミス、スイッチ/NICの設定(フル/ハーフ、デュプレックス自動設定)を確認。
  • リンクが途切れる:物理的な断線、コネクタ不良、過度の曲げ、経年劣化をチェック。
  • ノイズやパケットロス:電源線や高周波源との干渉、シールド不良が原因となる。シールド付きケーブルや配線経路の見直しを検討。
  • PoEで機器が動作しない:給電側(PSE)と受電側(PD)の規格互換性、ワット数の確認、ケーブルの許容電流を確認。

将来動向:ツイストペアはまだ進化中

無線技術の進展にもかかわらず、有線LANは低遅延、高安定性とセキュリティ面での優位性から需要が続いています。さらに、IEEEのシングルペアEthernet(例えば産業用途向けのIEEE 802.3cg)や、高速化(25G/40G/100G)に向けたケーブル仕様の進化、PoEの高出力化(IEEE 802.3bt)など、用途に合わせた物理層の拡張が進んでいます。

購入時のチェックリスト

  • 用途(家庭/オフィス/データセンター)に合わせたカテゴリを選ぶ(将来性を踏まえCat6A以上を検討)。
  • 芯線が「ソリッド銅(純銅)」であることを確認(CCAは避ける)。
  • 必要ならシールド(FTP/S/FTPなど)やジャケット材質(LSZH等)を指定する。
  • メーカーの性能試験データや第三者認証(ETL、UL等)があるか確認。
  • 長距離や高出力PoE用途ならAWGや温度特性もチェックする。

まとめ

LANケーブルはネットワークの「目に見える」基盤であり、ケーブルの種類・設置方法・品質によって通信速度や安定性、将来の拡張性が大きく左右されます。用途と将来計画に沿って適切なカテゴリと品質を選び、正しい工事・試験を行うことが、安定したネットワーク構築の基本です。

参考文献