Raspberry Pi 4徹底解説:基本仕様・活用法・運用の完全ガイド
はじめに — Raspberry Pi 4とは
Raspberry Pi 4 は、Raspberry Pi Foundation が開発するシングルボードコンピュータ(SBC)シリーズの中でも大きな進化を遂げたモデルです。2019年に発表されて以降、性能向上や入出力の強化により、教育用途だけでなく、デスクトップ代替、ホームサーバ、メディアセンター、組み込み機器、プロトタイピング、クラスタ構築など幅広い用途で利用されています。本稿ではハードウェア仕様からソフトウェア、活用法、運用上の注意点まで詳しく解説します。
基本仕様(主要スペック)
- SoC:Broadcom BCM2711(クアッドコア ARM Cortex-A72、ARMv8、最大 1.5GHz)
- GPU:VideoCore VI(ハードウェアビデオデコード対応)
- メモリ:1GB / 2GB / 4GB / 8GB LPDDR4(モデルにより異なる。1GBモデルは後期に廃止)
- ストレージ:microSD カード(OS起動)、USB3.0 経由の外部ストレージやネットワークブート対応(ブートローダ更新で有効)
- 映像出力:2 x micro HDMI(最大解像度:シングル4Kp60またはデュアル4Kp30)
- USB:2 x USB 3.0、2 x USB 2.0
- ネットワーク:True Gigabit Ethernet、802.11ac(Wi‑Fi 5)、Bluetooth 5.0
- 電源:USB-C 5V/3A(公式電源推奨)
- 入出力:40ピンGPIOヘッダ、DSIディスプレイコネクタ、CSIカメラコネクタ、4極 3.5mm アナログ AV
ハードウェアの詳細とポイント
Raspberry Pi 4 では SoC とメモリ周りが大幅に強化され、従来モデル(Pi 3 系)と比較してCPU性能、メモリ帯域、GPU性能が向上しました。特にLPDDR4メモリ採用とUSB 3.0の導入は、ストレージや外部デバイス利用時の実効性能を大きく改善します。
- CPU/GPU:Cortex‑A72 は Cortex‑A53 ベースの旧モデルより命令処理能力が高く、一般的なアプリケーションやデスクトップ操作が快適になりました。VideoCore VI により4K映像のデコード支援が可能です。
- 映像出力:2つの micro HDMI を備え、マルチディスプレイ環境が構築できます。単一ディスプレイでは4K/60Hz出力、デュアルでは最大4K/30Hz×2がサポートされています(利用するコーデックやプレイヤーによって差があります)。
- ストレージとUSB:USB 3.0 ポートを通じてSSDを接続すれば、microSD 単独時より大幅にI/O性能が向上します。公式ブートローダを最新にすればUSBからの直接ブートも可能です。
- ネットワーク:Pi 4 では実効ギガビットイーサネットが利用でき、NAS やストリーミングサーバ用途にも適しています。Wi‑Fi は 802.11ac(5GHz)をサポートします。
メモリ構成とモデル選び
Pi 4 は発売時に 1GB / 2GB / 4GB のラインナップで登場し、後に 8GB モデルが追加されました。用途に応じた選択が重要です。
- 教育や軽いプロジェクト、ヘッドレス(画面なし)サーバ:2GB で十分な場合あり。
- デスクトップ用途、複数アプリを同時に使う場合:4GB 推奨。
- コンテナ多数、メモリ集約型アプリ、大規模なブラウザ利用:8GB が有利。
ソフトウェアとエコシステム
公式OSは Raspberry Pi OS(旧 Raspbian)。Debian ベースで Pi のハードウェアアクセラレーションや GPIO などに最適化されています。近年は 64bit 版も提供され、メモリをフルに活かす用途や一部アプリでの性能向上が期待できます。
- 主なOS:Raspberry Pi OS(32/64bit)、Ubuntu(arm64)、LibreELEC(メディア中心)、その他のLinuxディストリや特殊なイメージ。
- 公式ツール:Raspberry Pi Imager によりOSの書き込みやブートローダの更新が容易。
- サードパーティのサポートも豊富で、Docker、Kubernetes(軽量構成)、Home Assistant、Kodi など多様な用途に対応。
GPIO と拡張性
40ピンGPIOヘッダは従来どおり利用可能で、センサーやモータ制御、I2C、SPI、UART 等の電子工作に対応します。HAT(Hardware Attached on Top)規格により、PoE HAT、オーディオ HAT、拡張ボードが豊富に揃っています。また Compute Module 4(Pi 4 系のモジュール版)を使えば産業用途やカスタムボード製作の柔軟性が高まります。
実運用上の注意点・ベストプラクティス
- 電源管理:公式の 5V/3A USB-C 電源を使用してください。非準拠の USB-C ケーブルや電源だと不安定になります(初期の Pi 4 は一部ケーブルで電源検出の問題がありましたが、後期基板リビジョンで改善されています)。
- 冷却:高負荷時は温度上昇によるサーマルスロットリングが発生するため、ヒートシンクやファン、ケース内エアフローを検討してください。長時間の負荷や4K動画再生などでは冷却が顕著に効果を発揮します。
- ストレージ:microSD は手軽ですが耐久性・性能に限界があります。長期運用や高 I/O が必要な場合は USB 3.0 接続の SSD を推奨します。
- バックアップとアップデート:定期的なイメージバックアップとソフトウェア更新(apt update/upgrade、ファームウェア更新)を行ってください。OSのセキュリティパッチは重要です。
- 互換性:Windows のフルサポートは公式にはありません(ARM 向け Windows のコミュニティポートは存在しますが商用利用やサポートは限定的)。Linux 系 OS を中心に選ぶのが現実的です。
代表的な活用例
- 低価格デスクトップPC(ブラウジング、文書作成、軽い開発)
- ホームメディアセンター(Kodi 等で 4K 再生も可能)
- NAS / プライベートクラウド(小規模)
- IoT ゲートウェイやセンサーハブ
- 教育用プラットフォーム(プログラミング学習、電子工作)
- クラスタリング(学術・趣味の分散処理、Kubernetes 小規模クラスター)
限界と注意点
Pi 4 は多用途でコストパフォーマンスに優れますが、以下の点に注意してください。
- 高負荷のサーバや大規模データベース、重いコンパイル作業などは専用PCやクラウドに及ばない場合が多い。
- ストレージやI/Oは改善されているとはいえ、同価格帯の x86 PC に比べ万能ではないため、用途に応じてSSDや外部リソースの併用を検討する必要がある。
- 産業用途で長期供給や廃番リスクを考える場合は Compute Module や商用サプライヤーのサポートを評価する。
まとめ
Raspberry Pi 4 は「小型・低消費電力・低価格」でありながら、デスクトップ用途やマルチメディア、組み込み用途まで幅広く対応する汎用性の高いシングルボードコンピュータです。適切な電源・冷却・ストレージを用意し、用途に合わせてメモリ容量や周辺機器を選べば、個人から教育、プロトタイピング、軽量サーバ運用まで多彩な場面で活躍します。選定・運用時は用途に応じたトレードオフ(性能・耐久性・コスト)を理解することが重要です。


